2013年04月01日 公開
2023年05月16日 更新
ライフネット生命保険〔株〕社長の出口治明氏によれば、40代からは「リーダーになることを意識した勉強」が必要だと語る。リーダーに必要な資質を身につけるために有効な、"大人の勉強法"を紹介する。
※本稿は、『THE21』2013年4月号 [総力特集]40歳から伸びる人の「大人の勉強法」 より》、内容を一部抜粋・編集したものです。
<取材・構成:川端隆人/写真:長谷川博一>
膨大な読書量に裏打ちされた知恵をビジネスの世界で活用する、実践的教養人。
"大人の勉強"といえば、ライフネット生命保険〔株〕社長の出口治明氏に話をうかがわないわけにはいかないだろう。その骨太な勉強法は、多くのビジネスマンに支持されている。
「40代からの勉強では、リーダーとなることを意識しなければなりません。リーダーには強い思いが必要です。"志"といってもいい。世界のあり方をどのように理解し、そのうえで、何を変えたいと思うか。
そして、私は"世界経営計画のサブシステム"と呼んでいますが、自分には何ができると考えるか。まず、それを明確にすることです。次に、いくら強い志があっても1人では何もできませんから、なぜそう考えるのか、どうすれば理想を実現できるのかを、人に説明して共感を得る能力が必要です。
また、どんなプロジェクトでも、山あり谷ありは避けられません。"谷"の時期には、メンバーは元気を失います。そのときに、みんなを安心させて最後まで引っ張っていく力が必要になります。一般には統率力といわれるものですが、その実態を考えれば、コミュニケーション能力ということでしょうね。
1人ひとりと丁寧にコミュニケーションを取って、盛り立てていく能力です。
リーダーに必要なのはこの3つの資質です。実際にリーダーを務めている人でも、これらすべてを備えている人は非常に少ない。歴代の総理大臣を思い浮かべてみればわかると思います。
とはいえ、この3つを身につけるための研鑽を怠ってはいけません。それには、人間を知ることです。人間はどういう動物で、どのように行動するのか。人間を知ろうと思えば、たくさん人に会い、たくさん本を読み、たくさん旅をして、いろいろな事象を知ることに尽きます」
"大人の勉強"とは、人間を知ること。そのための方法である人・本・旅のなかでも、とくに効果的なのが本であると出口氏はいう。
「オバマ大統領から学びたいと思ってワシントンにいっても、簡単には会えません。しかし、リンカーンに会おうと思えば、わずか700円足らずのお金で岩波文庫の『リンカーン演説集』が買えるわけです。
読書でとくにお勧めしたいのは、古典を読むこと。古典は長いあいだマーケットで評価されて残っている本です。長く評価され続けているのは、いいことが書いてあるから。僕はいつもいっていますが、いま売れているビジネス書を10冊読むなら、古典を1冊読むほうが役に立ちます。
具体的に何を読めばいいのか。それは関心のあるものでいいと思います。歴史が好きなら歴史を、小説が好きなら小説を読めばいい。嫌いなものを読んでも身につきませんから」
好きなジャンルはないという人には、出口氏は歴史書を勧める。経営上の判断で、歴史から学んだ知見が活かされた経験は数え切れないという。
「60歳でライフネット生命を創業したとき、私は出資者に『現在の保険業界は1788年のフランスだと思います』と話しました。1788年というのはフランス革命の前年です。
既存の生命保険会社が矛盾に満ちたアンシャン・レジーム(旧体制)を守ろうとする一方で、若い世代は所得が下がって保険にも入れず苦しんでいる。
その状況は、まさに革命前のフランスに近い、ということです。このように説明することで、私たちの実現しようとしていることを理解してもらうことができたと思います。
また、普段、私が経営判断をするうえでもっとも参考にしているのは、モンゴル帝国の皇帝クビライ(1215~94)です。ヨーロッパでは十字軍や異端審問が行なわれていた時代に、彼は思想・信条・宗教と政治を切り離していました。
首都・大都(北京の前身)の設計をムスリムの技術者に任せたことが好例です。この例にかぎらず、彼は中国人やペルシャ人、アラブ人など、さまざまな国・地域から優秀な人材を登用しています。徹底的に合理的なのです。いってみれば、ダイバーシティの先駆けですね。
経営判断をするときには、社会の常識に囚われていないだろうか、クビライのように合理的に判断できているだろうか、とつねに自分を顧みています」
更新:11月21日 00:05