2015年11月25日 公開
2015年11月25日 更新
この長期施策を後回しにして短期成果に追われるという問題をループ図で見てみましょう。
たとえば、〈マネジャーが短期成果に追われ続けるループ〉には、実に多くの会社が陥っています。
まず、マネジャーがプレイング・マネジャーであることが常態なので、個人の短期成果に追われる。そうすると、部内のコミュニケーションや情報共有を後回しにする。したがって、部下の手戻りが多くなり、非効率になる。
だから余計に、部下に任せられなくなる。仕方がないから、マネジャーが頑張り、部下育成が後回しになる。けれども、マネジャーの時間と体力が限界ぎりぎりなので、業績が十分にあがらない。
すると、さらに短期成果をあげることへのプレッシャーが上層部からかかる。つまり、プレイング・マネジャーにプレッシャーがかかる。そして、個人成果に追われる。でも、部門間連携はしない。部下育成を後回しにしているから、部下が育たない。そしてさらに、マネジャーが頑張る――。ぐるぐると回っているわけです。
『金持ち父さん 貧乏父さん』(ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター/筑摩書房)にあったハムスターが自分で滑車を回転させる「ラットレース」状態です。
自分たちは、こういう悪循環に陥っている。みんなうすうす、そう感じているわけです。「どうもこのままじゃダメだ」とうすうす気づいていながら、「短期目標を達成しなければならない」「短期目標を達成し続けることが、何より重要だ」という考えに縛られているから、その違和感を口に出せずに、そのまま、ループをぐるぐる回り続けるわけです。
私から見ると、かなり多くの会社が、この「短期目標優先」という観念にとらわれすぎて、長期的にみれば、結局、まじめにコツコツ会社を沈めている、という状況になっていると思います。
短期的によかれと思ってやっていることが、長期的には副作用を生む。これは、具合が悪いからと強い薬を飲み続けていると、結局は体が蝕まれていくのと同じようなものです。
組織開発では、ざっくばらんな対話を突破口にして、会社が囚われている観念から脱して、イノベーションを起こしていくのですが、短期目標に追われていると、「そんな対話なんかしている時間があるか!」と言って、ぐるぐるとループを回り続け、マネジャーが疲弊して辞め、若手がマネジャーになりたくないと言い、長期のことを誰も考えない……という悪循環が続いていくことになります。
ループを見ていくと、囚われの正体が見えてきます。自分たちの囚われから抜け出すには、囚われの存在にまず気づくことです。そして、そこから変革が始まるのです。
<著者紹介>
森田英一(もりた・えいいち)
企業をはじめとした様々な組織で対話型ワークショップを行い、人と組織をイキイキさせることを仕事とする組織開発ファシリテーター。
大阪大学大学院基礎工学研究科卒業後、経営コンサルティング会社アクセンチュア(当時、アンダーセンコンサルティング)のチェンジマネジメントグループにて、人と組織のコンサルティングに従事。以来、一貫して「人と組織」をテーマに仕事を行ってきた。
2000年、シェイク社を創業、同代表取締役社長に就任。「自律型人材」育成事業を展開。2009年9月、会長に就任。2010年9月よりシェイク社フェロー(現職)。
その後、beyond global 社をシンガポールと日本に設立し、代表取締役社長に就任。シンガポールを拠点にアジア各国と日本で仕事をしながら、グローバル人材育成・グローバル企業への組織変革・組織開発を行っている。beyond global Japan(旧ドアーズ)社の「海外修羅場プログラム」が、全国6万人の人事キーパーソンが選ぶ「HRアワード2013」(主催:日本の人事部 後援:厚生労働省)の教育・研修部門で最優秀賞受賞。『ガイアの夜明け』、『ワールドビジネスサテライト』等テレビ出演多数。株式会社ジョブウェブ社外取締役も務める。
更新:11月13日 00:05