2015年10月22日 公開
WHYを重視し、HOWに重点を置くことを戒める山元氏だが、「唯一、方法論があるとすれば」と前置きして話してくれたのが「スノーボールエフェクト」についてだ。
「問題を放置しておくと、雪の斜面を転げ落ちる雪玉のように加速度的に巨大化してしまい、個人の力では止められないほど大きくなってしまいます。そうなってしまってから対処しようとすると、メンタルも大打撃を受けて心が折れてしまう。ですから、イヤなことほど、問題が小さいうちに手を打たなければなりません。
外資系の社長をやっていると、100通のメールが来たら、そのうちの90通は、できれば開きたくない内容ですよ(笑)。でも私は、イヤなメールほど先に開いて、早く解決してきたからこそ、生き残ってこられた。
以前、ヘッドハンターに言われたことがあります。『山元さんに唯一弱みがあるとしたら、失敗していないことです』と。それは誤解で、私は年間300回は失敗しています。『あんなこと言わなきゃよかった』『あの判断は違ったな』とか、そんなことが毎日あります。でも、そう思った瞬間に手を打って処理してきました。
問題が小さいうちに潰していけば、確実に目標へ向かって前進している実感が得られます。最短距離を進んでいるのではなく、たとえ蛇行しているとしてもです。
そこで手を打たず、放置してしまうと、前進がありません。それ以前に、目標がなかったら、向かう先がないわけですから、前進している実感が得られるわけがありません」
イヤな仕事に取り組まず、つい先送りにしてしまうことが、自分のメンタルを追い詰める結果につながるわけだ。
「メールを開いたら英文だった。あとで読もう、と思って閉じる。日本のビジネスマンにはよくありますよね。これでもうアウトです。
問題解決は時間との勝負。人間は時間の流れを変えることはできません。『時間と重力にだけは逆らえない。ただし、それ以外は全部言い訳だ』と私は考えています。生まれも学歴も関係ありません。言い訳をしている人には、メンタルの問題が一生ついてまわるでしょう」
エネルギッシュで、たいていのことでは揺らがない山元氏のメンタル。その根本には独自の人生観があった。
「私は幕末の話が好きで、志士たちの人生から多くを学んできました。そのせいもあって、本気で50歳で人間は死ぬと思っていました。だから、今、56歳になって、病気をしたことさえないのが不思議で仕方がないんです(笑)。
50歳までの人生を振り返ってみると、30代は3回くらいしか寝た記憶がありません。もちろん、あくまで主観的な記憶としてですが、そのくらいあっという間でした。40代は1回くらいしか寝ていない感じです。そのくらい働かないと、50歳で死ぬまでにやりたいことができないと思っていたのです。
歳を取るにつれて、時間が経つのがどんどん速く感じるようになります。その加速度は残酷です。今いる場所にあぐらをかいて、うまくいかないことを他人のせいにしている人は、何もできないままに人生を終えてしまいますよ。
結局、メンタルが弱いという問題の根源は『やらされている感』、もっとはっきり言えば被害者意識にあります。
スティーブ・ジョブズを見てください。彼は失敗もたくさんしているし、一度は自分が作った会社を追い出されてまでいる。それでも彼の心が折れなかったのは、人類の生き方を変えたいという目標があったからです。
自分の人生を他人に委ねるのではなく、自分でデザインする。そのために、まずは自分のやりたいこと、ビジネスで成し遂げたい目標を考える。それが、強いメンタルを持つために不可欠なのではないでしょうか」
《取材・構成:川端隆人 写真撮影:長谷川博一》
《『THE21』2015年10月号より》
更新:11月22日 00:05