2016年01月25日 公開
2021年08月23日 更新
――ヒト型ロボットの開発に区切りをつけたあとは、どうされたのですか?
谷口 ヒト型ロボットには、値段が高いということの他に、歩くことが飽きられるという問題もあります。最初は、歩いたり、自分で起き上がったりするのが面白がられていたのですが、次第に、歩くことが欠点に変わってきたのです。遅くて移動に時間がかかるし、倒れやすいわけですから。しかも、モーターをたくさん使うので、電池が持ちません。
そこで、次に開発した『miuro』(上写真)というロボットは、モーターを2つだけ使って車輪で移動するものにしました。そのほうが速いし、自由に動けるうえに、電池も長く持ちます。
機能については、私はエンターテインメントが好きなので、音楽を運んでくれるロボットにしました。自分の好きなときに、好きな場所で音楽が聞ける、新しいミュージックライフを作ろうと考えたのです。たとえば、夜の10時くらいにウイスキーを飲んでくつろいでいるところに来てジャズを流してくれる。朝、寝室に来て、ロックで目を覚まさせてくれる。そんなロボットです。
そのためには、自律移動の技術が必要でした。『miuro』は、世界で初めての、自律移動する家庭用ロボットです。この技術はSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)と呼ばれるもので、今、話題になっている自動車の自動運転にも使われています。
たとえば、miuroに玄関からソファまで来てほしいとすると、まずは、リモコンで玄関からソファまで操作します。するとmiuroは、移動しながら、車輪についた距離計で距離を測り、障害物センサーで周囲のモノとの距離を測って、自分が通るべき道の地図を作ります。同時に、カメラでところどころの写真を撮って、目印にします。そうすることで、作った地図の中での自分の位置を特定することができるわけです。
――高度な技術だと思いますが、自社で開発されたのですか?
谷口 そうです。miuroは飛ぶように売れたのですが、さらに量産しようとしたところでリーマンショックが起きて、資金調達ができなくなってしまいました。そこで、自律移動技術を4輪に応用して、2008年からRoboCarの開発を始めました。量産するものではなく、研究開発用に自動車メーカーなどに販売するものです。私はもともと自動車関連のメーカーにいたことがあり、自動車については明るかったので、「これから自動車もロボットになる時代が来るだろう」と考えたのです。翌年、まずは、miuroと同じくらいの、乗用車の10分の1サイズ(429×195×212.2mm)のRoboCarを発売したところ、よく売れて、そこからだんだんサイズを大きくしていきました。
――この技術は、他の企業は開発していなかったのですか?
谷口 していませんでした。今は自動車の自動運転で注目されている技術ですが、いきなり自動車のような大きなもので実現しようとすると、かなり難しいのです。私たちは、miuroという小さなもので開発したから、実現できたのだと思います。それから、小さな4輪で実現して、1人乗りの電気自動車で実現して、プリウスで実現して、と、段階的に、継続して開発してきました。
――今、世界中の自動車メーカーが自動運転技術の開発を競っています。その中で、先行者としての強みがあるということでしょうか?
谷口 全部、イチから自分たちでやっているという強みはありますね。
自動運転に必要なのは、目と頭、つまり、ステレオカメラとしてRoboVision、人工知能として膨大なデータを計算するコンピュータIZACだけです。今の自動車は電子制御になっていて、電気信号を出せば動きますから、運転をするための身体は必要ありません。カメラと人工知能はロボットの開発でフォーカスしてきた技術ですから、その点でも強みがあると思います。
また、RoboCarを販売した自動車メーカーからのフィードバックが得られるのも、当社の強みです。
ただ、技術ということだけで言うと、すでに自動運転に必要なものは論文などで世の中に出回っています。今は、いかに精度を上げるか、高価なセンサーをいかにコストダウンするか、といった実用化のフェーズに移っています。このフェーズで最も重要なことは、その技術を何に使うか。この点で、自動車メーカーと私たちは決定的に違っています。
自動車メーカーの顧客はドライバーです。ドライバーが、好きな自動車を買って、運転する。それが安心、安全にできるように支援するために、自動運転の技術を使うわけです。つまり、これまでのビジネスの延長上に自動運転がある。
一方、私たちが顧客として決めているのは、高齢者や子供、障害者、外国人観光客など、運転免許を持っていない人や自分で運転できない人、あるいは自分で運転したくない人です。そういう人たちのためのロボットタクシーに、自動運転技術を使います。要するに、私たちは旅客業をやるのです。
ですから、自動車メーカーと競合するわけではありませんし、グーグルとも競合しません。自動運転タクシーというものは、ZMPとDeNAさんの合弁会社であるロボットタクシー社が世界で初めて謳ったものです。最近、ウーバーが自動運転車を開発すると発表していますから、それは競合になり得るでしょうが、自動運転タクシーという市場に誰よりも早く参入して、広く使われるようになれば、それが最大の強みになります。これはもう技術の問題ではありません。
――今はプリウスなどを改造して自動運転の実証実験をされていますが、将来的には完成車メーカーになろうというお考えはありますか?
谷口 「完成車」というとわかりにくいのですが、自分たちでイチから自動車を作るかといえば、ノーです。やはり、今から自動車生産を始めるのは利口ではない。一般のタクシーは市販の自動車を改造して使っていますよね。同様に、ZMPが自動車メーカーから車両を購入して自動運転車に改造し、それをロボットタクシー社に販売する、という形を取ります。
――ロボットタクシー社は、あくまでタクシー会社なのですね。
谷口 そうです。車両はフランチャイズすることも考えられますね。配車はインターネットを使って行ないます。たとえば、1週間後に日本に来る外国人旅行者が、羽田空港から浅草まで乗りたいと思えば、インターネットで予約しておける。言葉の通じないドライバーを相手に苦労をしなくても、快適に観光ができるわけです。
――タクシー事業に参入することになると、タクシー業界から反発があるのではないでしょうか?
谷口 タクシー業界からは歓迎されるのではないかと思います。というのは、人手不足の業界で、人件費がかさんで採算が悪化しているからです。しかも、ドライバーには高齢の方が多く、今後ますます人手不足が深刻化していくと見られています。体力的にきつく、事故を起こしてしまうと人生を棒に振る可能性もある大変な仕事ですから、若者が就職したがるわけでもありません。ロボットタクシーが参入して、人手不足の問題が解消することは、業界にとっても、利用者にとっても、良いことではないでしょうか。
――それでは、タクシー業界におけるロボットタクシーの強みはどこにあるのでしょうか?
谷口 1つは、ドライバーがいないので人件費がかからず、運賃を抑えられることです。とはいえ、極端に安くするつもりはありません。原価が低い電子書籍の値づけが紙の本を基準にしているように、ある程度、他社と足並みをそろえるつもりです。
もう1つは、完全な個室になること。ドライバーの目を気にする必要がありません。他人に聞かれたくない話もできます。実は、タクシーのクレームで多いのはドライバーの加齢臭や体臭なのですが、ロボットタクシーなら、そんな心配もありません。
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更新:11月22日 00:05