
40代・50代のビジネスパーソンの中には、生活習慣病が気になっている人も多いのでは。もしかしたらその病気は、「血管」が関係しているかもしれない。生活習慣病予防に詳しく、「血液サラサラ」という言葉の提唱者の一人としても知られる栗原毅氏に、お話をうかがった。
※本稿は、『THE21』2024年2月号の掲載記事より、内容を抜粋・編集したものです。

厚生労働省の発表によれば、2022年時点での日本人の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳。平均寿命とは、その年に生まれた0歳児が平均で何歳まで生きるかを予測した数値ですから、事故や病気で若くして亡くなる人がいることを考慮すれば、高齢期に差し掛かっている人はさらに長生きする可能性が高いでしょう。
最近は70代で亡くなると「それは早すぎる」と惜しまれるようになりました。このところ「人生100年時代」という言葉もよく聞きますが、その実現はもう目前と言っていいでしょう。
平均寿命が延びることは喜ばしいことですが、その一方で「健康寿命」にも注目しなければなりません。
健康寿命とは介護を受けることなく自立した生活を送れる期間のことですが、内閣府の『高齢社会白書』(2023年版)によると、2019年時点での健康寿命は男性が72.68歳、女性が75.38歳。先に挙げた平均寿命とは、男性で約9年、女性で約12年の開きがあります。
つまり、それだけの期間、何らかの介護が必要になる可能性が高い、ということです。
『THE21』の読者は40代・50代の方が多いと聞きましたが、この年代になると親の介護が視野に入ってきた、あるいは実際に始まっている、という人もいるかと思います。
「人の手を借りずに"ピンピンコロリ"がいい」と親や自分が思っていたとしても、なかなかそうはいかない場合も多いということが、この数値からわかると思います。
では、介護が必要な状態になってしまうのには、どのような原因があるのでしょうか。
19年の厚労省の発表によると、第1位が認知症(17.6%)、第2位に脳血管疾患(16.1%)が挙がっています。脳血管疾患とは、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの総称で、脳にある血管が切れたり詰まったりして起こります。脳の病気というよりは、実は血管の病気なのです。
また、認知症も脳の病気と思われがちですが、そればかりとは言えません。日本人の認知症で最も多く、全体の約60%を占めるアルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞にアミロイドβというタンパク質が絡みついて、神経細胞間の信号の伝達を阻害することで発症することがわかっています。
健康な人は睡眠中に血流によってアミロイドβがきれいに排出されるのですが、アルツハイマー型認知症の人は脳の血流が十分でなく、それによってアミロイドβが脳の血管に蓄積されてしまうと考えられます。
なお、アルツハイマー型の次に多く、認知症全体の20%を占める脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血の後遺症として発症するものですから、明らかに血管が原因と言えます。こうしたことから、認知症も脳の血管の病気と言えるのです。
また、心臓の血管が切れたり、詰まったりする心疾患や、細小血管障害を引き起こす糖尿病も要介護状態に陥る原因。認知症と脳血管疾患と合わせると、要介護の原因となる病気の実に40%以上が「血管」に関わるものなのです。
「人は血管とともに老いる」という言葉がありますが、健康寿命を延ばすには、血管を若く健康な状態に保つことが不可欠だとおわかりいただけるでしょう。

若々しい血管と老化した血管の違いは何かというと、血管を流れる血液の勢いです。
心臓から送り出された血液は、体の中を巡り、わずか1分足らずで再び心臓に戻ってきます。変なスピードですが、それは心臓の力だけでなく、動脈の中層にある平滑筋という筋肉がポンプのように動いて血液を送り出すことでその勢いを生み出しています。つまり若々しい血管とは、平滑筋がしなやかに力強く動く血管ということです。
逆に、老化した血管は平滑筋が衰えて硬くなっている状態です。ポンプの力も弱くなって、酸素や栄養を全身に十分に届けることができなくなります。たとえれば古いホースのようなもので、蛇口から勢いよく水が流れてくると、弾力がないために水圧を受け止めきれずにひび割れを起こしてしまう。つまり、血管が切れたり、詰まったりしてしまうのです。
なぜこのように血管が老化してしまうかというと、2つの大きな要因があります。
一つは「高い血圧」です。血圧が高いと血管の内側により強い力がかかるようになります。言ってみれば心臓の拍動のたびにハンマーで叩かれているようなものです。心臓が1分間に70回拍動すると考えると、1日なら10万回。それだけの回数、ハンマーで叩かれるような圧力を繰り返し受ければ、血管が老化しやすいのもわかるでしょう。
老化した血管は、先ほどお話ししたように、弾力を失って硬くなりますから、そのことでさらに圧力を受けやすくなる、という悪循環に陥ってしまいます。
血管を老化させるもう一つの要因が「ドロドロ血液」です。ドロドロの液体を押し出すにはより強い力が必要になるのは容易にわかると思います。血液がドロドロだと血管の平滑筋に強い負担がかかるだけでなく、血管の内側が傷つきやすくなります。その傷がもとで動脈硬化が起こり、さらに血管が硬くなるという、こちらも悪循環に陥ってしまいます。
「高い血圧」と「ドロドロ血液」という血管を傷つける2つの要因は密接に関係しています。
血液がドロドロになることで動脈が硬化して、血圧が上昇する。その上昇した血圧によって、さらに血管が傷ついて老化が進んでしまう。この負のスパイラルに陥らないようにするには、血液が汚れないように、サラサラに保つことが大切です。
こう言うと「血液検査の数値はすべて問題なしだから大丈夫」という人もいるのですが、だからといって安心はできません。私が以前、東京女子医科大学附属成人医学センターを受診した3000人分の血液データと、血液の流れを測定した画像データを比較したところ、検査の数値は基準の範囲内でも、血液の流れに問題がある人がたくさんいました。
つまり、血液の汚れは、かなりの程度悪化しないと血液検査の数値には表れてこないことがわかったのです。
「何となく体調がすぐれず、疲れも取れない。でも検査では異常がない」と訴える患者さんをたくさん診てきましたが、装置で確認すると、そういう人たちの血液の流れはやはり悪くなっていました。
中国の医学=中医学では、だるい、疲れやすい、肩が凝るといった病気未満の状態=未病の原因は、「汚れた血液」(瘀血[おけつ])であると考えられています。
血液検査の結果は問題がないのに血液の流れが悪い、という人は、この「未病」の状態に足を踏み入れていると考えられます。血液検査の数値が正常だからといって油断せずに、血液が汚れない習慣を心がける必要があるのです。
更新:02月04日 00:05