2016年01月11日 公開
2016年01月11日 更新
自分が面白いと感じることを具現化しながら、誰にも真似できないスピードで業態開発を進めてきた松村氏。しかし、店に思いどおりにお客が入らないこともある。たとえば、『黒ネコのタンゴ』から着想した『黒豚のタンゴ』という店を吉祥寺に出したときは、客層が若いため『黒ネコのタンゴ』を知らず、うまくいかなかったそうだ。
「店が成功するかどうかの基準は明確です。オープンから2カ月目で単月黒字にできるかどうか、という数字。この基準をクリアできなければ、すぐに業態変更をしてリニューアルします」
その判断の速さは、人事採用の場面でも発揮されてきた。
「以前、新卒の採用面接を私が行なっていたとき、1人の面接にかける時間は3分でした。学生には新店舗のコンセプトをプレゼンしてもらいます。学生が入室するなり、私がストップウォッチを片手に『はい、どうぞ!』と声をかける。3分が経過したら、『はい、合格!』と言って終了です。当時は採用人数が最も多かった時期で、面接が長引くと私が眠くなってしまうのです(笑)。
なぜ一瞬で判断できるのか、言葉では説明しにくいのですが、おそらく学生が入室する瞬間の印象などから判断していたのだと思います。今日この取材に同席している広報担当の社員の場合、『笑顔がいいね!』と言って合格にしました」
直感的に正確な判断が下せるのも、日頃からいろいろなものを見聞きすることで、ブレない判断の軸を作り上げてきたからだろう。社員に対しても、「最近、何を見た?」「何か新しい情報ない?」が口グセだそうだ。貪欲なインプットの習慣が、スピーディな仕事を可能にしているのである。
スピーディな事業展開は、もちろん松村氏1人の力ではない。松村氏と同様にスピーディに仕事をしてきた社員たちの功績でもある。社員をスピーディに動かす秘訣はあるのだろうか。
「仕事を任せることです。私から社員に店のコンセプトを伝えたら、そのあとどう実現するかは社員に任せます。要所要所での判断は私がしますが、細かな指示はいっさいしません」
社員に任せるといっても、任せられるようになるまで育てる必要があるのではないか。そう問うと、「私が社員を育てているわけではない」と松村氏は言う。
「立場が彼らを育ててくれます。店長未経験者に店長を任せると、試行錯誤しながらだんだん店長らしくなっていく。アルバイトとして働き始めたスタッフが社員になり、店長、部長と立場を与えることで成長し、ついにはグループ会社の社長にした例もあります。
大事なことは、いったん仕事を任せたら、任せ切ること。失敗してもいいから任せ切ることで、社員は成長していきます。ただし、責任は社長にあります。問題が起きれば助け船を出し、いざとなればすべての責任を負うのは、社長としての私の仕事です」
成長のスピードは人によって違う。育つ人と育たない人の違いはあるのだろうか。
「仕事への姿勢や努力の違いだと思います。
先ほど例に出したアルバイトからグループ会社の社長になった社員の場合、仕事を2倍の速さでするために歩くスピードを2倍にしたり、厨房では、グラスの取っ手の向きをそろえて置くことで、グラスを取り出す時間をコンマ何秒速める工夫をしたりしています。そうやって生み出したプラスαの時間で、別の仕事をしたり、インプットを増やしたりしている。
学生時代の成長は『足し算』なので、あまり差は開きません。社会人になってからは『掛け算』で成長します。日々学ぼうという意識で仕事に向き合っている人ほど、一気に成長します」
最近、松村氏は、自身が若年性パーキンソン病であることを公表した。病気による仕事への影響をどのように感じているのだろうか。
「病気によって身体の動きが制限されるので、物理的な影響はあります。しかし、五感は冴えわたっていて、判断に支障はありません。判断力は以前よりも磨かれています。
今後は『1,000店舗1,000億円』を目標に、社員一丸となって攻め続けます。私が病気でなかったら、今頃ダイヤモンドダイニングは一人勝ちしていますよ」
《取材・構成:前田はるみ 写真撮影:永井 浩》
《『THE21』2016年1月号より》
更新:11月25日 00:05