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AI時代に英語を学ぶ意味はあるのか? 信頼を生む「自分の言葉」の力

ラテン語さん(ラテン語研究者)、内田諭(言語学者・九州大学准教授)

「THE21」対談

「AIがあれば英語学習は不要」と考える人が増えている。しかし、言語学の専門家である内田諭氏は、「自らの言葉で語ることの価値はむしろ高まっている」と断言する。その真意とは?ラテン語研究者として活躍する「ラテン語さん」と内田氏の特別対談企画。(構成:三井カナ)

※本稿は、『THE21』2026年7月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

外国語学習で磨かれる「メタ言語能力」

【内田】ラテン語と、それを源流とする諸言語を習得して、今やマルチリンガルとなったラテン語さん。日本語と外国語を話すとき、思考や感覚も変わりますか?

【ラテン】変わります!例えばイタリア語で話すときは表情や身振りが自然と豊かになり、性格まで別人になったよう。これはどうやら世界共通の現象で、先日、日本語が堪能なイタリア人の方に「日本人なみですね」と称賛の意を伝えたところ、「いえいえ、そんな」と、日本人風の謙遜が返ってきました(笑)。

【内田】なんとつつましやかな(笑)。

【ラテン】なぜ変わるのでしょうね?外国語を学ぶとき、その言語の話者を真似る中で、言語以外の要素も影響を受けるからでしょうか。

【内田】それは多分にあります。もう一つ付け加えるなら、言語ごとの「世界の切り取り方」の違いが思考に影響を与える、ということ。

例えば、日本は「内と外」を区別する意識が強い社会で、日本語もそれに基づいた言語体系になっています。商談で社外の人と話すときも、自社のことを「弊社」と言ったり、上司のことを「〇〇が」と言ったりしますよね。英語にはそうした区別はなく、敬語にあたるものもほとんどありません。

【ラテン】異なる世界観をもとに異なる言語ができ、思考も違ってくる。わかる気がします。

【内田】ラテン語さんならリアルに感じ取れるでしょう。ほかの言語を知ることで、日本語のありようを客観的に見ることができる。この「メタ言語能力」が上がることが、外国語を学ぶ大きな意義の一つです。

【ラテン】私の場合、英語以外の外国語も学んだことで、さらにその感覚が強くなりました。

【内田】それもそのはず。英語だけなら「外国語」の客観視はできませんが、ほかの言語を学べば、外国語同士を対置できますから。

【ラテン】そのせいかもしれませんが、外国語学習は「学んだ言語が増えるほど学習が楽になる」とも感じます。英語を学んだときは、一から活用を覚え、文型を覚え...と苦労しましたが、ドイツ語やフランス語では「ここは英語と一緒だ」「ここは違う」という覚え方ができて、どんどん入りやすくなりました。

【内田】それこそがメタ言語能力です。知っている言語が増えるほど、各々の仕組みを相対的に理解でき、その仕組みを利用して、さらに学習が簡単になるという好循環が起こります。

 

AI時代だからこそ、自分の言葉で話そう

【ラテン】そう考えると、第二、第三の外国語を学ぶことは有意義ですね。

【内田】そうですね。ヨーロッパでは「複言語主義」といって、複数の言語を自分の言語能力の一部として捉え、状況に応じて用いることを重視します。様々な言語を話す人々が暮らす社会では、互いの言語を尊重する姿勢が重視されるのです。

【ラテン】とても納得がいくお話です。私も外国を旅するたびに、相手の言葉を話すことは「リスペクト」なのだな、と実感します。英語が世界の共通語となる中、フランスでフランス語、イタリアでイタリア語を話すと、とても喜んでもらえます。ギリシャのレストランでは、ウェイターさんがお酒をサービスしてくれました(笑)。

【内田】思うに、その話は複数言語を操れるラテン語さんに限らず、英語だけ話せる人や、これから英語を学ぶ人にも当てはまるのではないでしょうか。というのは、「AI時代」になって、翻訳アプリがあるから話せなくてもいい、という考え方が出てきているでしょう?

