2013年11月01日 公開
2023年05月16日 更新
堀氏は自身が話す際、先達から学んだ普遍的な原則に、いくつかの独自のテクニックを加えている。
「前述のマトリックスにも通じますが、最低なのは、スピーカーが自分のしたい話だけをすることです。一方、良い話とは、相手ありき。相手が聞きたい話を探る必要があります。
ですから、私は講演する際、あらかじめ話の筋や内容を決めることをしないようにしています。1時間あるとすれば、最初の15分間を話すあいだに、オーディエンスから何人かを選んで定点観測します。そこでチェックするのは1点のみ。姿勢です。私の話に興味を持ってくれているか否か。背筋の角度で測ることができます。前傾姿勢であれば面白がってくれている。反対に、ふんぞり返っていれば、まったく面白くないというサインです。最初にその反応を見て、筋や内容を決定する。相手に合わせてストーリーを作っていくのです。
私が接することの多い40~60代の方は、話の中に知らないこと、わからないことが出てきても、類推して理解することができます。しかし、大学生だと、類推する力が弱い。これは学力の問題ではなく、単純に人生経験の差によるものです。ですから、40~60代の方と大学生とでは、当然、話し方を変えなければならない。
相手の心を動かすためには、その相手に合わせて話の筋や内容を大きく変える必要があり、臨機応変に対応すべきだということを覚えておいてください」
もう1つ、堀氏が意識しているのが、現代社会ならではの傾向だ。堀氏は、現代人の集中力を約13分と分析している。
「集中力の持続性に関しては、テレビの影響が挙げられるでしょう。私の経験上、ちょうどコマーシャルが入るまでのタイミングに近い約13分間を超えると、多くの人は緊張感が一気に薄れていきます。ゆえに、私は約13分間のあいだに1度、話に山場を作るようにしています。それ以外は、いわゆるダレ場です。軽い話を流す。約13分という短い時間サイクルで山場とダレ場を繰り返すのは、テレビ視聴に馴染んだ現代人に対しては、とくに必要なテクニックだと考えています」
言い換えれば、緊張と弛緩。これは小説や映画といったエンターテイメントの世界でもよく言われる。
「まさに、小説などはこのテクニックを駆使したものがほとんどでしょう。また、噺家の方々もそうです。意識して小説や落語に接し、因数分解をしていくと、長短の差こそあれ、山と谷が繰り返されていることがわかります。講演やプレゼンテーション、あるいは日常的な会話も、それらのエンタメと同じ。相手を引き込むためには緊張と弛緩のサイクルが不可欠なのです」
(ほり・こういち)
ドリームインキュベータ代表取締役
1945年、兵庫県生まれ。東京大学法学部卒業後、読売新聞経済部を経て、1973年から三菱商事〔株〕に勤務。ハーバードビジネススクールでMBA with High Distinction(Baker Scholar)を取得後、〔株〕ボストンコンサルティンググループで国内外の一流企業の経営戦略策定を支援する。1989年より同社代表取締役社長。2000年、〔株〕ドリームインキュベータを設立、代表取締役に就任。2005年、東証一部上場。2006年、同社会長に就任。著書多数。
<今月号の読みどころ>
相手に自分の意思や思いを伝えることを苦手としている人は多いようです。とくにプレゼンにおいては、見た目や演出だけでなく、中身や情熱を誠実に伝えるかが大切といえます。ステレオタイプの表面的な物言いや心がこもっていない話し方では、相手はイライラをつのらせ、信頼を得ることは難しいでしょう。上手に話す人の言葉には力強い説得力があり、温かみにあふれています。そこで今月号では、相手の心に響き、仕事の成果に結びつく話し方について、ビジネス経験豊富なプロフェッションナルの方々にうかがいました。話し方ひとつで、相手の印象がガラリと変わるはずです。
更新:11月23日 00:05