2015年12月20日 公開
2023年01月05日 更新
──この夏から秋にかけて、お二人は憲法にかかわるニュースをどんな気持ちでごらんになっていたのでしょう。
内山 デモに関するニュースで、はじめて参加するという主婦の方とか、大学生とかがインタビューに答えているのを見ると、憲法に注目が高まっているんだなって。南野先生はいつも「改憲の前に論憲、論憲の前に知憲」とおっしゃるんですけど、改憲にしても護憲にしても、これからいろいろな意見の人たちが議論していく前提として、関心が高まるのは素晴らしいことなんじゃないかなって思います。
伊藤 本当ですね。やっぱりまず知らないといけない。私だって、20代前半までは憲法は法律の親分だと思っていましたからね。
内山 私も思っていました。
伊藤 憲法と法律はまったく役割が違うんですよね。矢印の方向が逆なんです。そこで、「法律は国民を縛る。憲法は国を縛る」という言い方は、30年前に私が言い始めたのがおそらく最初だと思います。そのときには憲法学者や実務家から批判されましたよ。不正確なことを言うなって。
内山 そうだったんですね。『憲法主義』では、南野先生が「国民は憲法を守らなくていい」とおっしゃっていました。「守らなくていいのです。憲法を守らなければいけないのは国家権力です。われわれ国民は、法律を守らなければいけないのです」と。
伊藤 5、6年前からようやく、メディアでも「憲法と法律は矢印が逆」という言い方を使ってくれるようになりました。単純明快に、本質を押さえるとそうなるんです。
内山 それを聞いたときに、憲法を勉強する上での意識が変わりました。「法律は国民を縛る。憲法は国を縛る」というのはすごく印象深いフレーズです。
伊藤 最近、それを理解してくださる人が増えてきたのはいいことだと思います。憲法はお固いイメージがあるし、普通の人が憲法を「自分の問題」として考えることは、これまでまずなかった。今回、安保法制の制定の過程で「やっぱり憲法って自分の生活に関わるな」と感じてもらえた。それは素晴らしいことだなと思います。
──内山さんは近々AKB48を卒業されます。今後の進路にも憲法を学んだ経験は生かせそうですか?
内山 私、将来はマスコミ関連の仕事がしたいと思っているんです。
伊藤 うちの塾では現役のアナウンサーも勉強していますよ。テレビ局に呼ばれて、報道に携わるみなさんたちに憲法の講義をすることもあります。情報を発信する人が、ただ原稿を読むだけじゃなくて、きちんと中身を理解して、主体的に考えることはすごく大事です。
内山 そうですよね。私はいままで、政治をやっている人は国民の代表だから、基本的に正しいし、政治はプロに任せておけばいいと思っていたんです。
でも、憲法を学んでみて、国民が間違った判断をして政権を選んでしまうこともないことはないんだなっていうのを知って。メディアから発信される情報をそのまま受け取るだけではいけない。憲法に限らず、いろいろな問題について、これまでの歴史とか、専門家の意見とか、国民一人ひとりがいろいろなことを知って、自分なりに考えることが大事なんだって思うようになりました。
伊藤 それに気づいてくれたことがすごく嬉しいです。報道されることは事実なんだけれども、事実の一部でしかない。その奥に別の事実とか、違うものの見方もあるということに気づく。主体的に生きる、自立した市民として生きていくということ。それが大人になるということだし、憲法が私たちに求めている一番大事なことなんです。そして、主体的に市民が国をつくる。それこそが国民主権です。
内山 今日は緊張していたのですが、先生が優しくわかりやすく講義してくださって、今まで学んできたこと以外にも新しい視点に気づくことができました。これからはより興味をもって憲法を学んでいきたいし、ニュースを見ていろいろなことを考えていきたいと思います。
伊藤 それはよかった。これからもぜひいろんなことを学んでください。
内山 はい、ありがとうございます。
≪『THE21』2016年1月号より(Web特別版)≫
更新:11月22日 00:05