2015年10月29日 公開
2023年05月16日 更新
部下のマネジメントとプレイヤーとしての仕事を、一人で両方やらなければいけないプレイングマネジャーは大変ではあります。しかし、実はプレイングマネジャーにはマネジメント専任の上司に比べて「楽な」面もあるのです。
自分のチームの業績が思わしくないとき、マネジメント専任の上司の場合は、自分が動いて数字をカバーするということは原則としてできません。業績を良くしたければ、どんなに面倒でも、部下と真剣に向き合い、部下を育てる以外にないのです。
一方、プレイングマネジャーであれば、プレイヤーとしての活動量を増やし、自分自身で短期的に数字をカバーすることができます。これなら面倒な部下育成と向き合わなくても済みます。つまり、プレイングマネジャーには、実は「プレイヤー」という逃げ道があるのです。
しかし、部下を育てて組織力で勝負すると決めたのであれば、現場の仕事からはできるだけ手を離すべきです。いつまでも「多忙なプレイングマネジャー」のままでは、部下の育成に時間を割けなくなってしまいます。
マネジャーとして仕事をする時間を確保するためにも、自分は手を動かさず、部下に仕事を任せて腹をくくらなければなりません。
ある大企業で、上司向けに1年がかりの上司力鍛錬ゼミを実施したときのことです。組織の規模が大きく、上司が抱えている部下の数も非常に多いケースでしたから、研修に参加している多くの上司は非常に多忙な状況でした。部下と面談するようお話ししたときも、「ただでさえ業績目標が厳しくて大変なのに...」と不満の声は大きかったものです。
ところがそのなかに1人、「どうしてみんなそんなに忙しそうなのかな?」と不思議そうにしている人がいました。
「それじゃあ、部下たちの時間を取って早速、面談をやります」
「別の日にチームのメンバーを集めて、将来のチームビジョンを話し合うワークショップもやります」
人材育成や組織作りにあてる時間をまったく惜しまず、ゼミで学んだことを次々と実践していくのです。
なぜ、1人だけ涼しい顔で新しい仕事をこなせるのか――。秘密は、その上司のスタンスにありました。部下の適性と役割を鑑みながらとにかく徹底的に仕事という仕事をどんどん任せるので、自分で手を動かす必要がありません。
仕事を任された部下が成長するまでタイムラグはあるものの、ぐっと我慢して手を出さず、部下ができるようになるのを見守れば、その分だけ手が空くのでリーダーとしての仕事に集中できるというわけです。
現場の仕事ができる人ほど、部下に仕事を任せるのは勇気が要るものでしょう。しかし、現場の仕事から手を離さなければいつまでたっても部下育成に注力できず、チームの状況は改善しないのだということを頭に入れておかなくてはなりません。
「どうしても部下に仕事を任せるのが怖い」という人は自分の成長のために、プレイヤーを辞める決断をしましょう。
リクルートワークス研究所の豊田義博氏によると、プレイングマネジャーを7年以上続けると、成長が停滞するそうです。一方、専任のマネジャーは、最初は上司としての仕事に慣れず苦労もするものの、7年目になると逆に成長実感が高まるといいます(豊田義博著『若手社員が育たない。』ちくま新書)。
事実、「育て上手な上司」と言われる方々にインタビューすると、過去に部下育成で失敗や苦労を経験し、自分が変わることで成長してきた人ばかりです。
上司としての仕事は、最初のうちは誰にとっても「背伸び」が必要なもの。その仕事を乗り越え、振り返りができたとき、皆さん自身が大きな成長を感じられるはずです。
更新:12月02日 00:05