2013年08月08日 公開
2023年05月16日 更新
《『THE21』2013年8月号[好評連載]より》
親の遺産相続で、それまで仲の良かった兄弟関係にヒビが……。経験したことのない人にはドラマのような話かもしれないが、実際に多く発生する。とくに、独身でいる場合、家族のある兄弟姉妹から親の遺産に関して譲歩を迫られることも。また、生涯独身の場合、自分の財産をどうするのかも考えておく必要がある。
どのように考えれば良いのだろうか?
30代後半から40代に差しかかってくると、親も年老いてきます。遺産相続を意識し始める人もいるでしょう。
「遺産相続でもめた」という話は一度や二度は聞いたことがあるのではないでしょうか。とくにもめることが多いのは、兄弟姉妹だけの相続になった場合。現在の民法では、兄弟姉妹は資産を均等に分けるのが基本的な考え方ですが、「親と同居して、面倒を看た」などの事情を考慮して、金額に差をつけることもできます。遺言の内容や話し合いの場(遺産分割協議)で、遺産をめぐる争いが始まるわけです。
兄弟だけならともかく、配偶者も絡んでくると、話はこじれてきます。自分では「兄貴は親孝行していたから、たくさんもらえばいい」と思っていても、妻が「そうは言っても、うちも均等にもらいたい」などと言い出せば、そう主張せざるを得ません。それで、話し合いがこじれることはよくあります。しまいには、血のつながった兄弟間で弁護士を立て合い、骨肉の争いを繰り広げることも……。
ただ、私が家計相談に乗った方を見るかぎり、この連載の対象読者である独身の方に関しては、遺産相続でもめるケースは少ないようです。
その理由は、子供のいる他の兄弟姉妹に遺産を譲ってしまうから。独身者は自分一人だけのことだけ考えれば良いので、子供のいる兄弟姉妹ほど、遺産の必要性を感じないのでしょう。だから、「変にもめるくらいなら辞退したほうがいい」という選択をする人が多いわけです。
遺産相続の取りまとめ役になると、相続人を探したり、遺産分割協議をとりもったり、といろいろ大変ですが、これも、遺産をたくさん欲しい兄弟姉妹が立候補することが多いようです。遺産に関して、あまりこだわらなければ、独身の人がその役を押しつけられる可能性は低いでしょう。
ただし、独身者でも、遺産でもめるケースがあります。それは、親と実家で暮らしていて、その親が亡くなったというケースです。
本人としては、今後も実家に住み続けるつもりでいるかもしれませんが、他の兄弟姉妹は同じように思っているとは限りません。それどころか、「家を売って現金化し、皆で均等に分けたい」と考えている人のほうが多い、というのが私の実感です。
冒頭でも述べましたが、兄弟姉妹は均等に遺産をもらうのが基本です。家以外に多額の金融資産があれば、独身者が家をもらっても、均等に遺産を分けられますが、よほどのお金持ちでないと、そんなことはありません。すると、「一人で住むのに、こんな広い家なんて必要ない。現金化して、そのお金で別のマンションにでも住んでくれ」となるのです。
「生まれ育った実家を残したい」と感傷的なことを考えているのは、意外と住んでいる自分だけだったりします。「老後の親の介護をした」などと主張しても、「その分、実家で金銭的に楽をしていたじゃないか」などと反論されることもあるでしょう。その結果、住み慣れた家から放り出された例は、枚挙に暇がありません。
「たしかに、遺産は均等に分割すべき。家を売ろう」というなら、それはそれで良いのですが、実家に住み続けたいなら、事前に手を打っておいたほうが良いでしょう。
具体的には、家族の目の前で、親に「今、お兄ちゃんが自分の面倒を看てくれているんだから、お兄ちゃんにこの家を残す。残りの金融資産をお前たちで分けなさい」といった内容のことを宣言してもらうこと。
そのうえで、その内容を、遺言書に残してもらうことが大切です。法的な効力を考えれば、公証役場で作成する公正証書遺言がベスト。「勝手に書かせたのでは?」という疑念を持たれないためにも、親が認知症などの病気になる前に頼むべきでしょう。
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更新:11月21日 00:05