2015年09月08日 公開
2023年02月20日 更新
ギリシャの債務問題がどこまで波及するか、世界中が注目している中で、ますます存在感を強めているのがドイツのメルケル首相だ。米誌『フォーブス』が選ぶ「世界で最も影響力のある女性」第1位にも、5年連続で選ばれている。なぜ、メルケルは強力なリーダーシップを発揮できているのか? ドイツ在住のジャーナリスト・熊谷徹氏に緊急寄稿していただいた。
《『THE21』2015年9月号(8月10日発売)掲載/内容は執筆時点のものです》
ギリシャは国際通貨基金(IMF)からの債務約16億ユーロを6月30日までに返済せず、事実上の「債務不履行状態」に陥った。また、欧州連合(EU)とIMFが求めていた緊縮策を拒否し、「7月5日に緊縮策について国民投票を行なう」として、交渉を一方的に打ち切った。1999年のユーロ圏創設以来、最大の危機である。
このとき世界が注目したのは、EU政府に相当する欧州委員会のユンケル委員長や欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁ではなく、ドイツのアンゲラ・メルケル首相の発言だった。
7月1日、メルケルは「我々は、ギリシャで国民投票が済むまでは、同国と緊縮策の内容について交渉したり、融資を行なったりする気はない」と断言。ギリシャのチプラス首相は救済プログラムの延長を求めたが、にべもなく断わった。
メルケルの態度が注目された理由は、2009年に表面化したギリシャ債務危機との戦いで、彼女がリーダーシップを握っていたからである。
10年当時、債務危機はスペイン、ポルトガル、アイルランドにも飛び火し、ユーロ圏の崩壊が懸念されていた。このとき、メルケルは連邦議会での演説の中で、「ユーロが挫折したら、ヨーロッパも挫折する」と断言。南欧諸国の債務危機を「EU創設以来最も深刻な事態であり、ヨーロッパの存続がかかっている」と位置づけたうえで、これらの国々を救済する以外に「選択の余地はない」と主張した。
メルケルは当時、「ユーロ圏からは一国も脱落させない」という決意を持っていた。そのメルケルが、態度を一変させてギリシャ政府の救援要請を断わった理由は、今年2月に誕生したチプラス政権が緊縮策を頑なに拒んだだけではなく、他のユーロ圏加盟国と協調する姿勢を見せなかったからである。そこには、「自助努力を怠り、EUのルールを守らない国は助けない」というメルケルの哲学が現われている。英国のサッチャー同様、情に流されずに原則を貫く「鉄の女」と呼ばれる所以だ。
更新:11月22日 00:05