【ラテン】そうですね。便利なツールですから、気持ちはよくわかります。

【内田】でもそんな時代だからこそ、AIを使わず話せる能力に「プレミア」がつくと思うのです。本人の内部を通って直接語られた言葉こそが、相手に伝わる。ビジネスパーソンの方なら、海外で仕事をする際に得られる信頼感が大きく変わってくるでしょう。

【ラテン】確かに、機械とは違う何かが、相手に届くに違いないです。その「何か」は、「あなたに話しています」という感じや...そうだ、「私は頑張って英語を学んで、ここまで話せるようになりました」というバックグラウンドも。そんな気概や熱意が、言葉に血を通わせるのでしょう。

【内田】同感です。自らの言葉で話すことは、努力して学んだ軌跡や相手へのリスペクト、つまりはアイデンティティの表示です。語学の習得は、継続あるのみの地道なプロセスですが、その先で、大きな価値をもたらしてくれるでしょう。

 

挫折しない秘訣は「好き」と「専門性」

【ラテン】先生、「地道な継続がそもそも無理」という方がいたら、どんなアドバイスをしてあげられるでしょう?

【内田】ラテン語さんには理解しがたい悩みですか?(笑)

【ラテン】いえいえ!私は元来何事も続かない性質で、語学も何度も挫折しかけました。でもなぜか、気づくとまた続けているんですね。

【内田】その原動力はなんでしょう。語学を学びたいと思った、そもそものきっかけは?

【ラテン】中学時代は、ディズニーのコンテンツの歌詞を理解したくて、英語を熱心に勉強しました。ラテン語は、ディズニーシーに飾られていたある地図にラテン語の説明書きがついていて、この言葉がわかれば、大好きなディズニーについてもっと深く知ることができる、と思ったのがきっかけです。

【内田】とすると、「好き」を入口にするのが秘訣かもしれませんね。

【ラテン】そうですね!好きな歌手や俳優さんで英語を話す人がいたら、その人についてさらに知りたい思いがエンジンになりますね。英語圏の発信者は母数が多いですから、どなたにも誰かしら、好きな人物がいるのではないでしょうか。

【内田】いいですね。私からのお勧めは、携わっているビジネスの分野に関連づける、という方法です。金融関係の方なら、株取引、投資信託といった用語や、仕事でよく使う言い回しや表現を「英語で言うと何だろう?」と考えてみる。知識のある分野は頭に入りやすいので、楽しく続けられると思います。自分だけの、自分らしい学習法でもあります。

【ラテン】たくさんのお知恵、ありがとうございます!素晴らしい再会のひとときでした。

【内田】こちらこそ、楽しい時間をありがとう。これからも、ラテン語さんのご活躍と、読者の皆さんの実り多き学習を応援しています。

プロフィール

ラテン語さん(らてんごさん)

ラテン語研究者

1992年栃木県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒業。ラテン語・古典ギリシャ語を教える東京古典学舎の研究員。高校2年生でラテン語の学習を始め、2016年からX(旧Twitter)においてラテン語の魅力を毎日発信している(アカウント名: @latina_sama)。

内田諭(うちだ・さとる)

言語学者・九州大学准教授

1983年、福岡県生まれ。2005年、東京外国語大学外国語学部欧米第一課程英語専攻卒業。2013年、東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻にて博士号(学術)取得。東京外国語大学特任講師を経て2014年より、九州大学大学院言語文化研究院准教授。専門は英語学(認知意味論、コーパス言語学)、応用言語学(辞書学、英語教育学)。『オーレックス英和辞典第3版』(旺文社)、高校英語検定教科書『Vision Quest』シリーズ(啓林館)の共同執筆者。2025年度英語コーパス学会齊藤俊雄賞受賞。中央教育審議会教育課程部会外国語ワーキンググループ委員。

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