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森永卓郎の「メンタル強化術」~自分の守備範囲を飛び出す

2014年06月06日 公開
2024年10月11日 更新

森永卓郎(経済アナリスト/獨協大学教授)

 

本番を左右するのは度胸よりも脳の筋力

 本番に強くなるには、失敗を恐れない心のほかに、もう1つ大切なものがある。森永氏いわく、それは「脳の筋力」だ。

 「新人研修として、見知らぬ通行人と名刺交換させる会社がありますよね。あのやり方でメンタルの強さが身につくのかというと、正直、疑問です。本番での強さを左右するのは、度胸や根性、気合より、脳の筋力。具体的に言うと、会話の流れを読んで適切な答えを選ぶ頭の良さが必要なのです。

 私自身、会話の選択肢を用意していなくて失敗したことがあります。ある番組で、フィギュアスケートの世界選手権で優勝した安藤美姫選手に中継がつながりました。すると、司会者がいきなり私に、『何か質問はありますか』と振ってきた。スポーツコーナーだから出番はないだろう、と油断していた私は大慌て。とっさに思い浮かんだのが優勝候補の1人だったキム・ヨナ選手の転倒シーンだったので、思わず『ヨナ選手が転んだとき、やったと思いましたか?』と聞いてしまいました。当然、テレビ局に抗議の電話が殺到。私のブログも大炎上して、抗議のメールは半年くらい続きました。

 このような事故を起こしてしまったのは、私がぼんやりしていたからです。頭が真っ白になるのは頭の働きが鈍いからであって、度胸とは関係ない。逆に言うと、つねに会話の選択肢を2~3用意していて、相手の反応に合わせて適切なものを選ぶ頭の良さがあれば、どんなときも冷静でいられるのです」

 森永氏は獨協大学で教鞭を執っているが、ゼミで重視しているのも脳の筋力だ。

 「学生には、あらかじめ机の上に置いてあるモノを使ってボケる“モノボケ”をやらせます。たとえばライターを取って『仮面ライター!』とボケたりするのですが、人間のクリエイティビティは、せいぜいボケ5~6個くらい。授業90分間で1人12回は順番が回ってくるので、後半はみんな頭が真っ白になっています。でも、そこからがほんとうの勝負。何も出てこない状態から必死に頭をひねってボケを出し続けることが、脳を鍛える格好の訓練になります。

 普段からこういったトレーニングで鍛えているので、うちのゼミ生は就職面接で緊張しないし、何を振られても答えることができます。ゼミ長が、ある会社の最終面接を受けたときの話です。社長がいきなり『うちの会社の強みは“技術力”“成長性”“国際展開”だが、この3つのワードを使わずに、志望動機を3つ教えて欲しい』と無茶振りして、学生たちはみんなパニックに。その中でただ1人、うちのゼミ長だけがステスラと答えて、見事に内定を取ったそうです。

 メンタルが強いかどうかは生まれつき決まっているわけではなく、誰でも訓練で鍛えられます。いまからでも決して遅くないと思いますよ」

 

森永卓郎

(もりなが・たくろう)

経済アナリスト、獨協大学教授

1957年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、日本専売公社(現JT)に入社。日本経済研究センター、経済企画庁総合計画局、UFJ総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング〔株〕)などを経て、経済アナリストに。多彩なテレビ番組に出演するほか、新聞、雑誌など多くのメディアに寄稿している。

 

<掲載誌紹介>

2014年6月号

<読みどころ>プレッシャーのかかる仕事を成し遂げるには、プロとしての実力や経験はもちろんのこと、メンタルの強さが必要です。しかし、「メンタルは生まれ持った性格」であると誤解している人も多いようです。では、いかなるときも平常心を保ち、結果に向かって最善を尽くすことができるようになるためには、どうしたらよいのでしょうか。今月号の総力特集では、ビジネスの第一線で活躍している方々に、強い心の保ち方についてアドバイスをいただきました。

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発売日:2024年11月06日
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