2013年12月06日 公開
2023年01月11日 更新
《『THE21』2013年12月号より》
困難な状況を打開することに楽しみを見出す
法人向けのマーケティング事業やイベント事業、地域交流事業などを提供する〔株〕JTBコーポレートセールス。代表取締役社長の川村益之氏は、39歳の時に社内ベンチャーで〔株〕JTBモチベーションズを起業した人物だ。当時国内では前例がなかった「働く人のモチベーションを高めるサービスを提供する」ビジネスとはいったいどのようなものなのだろうか。
<取材・構成:塚田有香/写真撮影:まるやゆういち>
「それ以前から多くの日本企業では、インセンティブ旅行を導入していました。売上げ目標を達成した営業担当者や代理店を、ハワイ旅行に連れていくといったものですね。それをJTBが長年請け負ってきたわけです。
しかし、インセンティブ旅行は、働く人たちが頑張った結果に対して提供するものです。頑張る人が増えないと、私たちが旅行を提供する機会も増えません。私たちが社員の方たちのやる気を高めるところからお手伝いできないかと考え始めたのです。そもそもインセンティブという言葉には、馬の鼻先に人参をぶら下げて走らせるようなイメージがありました。でも、このやり方では限界があります。そこで“モチベーション”という概念をテーマとした新規事業を立ち上げることにしたのです。
モチベーションは、『適職感』を始め『期待評価』や『人間関係』『昇進昇級』など人それぞれの要因(モチベーター)が違いますが、特に自分の仕事が好きだとか、夢中になれるといった“適職感”を持つことで生まれます。私が社内起業をした20年前から、この適職感が欠けている人が多いことを実感していました。もし私たちの事業で人々のモチベーションを高めることができれば、お客様はもちろん、日本社会への貢献にもなる。そう考えるとワクワクしてきて、新しい会社を作ることが、私自身のモチベーションにもなっていったのです」
だが、当時は「モチベーション」という言葉すら一般には浸透していなかった時代。川村氏がこのビジネスを提案したときは、多くの役員が反対したという。
「でも私は平気でした。反対されるということは、このビジネスがそれだけ斬新だということ。私の中には常に『イノベーションを起こしたい』という気持ちがあるので、反対されればされるほど、やる気が湧きました。
今年に入って、2010年の大規模な拠点集約に続いて、残された6つの拠点を集約するという改革を敢行しました。JTBは支店の数を増やすことで成長してきましたが、今後は分散されている人材やノウハウを1ヵ所に集めて共有化し、新しい価値を生み出していく必要がある。だからこその改革でしたが、当初はこれも社内の大半が反対でした。しかし、常に環境が変わることを予測し、先手を打ってイノベーションを続けなければ、これからの時代に組織が生き残れないのは明白です。
もちろん、周囲が反対する中で物事を進めるのは辛いこともあります。しかし、リスクを背負わない限り、現状は変えられません。リスクを取れることは、成功する人の条件です。そして、『自分はこれをやるべきだ』という志を持ち、高いモチベーションを保たなければ、リスクを取る決断はできないのです」
自分が提案した企画が採用されなかった時は、その悔しさをバネに意欲を湧き立たせてきた。
「うまくいかなかった時にモチベーションが下がる人は、それを他人のせいにしているのではないでしょうか。『自分はこんなに頑張ったのに、企画が採用されないのはお客様が悪いのだ』とね。私はいつも、うまくいかないのは自分の責任だと考えてきました。自分に足りないところがあると思えば、もっと自分を成長させようという意欲も生まれます。つまり、自責の念を持てる人は、モチベーションをコントロールできるのです。でも他責の人は、それができない。他人が褒めてくれないとやる気が出ない人は、自分の力では何も解決できないと言っているようなものです。
それに、うまくいかなかったときこそ、『この状況をどうやってひっくり返そうか』と考える面白さが味わえるもの。私は現場で営業をしていた頃から、『取られたらすぐに取り返す』がモットーでした。他社に契約を取られても、必ずその理由をお客様に聞きに行き、次は契約が取れるよう戦略を練りました。
誰もが『あのクライアントは無理だ』と言うような客先にも、進んで営業に行きました。今でもよく覚えているのは、あるメーカー様から初めて契約をいただいた時のこと。社長のご学友が経営する旅行代理店が、その会社の社員旅行やイベントをすべて請け負っていたので、弊社の営業は誰もが諦めていたのです。
しかし私は7年かけて、そこを開拓しました。最後の最後は直談判でした。情報を集めるうち、実際に決定権を持つのは副社長だとわかったので、会議がある日を聞き出して、廊下で待ち伏せしたのです。会議室から出て来た副社長に直接話しかけ、名刺と企画書をお渡ししたら、『そこまで言うなら担当の部長を紹介するよ』と言ってくださって、そこから契約を勝ち取ることができました。あとでご本人から、『約束なしで会いに来るなんて失礼だよ』と叱られましたけれどね。でも、このときは私の情熱を感じてくださったのでしょう。以来、その会社とはおつきあいが続いています。これぞ仕事の醍醐味ですよね。難しいことに挑戦するからこそ、『必ず成功してみせる』という意欲が湧くのではないでしょうか」
とはいえ、「私も人間ですから、落ち込むこともありますよ」と笑う川村氏。そんなときは、遊びの時間を持つことで、やる気を回復させている。
「私はよく都内の一流ホテルに泊まって、気分をリフレッシュさせます。オフにしっかり休むことは、オンの時間に仕事に集中し、生産性を高めるためにも大事です。音楽やアートを鑑賞することも多いですね。先日はEXILEのライブに行って、大勢のファンの中に交じって盛り上がったら、嫌なことなど全部忘れてしまいました(笑)。こうして会社の外でさまざまなものに触れて感性を磨くことは、仕事でクリエイティブな能力を発揮するためにも必要なこと。オンのモチベーションとパフォーマンスを高めるためにも、皆さんもオフの過ごし方を見直してはいかがでしょうか」
川村益之
(かわむら・ますゆき)
〔株〕JTBコーポレートセールス代表取締役社長、〔株〕JTB常務取締役
1972年、〔株〕日本交通公社(現・JTB)入社。1991年、市場開発室課長。1993年、みずから新事業として立ち上げた〔株〕JTBモチベーションズ代表取締役社長に就任。2004年、ソリューション事業部事業部長。2005年、〔株〕JTB法人東京(現〔株〕JTBコーポレートセールス)取締役就任ののち、同社常務取締役。2008年より現職。2012年よりJTB常務取締役兼務。
<掲載誌紹介>
<読みどころ>仕事で成果を上げるためには、ビジネススキルを磨く前に「やる気」を出すことが大前提です。どんな状況下でも、やる気を出せるのがプロフェッショナルの条件。しかし、仕事のマンネリ化や人間関係の葛藤、成果プレッシャーなど、仕事の中でやる気を阻害する要因はさまざまです。そこで今月号の特集では、どんな逆風にもひるむことなくモチベーションを高く保つ方法論について、各界のプロフェッショナルに聞いてみました。
更新:11月26日 00:05