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組織の生産性を落とす「保険仕事」とは?

2015年12月25日 公開
2023年03月09日 更新

柴田昌治(スコラ・コンサルトプロセスデザイナー代表)

日本的経営が大切にする「和」が長時間労働を生む

年功序列、終身雇用、企業内組合といった、長年、日本的経営の特徴を支えてきた仕組みは、社員間に共同体的な一体感をつくりあげることによって、企業の求心力を形成してきた。この共同体的一体感が、生産現場における改善活動等の後押しとなり、高度成長を支えてきた。

共同体的一体感は人と人とのつながりを緊密にし、お互いに相談しやすい関係をつくることで情報の流れを良くし、新たな知恵を生み出す土壌をつくってきた。

しかし他方では、個を犠牲にして会社と限りなく時間を共にすることで、忠誠心さえ周りに示していれば一人前と認められるという空気、それに起因する極めて効率の悪い長時間労働をもたらした。

日本的経営は、共同体的な要素がもたらす忠誠心やそれに支えられた「上下の隔たりなく同じ釜の飯を食う仲間としての結びつき」など、世界に誇れる伝統をもっている。

しかし他方、ともすれば和を大切にすることから「全体の総意がないとなかなか決められない」「問題を究明するのでなくあいまいにして棚上げしてしまう傾向」「周りの目を気にするあまりおつきあい残業が当たり前になる」といった仕事のやり方が蔓延しやすいという性格も併せもっている。このことが「組織の生産性」を著しく低下させてきたのだ。

休日出勤、長時間の残業など、過労死するほど働いているという意味では間違いなく圧倒的に先進諸国で一番なのに、生産性では下位なのだから、これはどう見ても明らかに病的である。風土・体質の問題と呼んでいるのは、まさにこのような「組織の生産性が著しく低下している」状態、言い換えれば、健全な状態ならば自浄作用として働くはずの「問題解決のサイクルが回らなくなっている」状態を指している。

 

間接部門の効率化を阻む負の論理

これらの組織の「壁」や過剰な「保険仕事」といった「組織の生産性」を阻害する要因に対しては、その現象面だけを取り上げて、「会議の資料はA4サイズ一枚にかぎる」「会議への出席者は各部一名を厳守」「会議は一時間以内」といったルール化を図ってみても、簡単に解消されるわけではない。この種の問題は本質的なところでの問題解決に向けて手を打たないと、結局、形を変えて繰り返される。

「仕事とはこんなものだ」と思っているから「保険仕事」が行われ、確かに問題かもしれないが「それなりの理由がある」と思っているから「保険仕事」は再生産される。誰もが本当に「絶対にしてはならないこと」と感じていることならそう長続きはせず、ある限度を超えて行われることはない。しかし「それなりの理由」があるかぎりは再現される可能性があり、部分的に業務の改善を行っても、いつのまにか元どおりになってしまうのである。

また、いわゆる業務の合理化活動を行って、一見それができたように見えたとしても、合理化した業務の多くが組織の中で生き抜くための保険として行われていたものばかりだとすると、別の形ですぐに再生産されてしまう。

すなわち、間接部門の非効率性は、保険仕事を再生産させていく“組織というものの抱える負の論理”に裏打ちされているため、体質的に問題を抱える組織ではつねに必然性をもって現れる。だから、制度やシステムだけをいくら変えても本質的な問題は何も解決されないのである。

(『日本企業の組織風土改革』より)

(写真撮影:長谷川博一)

著者紹介

柴田昌治(しばた・まさはる)

スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表

1979年、東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。
1986年に、日本企業の風土・体質改革を支援するためスコラ・コンサルトを設立。これまでに延べ800社以上を支援し、文化や風土といった人のありようの面から企業変革に取り組む「プロセスデザイン」という手法を結実させた。社員が主体的に人と協力し合っていきいきと働ける会社をめざし、社員を主役にする「スポンサーシップ経営」を提唱、支援している。2009年にはシンガポールに会社を設立。
著書に、『なぜ会社は変われないのか』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『考え抜く社員を増やせ!』『どうやって社員が会社を変えたのか(共著)』(以上、日本経済新聞出版社)、『成果を出す会社はどう考えどう動くのか』(日経BP社)などがある。

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