2013年01月08日 公開
2022年09月29日 更新
コミュニケーションの得意・不得意に関わらず、できれば「やっかいな人」との交渉や調整は避けたいもの。しかし、ビジネスマンであれば、現実にはそういう人との遭遇は避けられない。
そこで、弁護士として各種の事案を解決してきた谷原誠氏に、すぐに役立つ「やっかいな人への対処法」をうかがった。(取材構成:川端隆人)
※本稿は、『THE21』2013年1月号特集「結果を出す人の「やる気」の出し方」より、内容を一部抜粋・編集したものです。
ビジネスの場で出会うやっかいな人の典型として「話が長い人」がいます。たとえば早く商談を進めたいとき、取引先の担当者がこのタイプだと苦労することでしょう。
対処法としては、基本的には「長い話でも聞いてあげられる自分になる」ことをめざすのがいいと思います。
弁護士の仕事でも、依頼者がダラダラと長話をすることはあります。たしかにムダな部分も多いのですが、じつはこの長話のなかに、訴訟で勝つ決め手になるような有益な情報が散らばっていることも多いのです。
おそらく、こうしたことは商談の場合でもあるのではないでしょうか。一見ムダな話のなかに相手のほんとうのニーズが隠れている。いってみれば、長話のなかには「宝」が埋まっているのです。これを遮ってしまうのはもったいない話です。
とはいえ、長い話を我慢して聞き続けるのにも限度があるでしょうから、相手の話を短く縮められるマジックフレーズがあります。
マジックフレーズ(1)
「ここまでのお話を私がちゃんと理解しているか、確認したいのですが...」
相手が長々としゃべっていたら、こういって相手の話を要約してあげる。ちゃんと聞いていること、話を理解していることを伝えてあげれば、相手は満足して話は先に進むはずです。
話の流れを変えるマジックフレーズもあります。
マジックフレーズ(2)
「お話をうかがっていて、気になった点があるのですが...」
「気になった点がある」ということで、相手は「ちゃんと聞いてくれているな」と喜びます。すると面白いもので、この後に相手の話とまったく関係ない質問をしても大丈夫なのです(笑)。これで、ラクに自分のしたい話にもっていけるわけです。
ビジネスには交渉が伴うものですが、そこでは「強引に主張してくる人」が非常にやっかいな相手になるでしょう。
このタイプは、自分に都合のいい同意を得るために話を組み立ててきます。要するに、自分のいうことを聞かせたい、自分の世界だけで生きていて、相手のことを思いやろうとしない。だから交渉でも強引で押しが強いわけです。
とはいえ、このタイプにも弱点はあります。それは、交渉にエネルギーを集中するために、そのぶんエネルギーの消費が早いということ。それを頭に入れておけば、エネルギーを使い果たすのを待つことでラクに話を進めることができます。
待つ方法については、残念ながらじっと亀のように耐えるしかないでしょう(笑)。テレビゲームでいえば、ずっと「防御」のコマンドを選択してチャンスを狙って耐えるイメージです。
しつこく要求を突きつけられると、つい譲歩をしたくなってしまうかもしれませんが、それでは相手の思うつぼ。このタイプに譲歩してしまうとさらに押し込まれて、もっと辛くなるだけです。
とくに会話に苦手意識のある人は、ヘタにしゃべればつけこまれる可能性がありますから、無理に会話を膨らませる必要はありません。言葉少なに「応じられない」ということだけを伝え、相手のガス欠を待つことです。
マジックフレーズ(3)
「社内の規定で、それはできないんです」「私にはそこまでの決定権限がなく...」
といったマジックフレーズはこの場面で役にたちます。
もう1つの方法として、日を改めるという手もあります。私の経験から思うに、このタイプの人は、1つの物事に対して使えるエネルギー量が決まっています。ですから、話す機会を何回かに分けることで、こちらが耐えられる範囲でエネルギーを消費させることができるのです。その際には、
マジックフレーズ(4)
持ち帰って検討します」
という定番のフレーズはもちろん、
マジックフレーズ(5)
「新しい提案ができないか、私のほうでも考えてみます」
などといった言い方で、日を改めるといいでしょう。もちろん、考えてみて新しい提案が浮かばなければ、「考える」といった約束は守りましたから、それでかまいません。(笑)
これまでの2タイプほど強烈ではありませんが、意外にやっかいなのが「のらりくらりと話をそらす人」。このタイプへの対処法はシンプルです。話をそらすポイントが相手の弱点なのですから、こちらはそこに集中すればいい。できれば二者択一の質問をして、
マジックフレーズ(6)
「この点はAでしょうか、Bでしょうか?」
と1つずつ確認していけばいいのです。相手が話をそらそうとしたら、
マジックフレーズ(7)
「なるほど、よくわかりました。ところで、大切な先ほどの件なのですが...」
というフレーズで蒸し返して、もう一度質問に戻ればいい。この二者択一の質問を応用すれば、聞きづらいことをラクに聞き出すこともできます。たとえば、取引先の予算にあたりをつけたいなら、
マジックフレーズ(8)
「今回はコスト重視ですか、パフォーマンス重視ですか?」
などと質問すれば、相手はよりスムーズに本音を話してくれるでしょう。
最後に、最近増えているのが「ちょっとしたことで傷つきやすい人」。部下がこのタイプだと、おちおち叱ることもできず、なかなかやっかいです。傷つきやすいのは、自信がなくて自己評価が低いためです。
そこにさらに自己評価を落とすような言葉をぶつけてしまうと、深刻なダメージになり、こちらのいいたいことなど伝わらなくなってしまうのです。
こういう人への対処法は、「評価」と取られるような言葉を使わないことです。たとえば、部下に対してなら、注意したり叱責したりするのではなく、
マジックフレーズ(9)
「これからどうすればいいと思う?」
といったフレーズで、自分で問題に気づかせるように促すのが効果的です。ひと言で「やっかいな相手」といっても、そのタイプにはさまざまあります。相手のタイプを見極めて、適切な対処法を取ることが、よりラクに有意義な会話をするコツだと思います。
谷原誠(たにはら・まこと)
弁護士、みらい総合法律事務所代表パートナー。1968年、愛知県生まれ。明治大学法学部卒業。1991年、司法試験合格。企業法務、事業再生、交通事故、不動産問題などの案件を解決に導くかたわら、『報道ステーション』などのテレビ番組の解説でも活躍。また、著作を通じて、自らの経験を踏まえた交渉術、質問術などを発表している。主な著書に、『人を動かす質問力』(角川oneテーマ21)、『同業の弁護士から「どうしてそんなに仕事ができるの」と言われる私の5つの仕事術』(中経出版)など多数。
(『THE21』2013年1月号特集「結果を出す人の「やる気」の出し方」より)
更新:11月21日 00:05