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肺炎は80代で急増するのに なぜワクチンは60代で考えるべきか

木原洋美(医療ジャーナリスト)

からだスマイル

高齢になるほど肺炎のリスクは高まり、一度の発症が寝たきりや介護につながることもある。その恐ろしさと対策について、医療ジャーナリストの木原洋美さんに解説していただきます。

※本稿は、『からだスマイル』2026年8月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
※写真はイメージです。

 

年間14万人以上 肺炎は日本の死因の第5位

最近、テレビで「肺炎球菌ワクチン」のCMを見かけることが増えました。高齢者用のワクチンという印象はあっても、「そもそも肺炎球菌って何?」「誤嚥性肺炎とは別の肺炎向けでしょ?」「打たないといけないの?」など疑問を持つ方は多いようです。

読者のなかには、自分自身だけでなく、親の健康管理に関わる方もいらっしゃるでしょう。ぜひ正しい知識を持って、大切な家族を守る備えをしてほしいと思います。

まず押さえておきたいのは、日本では肺炎が高齢者の大きな死亡原因になっているという事実です。厚生労働省の統計では、肺炎は死亡原因の第5位。特に80歳を超えると急増し、誤嚥性肺炎を含めると年間14万人以上が肺炎で亡くなっています。

「高齢者は飲み込む力(嚥下機能)が低下し、むせなくても唾液や食べ物が気管に入る〝不顕性誤嚥〟が日常的に起きています。誤嚥した際、口の中の細菌や肺炎球菌が肺に入り込むと肺炎を発症してしまいます」と日本呼吸器学会・日本老年医学会専門医・指導医の木田厚瑞医師は解説します。

 

定期接種は2014年から時代とともに改良・進化中

では、その「肺炎球菌」とは何でしょうか。

肺炎球菌は、私たちの鼻やのどに普段から存在する細菌の一つです。健康なときは問題を起こしませんが、免疫力が落ちたり、誤嚥が起きたりすると、肺炎や髄膜炎、菌血症(血液の感染症)など重い病気を引き起こすことがあります。市中でかかる肺炎の原因菌として最も多く、特に高齢者は心配です。

こうした重症化を防ぐために作られたのが肺炎球菌ワクチンです。肺炎球菌ワクチンには種類があり、現在日本で使われているのは「PPSV23」と「PCV」シリーズの2種です。

PPSV23は23種類の肺炎球菌に対応する従来型のワクチンで、2014年から高齢者の定期接種として導入されました。一方、2026年4月から定期接種で使用されているのが「PCV20」です。免疫の〝記憶〟を作りやすい結合型ワクチンで、より広い型に対応し、1回の接種で長く効果が続くのが特徴です。

肺炎球菌には100種類以上の型があり、ワクチンは長年にわたって改良され、対応できる型が増えてきました。つまり、ワクチンは古いものをそのまま使っているのではなく、時代とともに進化してきたのです。

誤解されがちですが、ワクチンは誤嚥そのものを防ぐものではありません。しかし、誤嚥によって肺に入った細菌が引き起こす重症化や入院、死亡のリスクを大きく減らすことができます。「特に高齢者は免疫力が低下しているため、ワクチンによる〝重症化予防〟の効果は大きな意味を持ちます」(木田医師)。

 

効果が最も高いのは65歳前後 必要性のピークは80代以降

では、どの年齢で接種するのが最も効果的なのでしょうか。実は、ワクチンの効果が最も高いのは65歳前後です。免疫の反応がまだしっかりしているため、抗体ができやすいからです。

ただし、ここで重要なのは、肺炎で亡くなる人が最も多いのは80歳以上だという点です。つまり、効果のピークは65歳でも、必要性のピークは80代以降。元気なうちに備えておくことが、将来の安心につながります。

一方で、費用の問題で迷う方も多いでしょう。自治体の助成があっても、定期接種(65歳)の自己負担額が6000〜8000円になる地域もあります(平均は3000〜4000円)。そのためか、日本の接種率は3〜4割程度に留まっています。

しかし、肺炎は一度かかると入院が長引き、体力が著しく落ちてしまう病気です。「肺炎をきっかけに寝たきりになった」「退院後に元の生活に戻れなかった」というケースは珍しくありません。

ワクチンは〝肺炎にならない魔法の薬〟ではありませんが、重症化を防ぎ、命を守る確率を確実に上げるという点で、医療現場でも強く推奨されています。

肺炎球菌ワクチンは「自分のため」だけでなく「親のため」「家族のため」でもあります。70代・80代なら、誤嚥性肺炎のリスクはすでに高く、ワクチンの恩恵を受けやすい年代です。「CMを見て『本当に必要なの?』と迷ったときこそ、自分と家族の未来を守るためにワクチンを接種するタイミングです」(木田医師)。

◎監修:木田厚瑞医師(呼吸ケアクリニック東京名誉理事長)

プロフィール

木原洋美(きはら・ひろみ)

医療ジャーナリスト

コピーライターとしてさまざまな分野の広告に携わった後、軸足を医療へと移す。雑誌やWEBサイトに記事を執筆。著書に『「がん」が生活習慣病になる日』(ダイヤモンド社)がある。

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