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東北楽天・立花陽三社長 「緻密な分析」と「コミュニケーション」で優勝を手にする

2014年01月31日 公開

立花陽三(東北楽天ゴールデンイーグルス球団社長)

「切り替え」こそがプロフェッショナルの条件

 データ活用や理論が、立花氏の武器であるのは間違いない。しかし、大学時代はラグビー選手でもあった立花氏は、それが絶対ではないこともまたよく理解している。

 「選手の査定では、評価項目をできるだけ細かく数値化しています。たとえば打者なら、打撃に関する項目だけでも30は下りません。細かいほど特定の人の主観を排除し、フェアネスを担保できると考えるからです。

 ただし、選手にとって数字はあくまで50%だとも思っています。どのスポーツでもそうですが、選手のパフォーマンスはメンタルに大きく影響されます。だからこそ、選手たちが気持ちよくプレーできる環境や雰囲気を作るのも、私たちの仕事です。その基本はやはりコミュニケーションでしょう。私は年間100試合は直接球場に足を運び、選手にも積極的に声をかけます。もっとも話題は『ファンの方がこんなこと言ってたぞ』とか、『このへんにうまい店ないか?』とか、他愛のないものばかりですが」

 1つ心がけているのは、「負けたとき、うまくいかなかったときこそ声をかける」ことだという。

 「これはジョーンズから学んだことです。彼は徹底して勝負にこだわるプロフェッショナルでありながら、失敗してもすぐに切り替え、高いパフォーマンスを維持している。だからこそ私も選手に『へこんでいてもしょうがないぞ』と声をかけるようにしているのです。もっとも、シーズン24勝0敗の田中(将大)には、逆に試合後にはほとんど声をかける機会がありませんでしたが(笑)」

 

メジャーリーグでは黒字が当たり前

 コミュニケーションを大事にする立花氏の印象は、「外資系出身のドライな経営者」とはまったく異なる。

 「そもそも私は外資系にいて『ドライな世界だ』と思ったことはありません。確かに数字は求められますが、最初にそのことをしっかり説明され、こちらも納得して働いているわけです。その点ではプロ野球選手と似ているのかもしれませんね。外資系企業から球団経営に転じて、文化の違いに戸惑うようなことはほとんどありませんでした」

 立花氏の姿は、映画にもなった「マネー・ボール」の主人公、オークランド・アスレチックスのGMを務めるビリー・ビーンと重なる。立花氏はそのビーン氏を訪ね、本人から直接教えを請うたという。

 「日本とアメリカではリーグの規模もシステムもだいぶ違うので、そのまま参考にすることはできませんが、赤字球団が多い日本に比べ、メジャーリーグでは黒字が当たり前。いったいどうしているのかと、メジャー6球団の経営陣に話を聞いてきました。ビーン氏にも、少ないお金でどう効果的なマネジメントを行なうか、スカウトの際に注目すべき点などをうかがい、非常に勉強になりました。

 ですが、より印象に残っているのは、アリゾナ・ダイヤモンドバックスのデリック・ホール球団社長です。私が訪れた際、彼は球団が販売しているチームのユニフォームを模した上着を着て現われました。聞けば、球場にいるときはいつもその格好とのこと。球団社長自らが、つねにファンと同じ目線に立とうとしている姿勢にまず驚かされました。また、球団職員が胸につけている缶バッジには、『イエスと言うための方法を見つけよう』と書かれている。ファンのためにできることは何でもやろうという決意の表われです。

 彼らに比べたら、我々はまだまだファンを大切にする気持ちが足りないと痛感しました。ファンのいない野球は単なる草野球。私たちのビジネスはファンによって支えられ、成り立っている。そのことは何度も繰り返し言っていますし、選手の査定項目には当然『ファンサービス』が入っています」

 実際、今年のファンの盛り上がりはすごかった。

 「仙台市の人口は約100万人、都市圏人口で約200万人です。他球団に比べて少ないといわれることもありますが、東北の人口約1000万人と考えれば、決してそんなことはありません。優勝パレードには実に21万4000人もの人が集まってくれました。そうした方々の笑顔を見て、努力次第で新たなファンの方はまだまだ開拓できると実感しました。

 震災のあった東北のチームであるため、選手の一挙手一投足への注目度は非常に高いものがあります。だからこそ選手には人間的にも成長してもらいたい。そのためには私のビジネス経験も活かせると思いますし、スポンサー企業にご協力いただき、新人選手に企業研修を体験させるなどの教育もすでに行なっています。

 12月に東北6県の9会場で優勝報告会を行なったのですが、実はこれは選手から出てきたアイデア。こうした意識を持った選手が増えてくれれば、いずれ東北全土から支持されるチームになれると思います」

 


<掲載誌紹介>

2014年2月号

<読みどころ>ビジネス環境が激変する中、あらゆる場面でアイデアが問われる時代になりましたが、上司や顧客から「考えろ」と言われても具体的にどう考えればよいのかわからない人も多いようです。そこで今月号の特集では、ビジネスの最前線で良質なアウトプットを出しているプロの方々の頭の中を覗いてみました。ロジカルシンキングからフレームワークまでビジネスマンの上手な頭の使い方を伝授いたします。

 

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