2015年08月21日 公開
2022年11月02日 更新
投資信託の値動きを1年も見ていれば、「投資って意外と面白いな」と感じるようになるかもしれない。そして次に個別株に興味を持ったら、銘柄選びが問題になる。
「どの銘柄を買うか決めるときは、『自分に子供が10人いたら、どこに就職させるか?』と考えると良いでしょう。すると、『IT業界は成長産業だけれど、さすがに全員を就職させるのはどうかな? 1人くらいは安定した業界に入れたい』といったことを自然と考えるのではないでしょうか。その後も会社の動向をチェックして、『この会社は最近評判が悪いから、転職させようか』といった判断もできます」
そうは言っても、本当に初心者が自分で判断して銘柄を選んで良いのだろうか。やはり、経済の専門知識を学んでからのほうが良いのではないか。
「誤解している人が多いのですが、経済に詳しくなったところで投資がうまくなるわけではありません。たとえば、バブル崩壊で、日経平均が4万円弱から1万円以下にまで下がりました。でも、株価が4分の1になったからといって、日本のGDPが4分の1になったわけではありませんよね。つまり、経済の動きと値動きとは別物なのです。
私自身、経済を勉強したことは一度もありません。その代わり、新卒で証券会社に入ったときに、『スプレッド・シート』を書くことを日課にしていました。複雑なものではなく、大学ノートに『日経平均』『NYダウ』『ドル/円』などの指標を書き込み、それぞれの終値と前日比の数字を毎日記入するだけです。これを繰り返すと、いつもと違う数字の動きがあったときに、その理由を考える習慣が身につきます。
こうして勉強してきた人なら、2年前に日銀の黒田東彦総裁が『マネタリーベースを2倍にする』と発言したときに、株価の上昇を予想できたはず。すぐに預金を日本株に移し、今頃は資産を倍にしているでしょう」
「こんなに株価が上がってしまったあとで投資を始めると、損をするのでは?」と思っている人もいるかもしれない。だが松本氏は、「『いつ始めるか』という議論はナンセンスだ」と指摘する。
「投資は未来の話です。過去にやっていたかどうかは関係ありません。今日初めて株を買う人も、同じ株を2年前から持っていて、売らずに今日も持っている人も、訪れる未来は同じなのです。
マーケットでの価格は、さまざまな情報や人の思いをすでに織り込んでいます。『これから業績が良くなる』とみんなが思う会社の株は、これから上がるのではなく、その時点でもうすでに上がっているのです。これから上がりそうな相場や、下がりそうな相場というものは、理論的にあり得ません。だから、いつ投資を始めるかは重要ではありません。
それよりも大事なのは、世の中の大きなトレンドを見逃さないこと。確実なトレンドは、地球全体の人口が増加しているということです。人口が増えることはインフレ圧力になる。需要が増えて、それによって物価が上がるからです。
『世界がインフレ基調にある中で、日本は人口が減る』ということは、日本の通貨が強くなるとは考えにくい。ですから、長期的に見れば、外貨建ての資産を持つほうがリスクヘッジになるはずです。
こうした世界のトレンドを正しく捉える目を養うためにも、ぜひ、1万円の投資信託10個の勉強から始めてほしいと思います」
《『THE21』2015年8月号より/取材構成:塚田有香 写真撮影:江藤大作》
更新:11月24日 00:05