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猫を診た獣医師が死亡する例も...正しく恐れる“動物由来感染症”

2025年11月19日 公開

木原洋美(医療ジャーナリスト)

猫

動物由来感染症が命にかかわることがあるのをご存じですか。発熱や全身のだるさなど、風邪に似た症状から始まるため、受診が遅れて重症化するケースもあるといいます。世界と比べると日本では発生数が少ないとされていますが、油断は禁物です。正しく恐れるために知っておきたいことを、医療ジャーナリストの木原洋美さんがレポートします。

※本稿は『PHPからだスマイル』2025年12月号の内容を抜粋・編集したものです。

 

マダニが媒介するSFTSは、ペットからの感染もあり得る

「動物由来感染症」をご存じでしょうか。ズーノーシス(zoonosis)とも呼ばれ、動物からヒトに感染する病気の総称で「人獣共通感染症」や「ヒトと動物の共通感染症」ともいわれます。あまり聞き覚えがないかもしれませんが、猫、犬、インコ、爬虫類といった身近なペットを介して感染する例もあり、国は今年4月に「動物由来感染症ハンドブック2025」を発行し、注意を呼びかけました。

実際8月には、マダニが媒介する感染症「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」の患者数が過去最多の135人になりました。SFTSは主として原因となるウイルスを持つマダニに刺されることで感染する感染症ですが、発症した猫や犬から飼い主に感染するケースも報告されています。

三重県では5月に、高齢の男性獣医師が日常診療の中で猫を診察した後に呼吸困難となり、数日後に亡くなるという事態も起きています。SFTSは全患者の約9割が60歳以上で、患者の約3割が死に至るという研究もあります。

さらに6月には、長崎県で昨年亡くなった30代の妊婦が「オウム病」にかかっていた疑いがあると発表されました。オウム病は、インコやオウムなどの鳥類の糞を吸い込んだり、口移しでエサを与えたりした際に細菌が人体に侵入して発症する病気で、妊婦は重症化しやすいことが分かっています。

 

初期症状は胃炎やインフルエンザのよう

動物由来感染症の原因となる病原体は、ウイルス、細菌、寄生虫など様々なものがあります。ペットからヒトへの感染は、病原体に感染したペットと触れ合うことで起こり、おもな原因は以下の通りです。ペットの口内に普通に見られる細菌が原因になることもあります。

<ペットからヒトへのおもな感染原因>
・咬まれる
・ひっかかれる
・ 糞便や体液(尿、唾液、精液など)に触れる
・ 飛沫、塵埃(抜け毛やフケなど)を吸い込む

「動物由来感染症ハンドブック2025」では、「細菌やウイルス等が動物の口の中にいることがあるので、口移しでエサを与えたり、スプーンや箸を共用したりするのは止めましょう。口や目元を舐められるのも避けましょう。また、動物との入浴や布団に入れて寝ることも、濃厚接触となるので止めましょう」と警告しています。

特に懸念されるのは、動物由来感染症はいずれも始まりは発熱、全身倦怠感、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)などが多く、風邪やインフルエンザ、急性胃炎などの症状と似ているため、見逃されてしまうのではないかということです。受診が遅れてしまったり、悪化するまで気づかれなかったりするという心配はないのでしょうか。

 

受診は感染症専門医か総合診療医を

この点について総合診療医の生坂政臣氏に聞いてみると、「ペット由来の病気は、『ペットに咬まれた』など経緯が明らかな場合以外は、医師にとって落とし穴になります。一般的なクリニックでは見逃すかもしれませんね。ただ、感染症専門医や総合診療医であれば、概略は押さえているので心配ありません」とのこと。

「幸い、SFTSや狂犬病などの一部の動物由来感染症を除けば、急激に悪化することは稀なので、私どもは不明熱とか原因不明のリンパ節腫脹、炎症反応陽性の倦怠感などの患者には、必ずペット飼育歴や野山の散策歴、渡航歴を尋ねます」(生坂氏)

風邪や急性胃炎がなかなか回復しない、症状が長引いていると感じたら、感染症専門医か総合診療医を受診しましょう。また、ペットを飼っている人がちょっとでも疑わしい症状で医療機関を受診する場合には、ペットの飼育状況や健康状態、普段の接触の仕方などについても医師に伝えるようにしてください。

世界には200種類以上の動物由来感染症が存在していますが、日本は例外的に少なく、寄生虫や真菌による病気を入れても数十種類程度と考えられています。しかし、たとえペットを飼っていないとしても、私たちは多くの生物と共存しています。この事実を忘れずに、広い視野に立って感染症と向き合っていく必要があります。

◎監修:生坂政臣氏(医療法人生坂医院副院長)

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