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鋭いコメントの秘訣は「一文で言い切る」こと

2015年05月11日 公開
2022年11月14日 更新

夏野剛(慶應義塾大学特別招聘教授)

時には「角を立てる」コメントも必要

ドワンゴをはじめ数々の企業を牽引、さらには大学教授、TV出演と多角的に活動する夏野剛氏。会議、プレゼン、講義や講演など、話す機会には事欠かない。
その中でもっとも短時間での伝達を求められるのが、コメンテーターの仕事だ。限られた時間の中で、簡潔かつ当意即妙なコメントを述べるための秘訣はなんだろうか。
<取材・構成 林 加愛 写真撮影:長谷川博一>

 

簡潔な一文で伝える「新たな視点」

「一回ごとのコメントに与えられる時間は、長い場合でも一分弱。この制限の中で言いたいことを伝えるには、やはり工夫がいります。私が心がけているのは、ワンセンテンスで情報を完結させること。『~だと思います。なぜなら……』ではなく、『……なので~だと思います』と一文にまとめる。2センテンス目を付け加えることもありますが、あくまで補足。一文で大枠をつかめるようにしています」

出演に際しては完璧に準備をしておくよりも、だいたいの予測を立てる程度にとどめたほうが、ライブ感を出せると言う。

「本番までの段取りは番組によって違いますが、『とくダネ!』などの生放送では、コメンテーターはほぼぶっつけ本番で話します。その中で制作側の意図を考えたり、他のコメンテーターの方々とのバランスを考えたりするのは大変ではないか、とよく思われがちですが、そこはさほど気にしていません。発言内容に価値を持たせることのみに留意しています」

では、その価値とは何か。それは「新しい視点」があるか否かだ、と夏野氏は語る。

「報道番組は、事実関係を伝達する→それを掘り下げる、という順番で進みます。冒頭のアナウンスやVTRで事実が伝えられたあと、コメンテーターがそれを受けて語る。ここで求められるのは、『私ならでは』の切り口で語ること。たとえばビジネスや経済の話題なら、自分の知識に基づいた見解を述べることで新たな視点を提供できます」

その一方で、事件や事故などに関するコメントには難しさを感じるという。

「自分の専門性とは無縁の話題はやはり苦労します。それでも何かを語らなくてはならない。そんなときに考えるのは『この事件から学び得ることは何か』という切り口です。
最近の例で言えば、川崎市で起こった中学生殺害事件。この痛ましい出来事を通して社会が学ぶべきことは何か、その意識を喚起することが必要です。とはいえ、『少年法を見直さなくては』といった話なら、すでに多くの人が語っている。そこで私は、『少子化』というキーワードと関連づけました。被害者の母親は五人の子供を抱えるシングルマザーで、生活に余裕がなく、息子の危機に気づけなかった。その背景には、そうした親を支え切れていない日本の現状がある。支援態勢を整え、子供たちを守れる社会を作れば、親も安心して子育てができる。ひいては少子化問題の解決にもつながる、と語りました」
 

コメントに必要なのは「独自性」と「短さ」

こうしたスキルは、TV番組という限られた場面でのみ求められるものではない。ビジネスシーンでも、同じノウハウが必要とされる場面は多々ある。

「コメント力のポイントは、『独自性』と『短さ』の二つ。とくに、短くまとめるスキルは大企業のビジネスマンに必須と言えます。大きな組織では、大人数での会議に出る機会も増えます。そこでは各人の発言時間はごく限られたものになる。その中で簡潔・明確に言いたいことを伝えられる人は、一目置かれるでしょう」

簡潔に語るスキルは、場数を踏んで工夫を重ねることよって誰もが習得できる、と夏野氏は語る。しかし、もうひとつのポイント「独自性」に関しては、センスが必要だという。

「新たな視点に気づく力を、努力やトレーニングで鍛えるのは難しいことです。しかし、大切なのは、そうした自分の向き不向きを把握することです。『自分は気づき力にはさほど長けていない』と思うなら、下準備をしっかり行なって情報量を充実させればいい。その上でエッセンスを抽出して簡潔に語れば、中身の濃い、信頼性の高い発言ができるでしょう」

コメンテーターの仕事は「いかに簡潔に語るか」が勝負だが、大学での講義や講演では、また別の工夫が必要になる。

「前述のとおり、報道に対するコメントはワンセンテンスに情報を凝縮させる、『一文勝負』の世界です。逆に、数分を超えて話すとなると、構成がきちんと組まれているかどうかが重要になります。テーマは何か、テーマを語るための柱はいくつ必要か、どの順番で語るか。そのプランを組まずに話すと、聞く人は話の要点がつかめず、集中力を失うでしょう。
何かを説明する際にはよく、『これから○○についてお話しします。そのポイントは二つあります』と、最初に要旨を言ってから詳細に入りますね。構成を明確にした話は、理解しやすいのです」

構成さえ整えておけば、どれだけ長いスピーチでも困ることはないという。

「『骨子』がしっかりしていれば、あとは『肉付け』の分量を変えるだけでいい。肉付けとは、具体的な例示やデータ、エピソードや裏話などの情報です。それらのオプションを30分、60分、90分といった持ち時間の長さに応じて詳細化していけばいいのです」
 

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著者紹介

夏野 剛(なつの・たけし)

慶應義塾大学特別招聘教授

1965年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。88年、東京ガス〔株〕に入社。95年、米国ペンシルバニア大学経営大学院卒業、MBA取得。97年、〔株〕NTTドコモに入社。榎啓一氏、松永真理氏らと99年に「iモード」ビジネスを立ち上げ、同社の躍進に大きく貢献。2008年、NTTドコモを退社。現職の他、〔株〕ドワンゴを含め複数企業の取締役を務めている。『情報プレゼンターとくダネ!』(フジテレビ系)等でコメンテーターとしても活躍。

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