2013年11月01日 公開
2023年05月16日 更新
《『THE21』2013年11月号より》
長年、多くの経営トップと対話をし、数えきれないほどの講演を行ない、ときにはテレビで議論を戦わせてきた堀紘一氏。経営コンサルティングのプロフェッショナルであると同時に、話すことの達人でもある。堀氏日く「相手の心を動かす話し方というのは、容易ではない」。とはいえ、絶対的に必要な原則はあると言う。
<取材構成:村上陽一/写真撮影:永井 浩>
「まず、何を置いても必要なのは、腹から声を出すことです。腹の底から出した声と喉から出した声では、ボリュームではなく、質が違う。同じ内容、同じテンポで話しても、前者は言葉に説得力があり、後者は軽い印象を与えてしまいます。もちろん、特殊な才能が必要なレベルではなく、意識すれば誰もができる程度で十分です」
実際、そう話す堀氏の声は決して大きいわけではない。しかし、身体の奥深くから発せられる声質は、聞く者を自然に領かせるような強さを備えている。
「もう1つは、話すべき内容についてです。これは、相手が知っていること、知らないこと、そして、相手が聞きたいこと、聞きたくないことの、4つの要素から成るマトリックスを考えるとわかりやすいでしょう。
当然のことながら、最も話題にすべきなのは“相手が知らないことで、かつ、相手が聞きたいこと”です。そして、その次が“相手が知ってはいるが、聞きたいこと”。残る2つは捨てるべき話題です。“相手が知っていて、聞きたくないこと”は論外。“相手が知らないうえに、聞きたくもないこと”は、ほんとうは大事な話題なのですが、相手が聞く耳を持つことはありません。
そして、ポイントは、“相手が知らないことで、かつ相手が聞きたいこと”と“相手が知ってはいるが、聞きたいこと”の割合を3対7とすることにあります。より重要度の高い内容を3割と少なくするのは、すべてが相手の知らない話ばかりだと、相手が理解できなくなるからです。3割を理解させるために、あえて7割を“相手が知っていること”にして、領かせる。そうして、話に引き込んでいくわけです」
堀氏が言うこれらの原則は、自身の膨大なリスニング体験から導き出したものだ。
「思い返してみると、私が半生の中で『素晴らしい!』と感じた方々のお話は、すべてこの原則に基づいていました。私の話し方というのは、そういった体験から勉強したものなのです。
たとえば、私にとって話し方の先生と言えるカトカンさん(故加藤寛氏/経済学者)は、この割合が正確なだけではありませんでした。とくに重要な“相手が知らないこと”を話す際、必ず『もうすでに、みなさんご存じのことと思いますが……』と始めるんです。聞き手は、その枕詞を聞いた瞬間、背筋を正す。『知らないとは言えないぞ。しっかり聞いて吸収しなくては』と思うわけです。こういった先輩方の言い回しは、とても参考になります」
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更新:11月23日 00:05