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鋭いコメントの秘訣は「一文で言い切る」こと

2015年05月11日 公開
2022年11月14日 更新

夏野剛(慶應義塾大学特別招聘教授)

「伝える」とは聞き手に変化を及ぼすこと

話す時間が30分を超えるときは、パワーポイントを使って視覚的な情報もプラスすると、聴衆の理解をさらに助けることができる。パワーポイントは構成の部分の抜き書きなので「レジュメ」の役割も果たすが、夏野氏はあえて、これを事前に聴衆には配布しない。

「手元に紙の資料があると、聴衆はそちらを先に見てしまいますね。すると、サプライズがなくなってしまいます。私は講演の最後、つまりパワーポイントの最終ページで、必ず印象的なメッセージを入れます。その部分は話を聞きつつ、ライブで受け取ってほしい、と思いますね」

夏野氏の言う「サプライズ」は、「発見」とも言い換えられる。つまりコメントの場合と同じく、新たな視点の提供だ。

「驚き、発見、感動、考える契機──テーマによってその内容はさまざまです。しかしいずれの場合も、聞く前と聞いたあとで何かが変わっていてほしい。聞き手になんらかの影響を与えることが『伝える』ことの意義だからです。短いコメントから長い講演に至るまで、この点においては共通していると言えるでしょう」

聞き手に影響を与えるか否か。これは「面白いか否か」ということにもつながる。ユニークで興味をそそるコメントと凡庸なコメント、その分かれ目はどこにあるのだろうか。

「コメンテーターとしては、報道された事実や他の人の発言をそのままなぞるだけ、というのが一番悪いパターンです。『そんなことがあったんですね』はただのあいづち、『ひどいですね』はただの感想。これだけなら誰でも言えます。
もう一つ、しばしば見られるのが、人と違うことを言おうとして、周囲の発言をただ否定するだけの人。これは多数意見の単なる反転にすぎません。その人自身の見解のない、これまた凡庸なコメントです。インパクトのある面白い意見には必ず、『これまで出てこなかった何か』があるのです」

れまでなかった要素のある話──それは聞き手に強いインパクトを与える一方で、抵抗感を与える可能性も持っている。

「それはある意味当然です。誰もがなんとなく賛同するような無難で凡庸な意見の『逆』を行くわけですから。しかし、そこで受ける抵抗を気にしていてはいけない、と思います」
 

「角の立たない」話し方はもう古い

ビジネスマンがこの手の「とがった」意見を言う際には、反感を買わないよう表現を柔らかくすることが多い。しかし夏野氏は、それはナンセンスだと一刀両断する。

「意見を言う前には『そちらのご意見もごもっともですが……』『皆様のご意見、とても意義あるものとして受け止めさせていただきましたが……』などとワンクッション置いて、角を立てないよう配慮するのが社会人の常識であるかのように言われていますね。しかし、簡潔かつ明確に話すことが求められる場でそんなことをしていたら、すぐ時間切れになってしまいます。
もし時間があったとしても、本当に言いたいことのインパクトは弱まり、しっかりと聞き手に響かせることができない。結果、課題もそのまま温存されてしまいます。本当に周りの問題意識を喚起したいのなら、ここははっきりと言うべきなのです」

自分の属する組織のために、あえて歯に衣着せぬ物言いをするか否か、そうした勇気を持つビジネスマンが増えていくか否か。それによって日本の将来は大きく変わる、と夏野氏。

「70年代や80年代なら、無難で悠長なコミュニケーションでも問題はありませんでした。前年と同じことをしていても、企業は成長できたからです。
しかし今はそんな時代ではない。これからはもっと厳しくなります。2010年から現在までの間に、日本の人口は100万人減少しました。青森県の人口に相当する人数ですから、いかに急激な減少かがわかりますね。さらに2020年までには300万人減ると予測されています。これは大阪市が丸ごとなくなるくらいの数です。こうなると、日本市場の縮小も著しいものとなるでしょう。そこで企業が生き残るには、海外に出るか、今までやってこなかったことに乗り出すかです。いずれにせよ、必要なのは変革なのです」

それには、現在の閉塞状態に真っ向から立ち向かい、問題を指摘し、改革を促す者が現われなくてはならない。

「そうした人は、必ず摩擦や軋轢を引き起こすでしょう。しかし、それでいいのです。摩擦こそがイノベーションの源なのですから。20世紀型コミュニケーションの旧弊を脱ぎ捨て、無駄なく直截に語る21世紀型の『モノ言うビジネスマン』になってほしいですね」

『THE21』2015年5月号より>

 

著者紹介

夏野 剛(なつの・たけし)

慶應義塾大学特別招聘教授

1965年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。88年、東京ガス〔株〕に入社。95年、米国ペンシルバニア大学経営大学院卒業、MBA取得。97年、〔株〕NTTドコモに入社。榎啓一氏、松永真理氏らと99年に「iモード」ビジネスを立ち上げ、同社の躍進に大きく貢献。2008年、NTTドコモを退社。現職の他、〔株〕ドワンゴを含め複数企業の取締役を務めている。『情報プレゼンターとくダネ!』(フジテレビ系)等でコメンテーターとしても活躍。

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