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英語を話すのに「文法は要らない」は大間違い

2011年03月01日 公開
2023年05月16日 更新

市橋敬三(英語教育評論家/著述家/アメリカ研究家)

 

文法を「理解すること」と「身につけること」は違う

――ただ、中学生の英文法というと、「そんなものはとっくにマスターしている」と反論が聞こえてきそうです。

【市橋】そう言う方も、はたしてきちんとマスターできているでしょうか。私の指導経験では、社会人の99%が中学1年生レベルの英語を正しく理解していないと感じます。一流大学を卒業した人でさえ、完全にはマスターしていない。英文読解はできたとしても、和文英訳となるととたんにミスが出はじめます。

試しに、「彼はリンゴが好きです」を英語にしてみましょう。とても簡単な例文ですが、この間題に対する答えで多いのは、

He like an apple.
あるいは
He likes apple.
です。しかし、正解は、
He likes apples.

どこが違うかおわかりですか?答えは後ほどお知らせするとして、次に疑問形についてはどうでしょう。『彼女は親切ですか?』を英訳してください。回答の中で多く見られるのは、

Does she kind?
しかし、正解は、
Is she kind?
です。

三人称の「s」や、リンゴを総称していう場合には複数形にする、be動詞とdoの使い分けなどといったことは、いずれも中学英文法でも初期の段階で学んでいるはずです。ところが、一流大学卒でも正しく英訳できる人は少ない。これはほんの一例です。

――しかし、「中学英文法を勉強したのに、いっこうに話せるようになれない」という人も少なくありません。

【市橋】そういう方は、英文法を理解しただけにとどまっているからです。理解した後、それを応用展開して使わなければ、英会話力は身につきません。先にも述べましたが、英文法をマスターするいちばんの近道は、英文法の例文を暗記することです。

文法上の例文を暗記して、算数の九九のような状態にしてあれば、あとは単語をビジネス用語に替えるだけでビジネス英語になりますし、自分の言いたいことはその例文に当てはめれば何でも話せるようになります。

――暗記する際、何かコツのようなものはあるのでしょうか。

【市橋】ええ、やみくもに暗記すればいいというわけではありません。まずは、ひとつひとつの例文を、文法も意味も完全に理解すること。また、暗記する際には、英文を黙読するだけではいけません。

文法的な理解をしっかり脳に刻みこむためには、小さな声でブツブツ言うのでもダメ。実際に話をするように口を開け、きちんと発音しながら音読することが肝心です。

例文が九九のような状態になるには、1つの例文について最低80回、理想としては130回、音読する必要があります。その際には精神統一をし、各例文の状況を目に浮かべながら行うと効果的です。

なお、音読するときには、あらかじめその同じ例文をネイティブ・イングリッシュでしっかり聴いて正しい発音、イントネーションを確かめてから行うのが理想的。英文法のテキストに付録としてついているCDを利用するといいでしょう。

――どのくらいの量の例文を暗記すればいいのでしょう。これとこれだけは必ず押さえておくべき、という例文はありますか?

【市橋】中学1年レベルの英文法からスタートして、それがマスターできたら2年、次に3年......と進んで、各文法について主要な例文を合計で200ぐらい暗記してください。ただ、200というのは一つの目安で、もっと多くの例文を暗記できればそれに越したことはありません。

そして大切なのは、暗記した例文を日常生活の中でもどんどん使うことです。家族や友人と話をするときに英語を使ってみたり、見るもの聞くものを英語で考えてみる。そうすることによってだんだん、例文が自分のものになっていくのです。

この段階になると、耳から入ってくる英語が聞き取れるようになります。また、アメリカ人と会話をしていても、言葉に詰まることなくスムーズに話ができ、こちらの言いたいことを相手に誤解されることもなくきちんとコミュニケーションが取れるようになります。

そう、『聞き流しているだけで』リスニング力がつくのも、英会話教室で英語力を磨くことができるのも、すべてその土台、つまり英文法が完全にマスターできていることが大前提なのです。

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