THE21 » キャリア » 【相手の心を打つ話し方】 テクニックではなくコンテンツを磨く

【相手の心を打つ話し方】 テクニックではなくコンテンツを磨く

2013年10月30日 公開
2023年05月16日 更新

経沢香保子(トレンダーズ〔株〕代表取締役)

『THE21』2013年11月号より》

 

伝えたいことを明確にし 相手に合わせて加工する

 

 女性として現在最年少上場社長のトレンダーズ〔株〕経沢香保子氏。社員、取引先、株主など、多くの人を動かすために、経沢氏はどのような“話し方”をしているのだろうか。
<取材構成:西澤まどか/写真撮影:永井浩>

 

感情に訴えかけて自分へ興味を向かせる

 「人は、“良い話”をするから、その人の話を聞くのではありません。“その人”に興味を持っているから、耳を傾けるのです。

 たとえば、先日、私は海外出張に行ってきました。英語がそれほど流暢ではないので、きっと私の話は聞きづらいと思いますし、通じないところも多いでしょう。さらにそのうえ、もし、私が何者かがまったくわからなければ、誰も会って話を聞いてくれなかったでしょう。しかし、『日本で上場している企業の社長』とわかれば、どうでしょうか。相手が話を真剣に聞いてくれます。もちろん、これは話を始めるための、最初のフックにすぎません。とはいえ、フックがあるかないかでは、全然違います。

 確かに、誰もがこのようなわかりやすいフックを持っているわけではありません。そこで、相手に自分に対する興味を持ってもらうために必要なのは、共感することではないでしょうか。たとえば、『以前からお会いしたかったんです』『あなたがおっしゃっていた、○○という言葉が大好きです』などで共感がスタートします。なぜその相手に会いたかったのか、その理由を伝えるだけで、雰囲気は大きく変わります。

 これをするためには、相手のことをよく調べておかなければなりません。私がリクルートで営業をしていた頃は、インターネットなんていう便利なものはありませんでした。初めてのクライアントのもとへ出向く際には、前の担当者に情報を聞いてから、会いに行っていました。今は会社のホームページやSNSなどから、簡単に情報を入手できます。会うまでにその人を好きになるつもりで、情報を収集するといいかもしれません」

 自分の話を相手に聞いてもらうためには、相手の感情に配慮しなければならない。同様に、自分の感情の扱いにも注意を払うべきだと、経沢氏は言う。自分が感情を乱していると、相手にもその乱れが伝わるからだ。

 「どんなに表面的に取り繕っても、自分が不安に思っていると、それが他人にも伝わります。社長の不安は、社員に伝わります。以前は、『ほんとうに上場できるのか?』『社員の人生を預かる能力が自分にあるのか?』などと、不安に思うこともあり、それが社員に伝わることがありました。

 今は、よく寝て、よく食べ、よく睡眠をとり、健康でいることを心がけています。何もしていないと不安になるので、空いた時間を作らないようにして、つねに挑戦しポジティブであるようにしています」

 

相手の心に響く言い回しを覚える

 経沢氏は社長として順調にここまで来たわけではない。 起業した当初は、マネジメントの経験がなかったために、社員への“話し方”で苦労をしたという。

 「もともと直感的に相手の気持ちを理解することができたために、話すことに苦手意識がなく、それがよくありませんでした。

 営業職で必要とされるのは、堂々とした、自信のある話し方です。それは身についていました。しかし、営業職の話し方だけでは、マネージャーはダメだということがわかったのです。マネージャーには、父親のような厳しさとともに、母親のような優しさも必要。社員に寄り添う姿勢も求められます。

 起業当初はマネージャーとしての話し方がわからず、『なんでみんなに伝わらないのだろう』と思うことばかりでした。当時のメンバーとの会話能力は、たとえて言えば、『英語が少し話せるけれども、文法を知らない』状態。ブロークンなので、相手が一生懸命聞いてくれて、初めて伝わるというレベルです。

 確かに、情熱や気持ちはブロークンな英語でも通じます。逆に、騎麗な英語でも感情が伝わらないこともあります。しかし、正確かつ速く伝えることは、熱意だけでは難しい。

 そこで私は、マネージャーとして身につけるべき“文法”や“言い回し”を覚えるための勉強を始めました。具体的には、読書をすることとブログを書くことです。ビジネス書を中心に多読し、相手の心に響く言い回しを覚えました。ブログは、その覚えた言葉を上手に使えるか、確認する場です」

