
脳神経外科などの手術現場で、導入が進みつつある「外視鏡」。
※本稿は、『からだスマイル』2026年11月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
※写真はイメージです。
「内視鏡」という言葉は、検査でも手術でも身近になりました。一方で、「外視鏡」と聞いてすぐイメージできる人はまだ少ないかもしれません。名前だけ見ると体の中に細いカメラを入れる内視鏡に代わる新しい道具のようですが、実際には役割が違います。
外視鏡は、脳神経外科などで使われてきた手術用顕微鏡を、さらに進歩させた手術支援システムと考えるとわかりやすいでしょう。
手術用顕微鏡は、執刀医が接眼レンズをのぞき込み、細い血管や神経を拡大して見る装置です。1960年代以降、精密な脳神経外科手術を支えてきました。
外視鏡では、その「のぞき込む姿勢」が大きく変わります。小型の高性能カメラで術野(手術を行なう部分)を撮影し、拡大された立体画像を大画面の3Dモニターに映し出し、医師は画面を見ながら手術を進めます。
戸田弘紀医師は「執刀医は大きく体勢を変えずに、カメラを動かすだけで自在な角度から術野を確認できます」と話します。
この変化は、患者からは見えにくいものです。ロボット支援手術のように「傷が小さい」「入院期間が短い」といった利点が前面に出るわけではありません。しかし、手術室の中では大きな意味を持ちます。
従来は、執刀医は見たい角度に合わせて首や腰を曲げ、無理な姿勢をとることもありました。長時間の精密な手術では、こうした負担が集中力にも影響します。しかし、外視鏡では正面のモニターを見ながら行なうため、戸田医師は「真正面を見て行なう、いわばヘッドアップサージェリー(顔を上げた姿勢で行なう手術)です」と表現します。
もう一つの特長は、手術に関わる人全員が同じ画像を共有できることです。顕微鏡では、実際にのぞき込んでいる医師にしか術野の像が見えません。しかし外視鏡では、執刀医、助手、看護師、若手医師が同じ鮮明な画像を見ながら進められます。
「同じものを見て、ここはこうですから、こうしてくださいとコミュニケーションを取りながら手術できることは大きなメリットです」と戸田医師。安全性を支えるチームワークや、若い医師の教育にも役立ちます。
外視鏡が役立つ手術の一つに、顔面けいれんや三叉神経痛などに行なう微小血管減圧術があります。神経を圧迫している血管をそっと動かす、非常に細かな操作が必要な手術です。脳の神経や血管のまわりには「くも膜」という薄い膜があります。その膜の綿の繊維のように細いすじを少しずつほどくように切り分けて、血管を動かします。すぐそばには傷つけてはいけない細い神経も走っています。
戸田医師は外視鏡の画面について「大画面モニターには、そこに入り込むような没入感があります。遠くを見ているというより、すぐそこにあるものを見ている感じです」と話します。微細な構造を立体的かつ鮮明に見られることが、慎重な手技を支えています。
また、従来の脳神経外科の手術では、患者は横向きなどの体勢でしたが、外視鏡を使う手術ではカメラの角度を工夫することで、仰向けに近い姿勢で行なえる場合があります。「本来、人間は仰向けが一番負担の少ない姿勢です。そうした姿勢を中心に手術できることは、患者さんの負担軽減にもつながると思います」(戸田医師)。
活用が広がっているのは、脳神経外科だけではありません。これまで顕微鏡を使ってきた脊椎手術、耳鼻科、形成外科などでも導入が進みつつあります。脊椎手術では、患者はうつぶせで、執刀医と助手が両側に立ち、それぞれ正面のモニターを見ながら進められます。
脳神経外科は、精密な技術が求められる一方で、医師の負担も大きい分野です。若い医師が技術を学び、次の世代へ受け継いでいくためにも、外視鏡は重要な役割を担う可能性があります。「世代が変わっていくと、画像がきれいで共有しやすい外視鏡は、非常に普及すると思います」(戸田医師)。
患者が直接変化に気づくことは少なくても、医師にやさしい手術は、結果として患者にやさしい医療にもつながります。外視鏡手術という言葉を耳にする機会は、今後増えていくでしょう。
◎監修:戸田弘紀医師(医学研究所北野病院副院長 兼 脳神経外科主任部長)
更新:10月17日 00:05