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ワクチンも「貼る」時代へ 医療人材不足の切り札となるか

2026年05月18日 公開
2026年05月19日 更新

木原洋美(医療ジャーナリスト)

からだスマイル6月号

「注射で泣く子をゼロに」そんな思いから生まれた、"貼る麻酔”を知っているだろうか?いまや全国1000を超える歯科医院で導入されている新技術について、医療ジャーナリストの木原洋美さんに解説してもらった。

※本稿は、『からだスマイル』2026年6月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
※写真はイメージです。

 

医療課題を解決する簡単・安全・痛くない注射

「痛くない注射で助かるのは、お子さんだけじゃないですよ」。昨秋、高齢のご家族が在宅で緩和ケアを受けている女性が話してくれました。注射痕が硬くなって針が刺しづらくなり、注射のたびに顔をしかめて耐える姿が可哀想だと。

注射にまつわる問題は、痛みだけではありません。急速な高齢化と、それに伴う慢性疾患の増加によって、在宅医療のニーズは高まるばかり。

でも、医療サービスを提供する医師・看護師などの専門職が著しく不足しているため在宅では治療を継続できず、病院から家に戻れない人が今後増えていくと考えられています。「患者本人や家族でも簡単かつ安全に扱える、注射に代わる技術」が今、求められているのです。

昨年の大阪・関西万博に登場して話題を呼んだコスメディ製薬の「貼る注射」はまさに、そうした需要に応えるものです。

それは、ヒアルロン酸でできた長さ数百マイクロメートル(1マイクロメートル※ は1ミリの1000分の1)の超微細針「マイクロニードル」が200本、生け花の「剣山」のように並んでいる1円玉ほどの小さなパッチ。肌に貼ると、針自体が徐々に溶けて肌に浸透していく、世界初の技術です。

※髪の毛の太さの1/100が1マイクロメートル

 

「注射で泣く子をゼロに」まずは全国の歯科に普及

米国などで研究されていた当初の「マイクロニードル」は金属やシリコン製で、痛みや出血、皮膚内の針の残存など、安全性に課題があり、実用化には程遠い状態だったといいます。

「人体最大の臓器・皮膚から薬を吸収させるいい方法はないだろうか」「マイクロニードルの課題を解決したい」。TTS(経皮吸収治療)の研究者である神山文男氏(後に共同創業者となる)の悩みに対し、「それなら皮膚に元々存在する成分で針を作り、溶けるようにしたらいい」と、社長の権英淑氏が提案して生まれたのがヒアルロン酸製の「溶解型マイクロニードル」でした。

結果は上々。まずは、ヒアルロン酸以外にもタウリンやコラーゲンのニードルを配合したスキンケア化粧品が大ヒット。会社がめざす"小さな針で医療の未来を変える”を可能にするための原資になりました。

マイクロニードル技術の医療機器第一弾は2023年販売開始の「アネスパッチ」で、「注射で泣く子を、ゼロにしたい」を合言葉に開発されました。虫歯治療の際の麻酔注射の痛みをなくす「貼る表面麻酔」で、特長は最速1分という効果を発揮するまでの速さ。すでに1000を超える歯科医院で使われています。

 

次の目標は「貼るワクチン」「貼るセンサー」も開発中

「医薬品は化粧品と違って、薬剤や有効成分の必要量を正確に、必要な部位に届けなければなりません」(権氏)

医療分野で求められるこれらの条件をクリアすべく行き着いたのが、折れずにしっかり刺さり、目的の深さまできちんと届く、富士山のようなコニーデ型形状の「富士山ニードル」です。この設計の針に様々な成分を含ませることで、コスメディ製薬は多種多様な医療課題を解決に導こうとしています。

目下最大の目標は「貼るワクチン」の実用化。現在は医師に注射してもらうしかないインフルエンザなどのワクチンが、絆創膏を貼るように接種できたら、在宅や過疎地域、途上国でも接種が受けやすくなり、病気になる人を減らすことができます。

マイクロニードルを使用した自己投与が期待される病気や疾患は、糖尿病、C型肝炎、骨粗しょう症等々、実に20種類以上。表皮の近くには多くの免疫細胞が存在していることからスピーディな免疫獲得を狙えるメリットもあるそうです。しかもマイクロニードルは液体ではなく固形製剤。輸送・保管が容易で、様々な環境での使用や備蓄に適しているのも大きな利点です。

さらに糖尿病患者の血糖値を測る「パッチ型センサー」の開発なども進んでおり、小さな針が拓いてくれる医療の未来は、明るく果てしなく広がっています。

◎監修:権 英淑(薬学博士/コスメディ製薬株式会社代表取締役社長)

プロフィール

木原洋美(きはら・ひろみ)

医療ジャーナリスト

コピーライターとしてさまざまな分野の広告に携わった後、軸足を医療へと移す。雑誌やWEBサイトに記事を執筆。著書に『「がん」が生活習慣病になる日』(ダイヤモンド社)がある。

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