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森永卓郎の「メンタル強化術」~自分の守備範囲を飛び出す

2014年06月06日 公開
2023年05月16日 更新

森永卓郎(経済アナリスト/獨協大学教授)

『THE21』2014年6月号より》

 <取材・構成:村上敬/写真撮影:まるやゆういち>

 

緊張することがほとんどない理由

 空気を読んで主張をころころ変える評論家は信用できないが、その点でもっとも信用を置ける経済アナリストの1人が森永卓郎氏だろう。討論番組で1人だけ意見が違っても、決してひるまずに自分の考えを主張する姿をよく見かけるが、ご本人も「メンタルは強いほう」と自己分析している。

 「私、人前であがった経験がほとんどないんです。大勢の人の前に出ても変わらないし、偉い人の前だからといって緊張することもないですね。

 テレビ朝日の 『ニュースステーション』 に初めて出演したときもそうでした。コメンテーターの方が辞めて、後任候補として、たまたま私に声がかかりました。その頃私は有名人のサイン入り名刺コレクションをしていたので、『久米宏さんと渡辺真理さんのサイン入り名刺をくれるなら引き受けます』と逆オファー。局の人が承諾して、出演が決まりました。この時点で相当に図太いですよね(笑)。

 この話には続きがあります。テレビ局には調子のいい人もいますので、確実にサインをもらうために、当日スタジオに入る前にサイン入り名刺の先渡しを要求。交渉の末にようやく現物を手に入れて本番を迎えました。本番は、まったく緊張せずに話せました。というのも、サイン入り名刺を手に入れた時点で仕事が半分片づいたようなものだから。私にとって、本番は残務処理。だから肩肘張らない自然なトークができたのです。

 その様子を見ていたディレクターが『こいつは図太くて、何を振っても慌てずに反応してくる。コメンテーター向きだ』と評価してくれ、レギュラー出演が決まりました。それを機にメディアへの露出も一気に増加。いまたくさんの仕事で忙しくさせてもらっているのも、もとをたどれば、いっさい物怖じしない性格のおかげといえます」

 決してひるまない鋼鉄の心の持ち主になれたのは、小学生の頃にいじめられた経験が大きく影響している。

 「父が新聞社の外信部にいたので、海外での暮らしが長く、日本の小学校には半分くらいしか通えませんでした。帰国子女で、太っていて運動が苦手。いじめっ子から見たら格好のターゲットで、小学生の頃はよくボコボコにされていました。 そのような環境で育った結果、人の顔色を窺う性格になる人もいるでしょう。しかし、私の場合は逆でした。小4の頃だったかな。いじめっ子から絡まれていたとき、私が持っていた鉄ピー(鉄のビー玉)がたまたま相手の額に当たり、いじめっ子がビューンと泣き出したことがありました。それを見て、『いつも威張っているやつも、実は大したことはないんだな』と気づいてしまったのです。

 それに気づいたからといっていじめられなくなったわけではないのですが、少なくともいじめが怖くなくなりました。マハトマ・ガンジーは、非暴力・不服従でインド独立を勝ち取りましたが、私も同じ。いくらいじめられても、絶対に屈してやるものかと考えていると、おどおどしなくなるのです。いま振り返ると、その頃培った反骨精神が、プレッシャーに負けない心につながっている気がします」

 

黙って機会を逃すよりスベツたほうがいい

 いまでは何が起きても動じない森永氏だが、実は過去に1度だけ頭が真っ白になったことがある。テレビ初出演で、コメントを求められたときだ。

 「小池百合子さんがまだテレビでキャスターをやっていたとき、シンクタンクのアナリストを集めて話を聞く番組がありました。ディレクターから『コメントは短く、30秒以内で』とクギを刺されていたのに、小池さんにマイクを向けられた私はすっかり舞い上がり、1人で5分もしゃべり続けてしまった。パニックになっていたので、何を話していたのかもさっぱり覚えていません(笑)。 ただ、1回失敗したことで、いい意味で開き直ることができました。人前に出たときにプレッシャーを感じるのは、失敗したら自分の評価が下がるのではないかという不安があるからです。私は最初に大きな失敗をしたので、失うものは何もない。おかげで、それ以降は本番でも緊張しなくなりました。

 初めてのレギュラー番組でも、失敗ばかりでしたよ。テレビ神奈川で総務省の広報番組をやっていたのですが、役所の予算が使われているだけあって、内容が真面目すぎてつまらない。そこで私は少しでも柔らかく伝えようと、番組の最後に、今日の内容を男女関係にたとえて解説することを自分に課していました。

 ただ、いつもうまくたとえられたわけではありません。太陽光発電について紹介した回では、何も思い浮かばず、『昔は恋人に、君は僕の太陽だと言ったものですが、いまは太陽を恋人にする時代ですね』とコメント。スタジオが凍りつき、シーンとしたままエンドロール(笑)。

 でも、それでいいんです。黙っていたり無難なことを言ってお茶を濁すくらいなら、何か考えてスベッたほうがいい。挑戦しないと、コメント力も成長しませんから。

 そもそもいまの若い人たちは、失敗を恐れすぎです。仕事も、自分に任せられた範囲内でしかやらないじゃないですか。自分の守備範囲で生きるのは居心地がいいけど、失敗する確率が低いから、いつまで経っても打たれ強くなれません。失敗してもいいから、外にどんどん出ていくべき。たとえば営業の人なら、経理や人事についてわからないことを何でも聞きに行けばいい。給与明細を持って『なぜ厚生年金保険料はこんなに高いのですか』と聞きに行けば、社会の仕組みの勉強にもなって一石二鳥です。

 ちなみに私は、女性タレントや女優さんに会うと必ず電話番号を聞くようにしています。教えてくれるのは1%で、100人中99人は撃沈です。『よく聞けますね』とあきれられたりもします。でも、もとからそういうものだと思っているので断わられても落ち込まないし、聞くときも躊躇しません。プライドが高いイケメンより、撃沈を恐れない私のほうが、女優さんの電話番号をたくさん知っているかもしれませんね」

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