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「フリマアプリ」は世界のインフラになる

2016年02月25日 公開
2016年04月06日 更新

山田進太郎(メルカリ社長)

 

世界の「シェア」のインフラを目指す

 

 ――山田社長はメルカリを創業する前に世界一周旅行をされたということですが、その経験は活かされていますか?

山田 よく「旅行中に『メルカリ』を思いついたんですか?」と聞かれるんですけど、旅行中ってけっこう忙しいんですよね。バックパッカーをしていましたから、日中はあちこち移動しますし、夜は次の宿を探したり、そこまでの移動手段をインターネットで検索したりしないといけない。だから、旅行中に何か思いついたわけではありません。

 でも、旅行をしてよかったことはあります。1つは、世界のいろいろな場所にいろいろな人たちがいることを肌感覚で理解できたこと。当社は、日本だけでなく米国でもサービスを始めていて、次はヨーロッパ、さらに途上国へと拡大していこうと考えています。それぞれの場所で受け入れられるにはどういうサービスにすればいいのか、見当がつくようになりました。

 もう1つは、個人間取引のサービスは世界中で必要だということがわかったことです。世界中の誰もが豊かになりたいと思って頑張っているわけですが、たとえばアフリカのすべての人たちが米国人のような生活をしようとすれば、リソースが不足して破綻しますよね。米国でも、今のライフスタイルがずっと維持できるかと言えば、無理だと思います。お互いにモノを交換したりシェアしたりするサービスが必要になるはずです。

 ――大量生産・大量消費の経済は行き詰まる、ということですか?

山田 「行き詰まる」というほどネガティブではないですが、「そういうサービスがあったらもっといいんじゃないか」ということですね。

 ――世界を視野に入れた事業がしたいという考えは、もともとお持ちだったのですか?

山田 そうですね。以前、経営していたウノウをZyngaに売却したのも、世界で使われるサービスにするためには世界的に展開している会社に売却するのがいいと考えたからです。でも、私には日本での事業に集中してほしいということだったので、退社して世界一周旅行に出かけました。

 私が理想とするサービスはスカイプです。スカイプができるまでは、インターネットを介して音声で会話することは、理論上はできたのですが、片方のローカルのIPが固定でないとできないという技術的な問題があって、実際にはごく一部の人しかインターネット通話をできませんでした。そういった点を気にせずに、世界中の人ができるようにしたのがスカイプです。スカイプによって世界中の人たちの生産性が上がりましたし、人生が変わった人もたくさんいるでしょう。

 どうせやるなら、スカイプのように、より多くの人に使ってもらって、世の中をよくしたい。より多くの人というのは、突き詰めれば、世界中の人ということです。それでこそ、自分や会社の存在意義があると思っています。

 ――当面のことでいうと、米国での事業に注力されるのでしょうか?

山田 確かに米国市場に力を入れていますが、英国にも会社を立ち上げて、ヨーロッパ市場にも手をつけ始めています。先ほど『ヤフオク!』の流通額は約8,000億円だと言いましたが、eBayの全世界での流通額は約9.6兆円ですから、世界に出れば事業を10倍以上に伸ばせる可能性があります。

 日本ではソウゾウという子会社を立ち上げました。メルカリのユーザーベースを活かしてできることは山ほどあるので、それをやっていくための会社です。また、『メルカリ』でもまだまだやれることはあります。たとえば、今は扱っていないクルマのようなものも扱えるかもしれない。

 いろいろな方向に伸ばせるチャンスはあるのですが、リソースが限られていますから、今はとくに米国に注力しているということです。

 ――米国やヨーロッパでも日本と同じ戦略を取られるのですか?

山田 そうですね。まずはプロダクトにこだわって市場に受け入れられるサービスにして、それから徐々にプロモーションを強化して、という進め方をしています。

 ――米国と日本とで違いはありますか?

山田 そんなに違わないな、と感じています。GoogleやFacebookなど、今までに流行してきたインターネットのサービスは、アーリーアダプターという人たちがまず使い始めて、そこから普通の人たちに広まっていくというパターンを取っています。それに対して、『メルカリ』は、いきなり普通の人たちがダウンロードして使っているのが特徴で、これは米国でも同じです。出品者の分布を見ると、全米に万遍なく広がっています。

 ――最後に、メルカリが目指す将来像をお教えください。

山田 先ほどお話ししたように、私は、米国のような先進国でも、アフリカのような途上国でも、「シェア」を進めていく必要があると考えています。そして、そのためのツールは、今のところスマホのアプリである可能性が高い。言ってみれば、スマホのアプリがシェアのためのインフラになるわけです。そのインフラに、『メルカリ』はなりたいと思っています。そのインフラから、さまざまなビジネスが派生する形にしていきたい。それにはものすごく時間がかかると思いますが、ぜひやりたいですね。

 理想的には、日本でクルマを出品したら、アフリカの人が買って、提携した会社が配送をしてくれる。そういうサービスができればいいな、と思っています。

 

急成長企業が次に世に出すサービスは何か?

 六本木ヒルズ森タワーにあるメルカリの東京本社オフィスを訪ねると、同社が急成長していることが実感された。オフィスの面積がどんどん拡大しているのだ。社員数は、現在、東京に約100人、仙台に約100人、米国に約30人だそうだが、毎月、さらに増え続けている。創業2カ月目には、エンジニアが病気で突然離脱してしまい、ピンチに陥ったことがあるそうだが、今や開発チームは約60人いるという。

 特徴的なのは、カスタマーサポートの人数の多さだ。社員の約半数以上がカスタマーサポートに従事しているという。その理由は、トラブルが起きてしまった場合に、早く、きちんと対応することが、長期的に見てブランドを築くことになると考えているからだ。「ユーザーが、一度、イヤな思いをすれば、その後10年も、20年も、その方に『メルカリ』を使ってもらえるチャンスを失ってしまう」と山田氏は言う。

 山田氏の言葉からも、『メルカリ』の好調ぶりが感じられた。やれば業績が上がる事業がまだまだあるのに、ありすぎてすべてに手が出せないのがもどかしい、という感じが伝わってきた。『メルカリ』の流通額はどこまで伸びるのか、これからどんな新しいサービスがリリースされるのか、目が離せない企業だ。

 

《写真撮影:まるやゆういち》

著者紹介

山田進太郎(やまだ・しんたろう)

〔株〕メルカリ代表取締役社長

1977年、愛知県生まれ。早稲田大学在学時にインターンとして楽天〔株〕で『楽天オークション』の立ち上げに参加。卒業後はフリーでインターネットビジネスの仕事を請けながら経験を積み、2004年に単身渡米。05年に帰国し、〔株〕ウノウを設立。10年にウノウをZyngaに売却、Zynga Japanゼネラルマネージャーに就任。12年、Zynga Japanを退社し、世界一周の旅に出て20数カ国をバックパッカーとして訪れる。13年、〔株〕コウゾウ(現〔株〕メルカリ)を創業。14年、米国で『メルカリ』のサービスを開始。

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