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[世界で活躍する人のマナー術] 相手への「関心」と「敬意」が基本

2013年08月28日 公開
2023年02月02日 更新

橘・フクシマ・咲江(G&S Global Advisors Inc.社長)

 

 

マナーの様式は、場面によってそのつど変わる。とくに国境を越えたビジネスでは、文化の違いを踏まえて振る舞うことが必要だ。しかし、そのなかでも変えずに保つベき姿勢も、たしかに存在する。グローバルなビジネスの場に長年身を置いてきた橘・フクシマ・咲江氏に、その極意をお聞きした。
<取材・構成:林加愛/写真撮影:長谷川博一>

 

ビジネスマナーには100%の正解はない

 世界最大級のヘッドハンティング会社コーン・フェリー・インターナショナルなどで、数々のエグゼクティブと対面し、その行動様式をつぶさに観察するなど、長年、グローバルなビジネスの現場で活躍した経験を持つ橘・フクシマ・咲江氏。その経験を通して氏が感じ取ってきた“信頼を得るマナー”の根本とは何だろうか。

 「これまでさまざまな国籍の方々と仕事をしてきて感じるのは、『マナーには100%の正解はない』ということです。日本、欧米、アジア、それぞれに違った文化的背景があり、何をもって“礼儀”とするかも違います。

 しかし、共通して言えることは、相手への関心を示すことの大切さです。相手の話をよく聞き、『何か聞きたいことは?』と言われたら質問する。そうしたことが、相手への関心と敬意を伝えることにつながります。

 自分がどう見られるかを気にしてオドオドしたり、少しでもアピールしようと自分のことばかり話したりすると、かえって印象を悪くします」

 相手への関心を示すのは、表面上のテクニックではない。ほんとうに相手を知りたいと思うからこそ、自然とできることだ。そのための心構えとは。

「最も大事なポイントは、決めつけないことです。女性だから、外国人だから、といったラベルを貼って、先入観を持って対応すると、相手を知るうえで妨げとなります。

 これは、人材を紹介するという仕事に携わるなかで痛感したことです。ヘッドハンティングは、その人が“優秀か、否か”を判断・評価する仕事だと思われがちですが、実は違います。企業と人材とを引き合わせる際に考えるのは“マッチング”です。長所、短所、まだ発揮されていない能力といった、その人の適性をトータルに見て、顧客企業のニーズに合うかを考えます。『こういう学歴や職歴を持っているから、こういう人に違いない』という決めつけでは、真の“適材適所”のマッチングはできません。

 この視点は、すべてのコミュニケーションに不可欠です。勝手な判断や先入観を持たずに相手と向き合うことが、相手を尊重する態度の基盤と言えます」

 この基本のうえに、対話が始まる。対話では、どのような配慮が必要なのだろうか。

 「相手に理解してもらえる話し方をすることが非常に重要です。実は、これが一番難しいのです。

 社長をしているとき、この点でとても苦労しました。わかりやすく話しているつもりでも、部下がさらにその部下へと話を伝えるプロセスで、内容がどんどん変わっていくのです。

 この現象の原因を、私は“セレクティブ・ヒアリング”と呼んでいます。人は、自分の聞きたいことを聞くものだ、ということです。私も含めて誰でも、自分が重要だと思う部分だけを強く記憶したり、賛成しやすい部分だけを受け入れたりする傾向があります。

 それによって生じる認識のズレを防ぐには、繰り返し伝えることと、言葉の定義を明確にすることが必要。これも、相手の話の受け取り方に配慮する、広い意味でのマナーと言えます。

 話すときに、相手によって態度を変えないことも重要です。目上の人には丁寧に接するのに、目下の人には横柄な物言いをする、といった振る舞いは、信頼を損なう元です。ポジションにかかわらず、どんな相手でも尊重する態度を持ちたいですね」

 

日本的マナーは海外でも通用する

 誰に対しても同じ態度を取るとはいっても、違う文化の持ち主と接する場合は、自然と振る舞いが変わることもある。フクシマ氏は次のようなエピソードを話してくれた。

「学生の頃、米国人の先生と日本人の先生との3人で食事をしたとき、米国人の先生が『サキエは、僕に話すときはフレンドリーに、日本人の先生に話すときはかしこまって話すんだね』とおっしゃったことがありました。無意識のうちにそうしていたんですね。日本では“マナー”というと丁寧さが重視されますが、英語圏では目上の人にも名前で呼びかけ、カジュアルな接し方をします。改めて、文化の違いに気づかされました。