 勉強を通じて経沢氏がたどり着いたのは、物事の“本質”を伝えることに注力すべきだということだった。

 「仕事でも、プライベートでも、話すということは、何か伝えたいことがあるはずです。その伝えたいことの本質を、よりわかりやすく伝えることが、話し方が上手くなるための第一歩だと思います。テクニックも重要ですが、それよりも、まずは“コンテンツ”を磨くべき。『何がしたいのか』という、話す内容を、まず吟味する。テクニックだけ上達しても、口先だけの薄っぺらい人と見られかねません」

 人は、相手が自分と同じ視点を持っていると思いがちだ。しかし、同じ社内といえども、そこに集まる人たちは多様。思ったことを口に出すだけでは、コミュニケーションは成立しない。相手に合わせて“コンテンツ”の表現を工夫することも必要だ。

 「当社には若い社員が多くいます。彼らは、もちろん、私よりも人生経験が少ない。彼らに伝えるには、わかるように“翻訳”して伝える必要があります。

 中間管理職は、上司からの指示を部下に伝えることが多いでしょう。部下への指示は伝言ゲームではありません。上司の指示の意図の本質を理解して、部下にわかるように噛み砕いて伝える必要があります。それができていれば、仕事の細かいやり方まで指示しなくても、『このやり方でどうでしょう』『私はこう思うのですが』などと、部下が自ら提案できるはずです」

 

◆◆ 会社の雰囲気を良く​する経沢流「情報発信術」◆◆

 経沢氏は、社員に恋愛相談を持ちかけられることもよくあるという。それだけ社員との心理的な距離が近いということだ。

 「私の経験から言うと、恋愛関係で悩みを抱えている女性社員は、パフォーマンスにも影響が出やすい。それを解消することも、社員のコンディションを良くするために必要なのです」(経沢氏)

 そんな関係を築けている要因の1つが、自分の情報を社員にオープンにしていること。ブログやtwitter、Facebookなどで発信している情報は社員も見ているうえに、朝会や全体会議でも、プライベートなことを話すという。

 「日頃から社員のコンディションによく目を向けるべきですが、社員数が増えてくると、それには限界があります。自分の情報を明らかにすることで、社員のほうから歩み寄れる環境を作るよう心がけています」(経沢氏)

 

経沢香保子 (つねざわ・かほこ)

トレンダーズ株式会社 代表取締役

1973年、千葉県生まれ。1997年、慶応義塾大学経済学部を卒業し、〔株〕リクルート(現〔株〕リクルートホールディングス)に入社。1999年、創業間もない楽天〔株〕に入社。楽天大学など、さまざまな新規事業を成功させる。2000年、26歳でトレンダーズ〔株〕を設立。2012年、東証マザーズに上場。現在、最年少上場女性社長。美容クーポンサイト『キレナピ』など、女性に特化したサービスを行なう。『自分らしい人生を創るために大切なこと』(ダイヤモンド社)など著書多数。


<掲載誌紹介>

2013年11月号

<今月号の読みどころ>
相手に自分の意思や思いを伝えることを苦手としている人は多いようです。とくにプレゼンにおいては、見た目や演出だけでなく、中身や情熱を誠実に伝えるかが大切といえます。ステレオタイプの表面的な物言いや心がこもっていない話し方では、相手はイライラをつのらせ、信頼を得ることは難しいでしょう。上手に話す人の言葉には力強い説得力があり、温かみにあふれています。そこで今月号では、相手の心に響き、仕事の成果に結びつく話し方について、ビジネス経験豊富なプロフェッションナルの方々にうかがいました。話し方ひとつで、相手の印象がガラリと変わるはずです。

THE21

 

BN

 

THE21 購入

2024年12月

THE21 2024年12月

発売日:2024年11月06日
価格(税込):780円

関連記事

編集部のおすすめ

「軽く見られない話し方」を身につける3つのコツとは

『THE21』編集部

気が利く人の文章マナー「“感謝”を伝えるために手紙を書いています」

石渡美奈(ホッピービバレッジ 社長)