2015年11月25日 公開
2015年11月25日 更新
毎年毎年、根拠なき「売上アップ」を迫られ、疲弊するミドルマネージャーたち……。それはある「囚われ」が原因であり、これを放置すると会社を崩壊させることになると主張するのが、経営コンサルタントの森田英一氏だ。新著『会社を変える「組織改革」』を発刊した森田氏に、その「多くの会社が陥っているワナ」についてうかがった。
多くの会社が多かれ少なかれ陥っている罠、それは、「短期目標が何よりも最優先」「売上は常に、前年を上回らなければならない」という囚われによる罠です。
今の日本企業では、社員の働く意味であるとか、本業によっていかに社会のお役に立つかということよりも、「社内の目標を達成しなければならない」というプレッシャーの方が強いように感じます。
「社内の売上目標を必ず達成しなければならない」「業績は前年比1・2倍、1・3倍にしなければならない」というプレッシャー。多くの会社では、年々成長し、規模を拡大し続けることが目標になっており、あたかもそれがビジネスの常識のようになっていますが、本当にそれでいいのでしょうか。
経営学の神様と言われるP・F・ドラッカーも言うように、「組織の最大化を目指すのではなく、最適な規模を目指せ」という経営のスタンスもあります。もちろん、戦略上、規模が大きい方が勝つ場合もありますが、それだけではありません。その会社、あるいは、その事業にとって最適な規模というのは、当然あるはずです。
しかしながら、かくいう私も、起業したときは急勾配な右肩上がりの事業プランを書きました。売上はこうなる、利益もこうなると、どんどん拡大していくビジネスプランを書きました。
でも、現実には、事業の拡大フェーズに乗っているならまだしも、立ち上げの時期や成熟した市場において、右肩上がりを継続するのは、なかなか難しいものです。企業の成長にはいくつかの踊り場があって、そこでビジネスモデルや戦略の転換をしながら、全体を俯瞰してみると、ゆるやかな上昇カーブを描くというのが、現実の成長の姿でしょう。
毎年毎年、前年比○%アップを目指すというのは、あたかも、「絶対しゃがまずに、ジャンプし続けろ」と言われているようなものです。
おそらく、高度経済成長のときには、市場そのものが拡大しているので、それでよかったのだと思います。しかし、今この時代にそれを求めることは、過去の成功体験、つまり、頑張れば頑張っただけ売上が上がり、会社の規模が成長した時代─「ジャパン・ミラクル」とまで言われた高度経済成長を達成したことからくる「成長への囚われ」かもしれません。
「経営者たる者、企業を毎年毎年成長させねばならない」という囚われの中で、マーケットの状況も考えずに、社員に対して、「まだまだ、頑張りが足らん。やれ、やれ」と求め続けるのは、やはり無理があるのではないでしょうか。
『どうする? 日本企業』(三品和広/東洋経済新報社)という本に、驚くべきデータが出ています。日本を代表するメーカーの売上高営業利益率はどんどん下がっているというのです。実質売上高はいくつかの不況期に凸凹が多少あるにせよ、一貫して伸び続けているけれども、実質営業利益がほとんど変わらないからです。
ということは、実際には、これは〈成長〉ではなくて、〈膨張〉とも言えるのではないでしょうか。売上だけ増えて、肝心の利益が増えていないからです。
以前の売上規模でいたほうが給料も上がる。逆に膨張すると、つまり、頑張れば頑張るほど、給料は下がる。人を採用して、様々な投資をして、売上(やコスト)は増えるけれども、利益は変わらないのですから――。
とすると、頑張れば頑張るほど給料が下がるモデルに囚われ、「行け! 行け!」と、経営層、マネジメント層が発破をかけていることになります。「成長しなければならない」という囚われが、実は、自分たちの首を絞めているのかもしれないのです。
更新:11月10日 00:05