 悪く言えば“画一性”が前面に出やすいのも日本的マナーの特徴です。就括中の学生が同じ色のリクルートスーツに身を包んでいる姿はその典型で、社会人にもその傾向はありますね。近年は変わってきているとはいえ、やはり、みんなが似た格好をしています。それが、外国人には異様に映ることもあるようです」

 とはいえ、こうした日本的なマナーをすべて否定する必要はない、とフクシマ氏は言う。

 「“外柔内剛”という言葉があります。日本人が国際的な場で働く際は、この考え方が不可欠だと思います。海外の流儀に合わせつつ、内側に日本人としての“芯”を堅持することが大切なのです。

 たとえば、強い主張が飛び交う場で自分の意見を表明するにはどうするか。周囲の外国人と同じように大声を出す必要はありません。私の英語力では対等に議論できないので、私は、白熱する議論を黙って聞きながら状況を把握し、意見が出尽くしたときに手を挙げて議論を整理して、自分の考えを述べる、という方法をとらざるを得ませんでした。しかし、このほうが、みんな一生懸命に耳を傾けてくれました。このように、“静かな日本人(?)”でありつつ、意見を主張することは十分に可能だと思います」

 TPOに合わせることと、自分らしくあることとの両立は、日本人同士が働く場においても不可欠だ。

 「その場で求められている服装、言動に倣うのが基本です。それは、周囲に流されることではありません。

 大切なのは、自ら選び取ること。どう振る舞うにせよ、『これで行こうと自分が判断したのだ』という自覚を持ちましょう。

 それは自由さでもあります。極端に言えば、敬語を使わなことをポリシーにしているなら、それを通しても良いでしょう。ただし、それを不快に思う人もいると理解し、その結果を受け入れる覚悟もしておくべきです。

 最初に述べたように、マナーに正解はありません。そのつど自ら選択し、結果に責任を持つ。この姿勢をつねに保つことが、周囲の信頼へとつながるのではないでしょうか」

 

 <<フクシマ流 わかりやすい話し方のポイント>>

 話し方にも文化によって特徴があるが、わかりやすい話し方については、世界共通のルールがあるとフクシマ氏は言う。

 日本企業の米国支社長として成功した人を、米国企業に候補者として紹介したときのことだ。「あなたが成功した理由は何だと思いますか?」という質問に対して、その人は「今の世界経済は……」と話し始めてしまったのだそうだ。

 「その方は英語が流暢なのですが、ロジックがグローバルに誰にでもわかりやすいものではなかったのです。わかりやすいのは、『理由は3つあります』と1点ずつ説明することです。『今の世界経済は……』と話し始め、結論に到達するまで時間がかかったため、相手の方は自分の質問を無視しているとの印象を受けてしまい、『素晴らしい経営者かもしれないが、この方とはコミュニケーションができない』と成約に至りませんでした」(フクシマ氏)

 外国企業に紹介する日本人候補者には、「結論を先に言うようにしてください」とアドバイスしてきたフクシマ氏。これも、日本人が学びたいマナーの1つだ。

 

橘・フクシマ・咲江

(Sakie T.Fukushima)

G&S Global Advisors Inc.代表取締役、経済同友会副代表幹事

1972年、清泉女子大学卒業。国際基督教大学大学院日本語教授法研究課程修了後、ハーバード大学日本語講師。その間、同大学大学院教育学修士課程修了(Ed.M)。スタンフォード大学経営大学院でMBAを取得後、ペイン・アンド・カンパニー〔株〕を経て、コーン・フェリー・インターナショナル〔株〕に入社。同社本社取締役、日本支社長、同会長を歴任。2010年にG&S GlobaIAdvisorsInc.を設立。味の素〔株〕、〔株〕ブリヂストン、J.フロントリティリング〔株〕、三菱商事〔株〕の社外取締役も務める。グローバル人材に関する著書多数。

<掲載誌紹介>

THE21 2013年9月号

<読みどころ>
ビジネスマナーといえば、新入社員研修で習ったきりという方が多いのではないでしょうか。しかし、実際のビジネスの現場では、習ったけれども重要ではないマナー、習っていないけれども重要なマナーがあることに、誰しも気がついているはずです。そこで今月号は、ビジネスの現場の第一線で活躍されている方々に、実践で役立つマナーのポイントを教えていただきました。

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発売日:2024年11月06日
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