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激動の時代に生き残る組織を作るには? リーダーに必要な6つの力

2025年09月26日 公開

福田祥司(PHPゼミナール講師)

変革を実現するリーダー

「人間力」を磨き、部門経営者を育てることを目的としたPHPの研修事業。講師陣は、企業・組織において様々な現場を経験し、時に修羅場を乗り越えてきた実務者ばかりだ。

本稿では、その研修内容の一部を講義してもらう。今回は、組織力強化、人材開発、部門活性化に現場で取り組んできた福田祥司氏が、「企業変革のポイント」を熱く説く!(構成:坂田博史)

※本稿は、『THE21』2025年10月号より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

経営環境の変化を4つに分けて捉える

私たちを取り巻く経営環境は、大きく変化しており、次の4つに分けて捉えることができます。

1つめが、産業構造の転換や事業ドメインの見直し。お客様にどのような価値を提供するのか。ビジネスモデルを抜本的に見直し、高速化するビジネスサイクルに対応することが求められています。

2つめが、テクノロジーの進化。デジタル化はもちろん、AIの活用も喫緊の課題です。同時に、高まるセキュリティリスクへの対応も、企業の存続にかかわる課題です。電子取引によるビジネスは24時間化しています。こうした日進月歩の技術進化に、しっかりキャッチアップしていかなくてはなりません。

3つめが、人材マネジメント上の遠心力の高まり。かつては、組織に人が集まってきましたが、現在は逆に、人が組織から離れていく時代です。会社への帰属意識は低下しており、働く意味や目的も変わってきています。働き方を多様化し、キャリア開発への意識の高まりに応えるなど、フレキシビリティの高い、柔軟な労働環境が重視されています。

そして4つめが、従来の常識・価値観の転換です。過去の成功体験はもう通用しません。数値だけでなく、数値以外の評価を重視することが求められ、仕事とプライベートのバランスを取ることも大切になっています。

現代は、変化が激しく、先が見えない時代です。不安や恐怖、居心地の悪さなどを感じる人も多いでしょう。こうした不安を散らしたいと考え、テキパキと処理したり、早急に結果を出したりする能力を「ポジティブ・ケイパビリティ」と呼びます。不確実なものを確実にする能力のことで、これまでは、このポジティブ・ケイパビリティが重視されてきました。

しかし、これからは、不確実性を許容する高度な能力、「ネガティブ・ケイパビリティ」が重要になります。わからないことを、わからないままに受け入れ、時には、その場にとどまり続けることで全体を理解し、本質を探るのです。

 

変化に「適応する」とは? 2つの重要ポイント

では、こうした経営環境の変化にどのように適応していけばよいのでしょうか。

まず、意識しておくべきは、多くの問題の背景には、複雑な相互作用システムが存在しているということです。人が織りなす活動には、色々な出来事がお互いに影響し合っています。

また、人の行動様式の多くは「状況への適応」を反映しています。決まったことを行なうよりも、その状況に何とか適応しようとするのです。

経営環境の変化に適応するためには、色々な理論や研究を日常に応用する方法を探求し、相手の問題の意味を解釈することも重要になります。

そして、様々な出来事に折り合いをつける、人と組織の防衛努力を尊重することも大事になるでしょう。

「適応」と聞くと、単に状況を受け入れたり、受け入れがたいけれども諦めて受け入れることだと考えがちですが、そうではありません。

私たちが持つ価値観や目的に沿って、問題にうまく取り組んでいけるように、組織的、文化的な能力を開発していくことが「適応」です。つまり、人と組織の開発や能力アップ、成長なくして、環境変化に適応することはできないのです。

また、価値観や目的をめぐり対立が起きている場合には、それがどのように対立しているのかを明確にし、それを調整していくことも「適応」です。

これら2つが適応における重要なポイントとなります。

 

「プロブレム」と「イシュー」の違い

次に、企業変革のポイントについて見ていきましょう。

企業変革とは、社風や慣習、仕事の目的や仕組み、進め方などを大幅に変えること。そして、市場(顧客)、社会に「新しい価値」を提供し、自社や自分たちの仕事の貢献度を上げることです。この2つによって企業変革が成立すると考えます。

問題解決の際によく使われる言葉に「プロブレム」と「イシュー」があります。「プロブレム」は、直接的に害のある問題に対し、すぐに対応する行動、対策であり、方法論がある程度見えていることが多いと言えます。

「イシュー」は、向上、改善、解決する余地がある問題を意味し、最も本質的な検討テーマのことです。

例えば、自宅の水道管から水が漏れているのを発見したとき、水道管の亀裂箇所を見つけ、修理し、水漏れを早急に止めるのがプロブレムの対応です。

他方、自宅および周辺の水道設備を確認し、水漏れの原因候補を洗い出し、二度と水漏れが起きないようにするのがイシューの対応です。

この2つを区別して対応することが重要になります。

 

「技術的問題」と「適応を必要とする問題」

経営やビジネスにおいて、起きた問題を素早く解決することは必須です。先ほど述べたポジティブ・ケイパビリティです。

しかし、解決を急ぐあまり、応急処置的な施策にとどまることも多くなります。すると、同様の問題や類似した問題が再発することになります。

問題には、「技術的問題」と「適応を必要とする問題(適応課題)」の2種類があります。技術的問題とは、どうすればよいかがわかる、過去の経験から対策が打てる問題のこと。

一方、適応課題は、一歩踏み込んで構造やシステムの抜本的な見直し、意識・風土の改革まで必要となる問題のことです。

身体の調子が悪いとき、病院に行き、診断を受け、薬を処方してもらい、薬を飲んで対応するのが技術的問題です。

一方、そもそもなぜその症状が起きたのか、生活習慣やその人の意識、ライフワークなどまで踏み込んで調べ、それらを変えて根本的な治療を行なうのが、適応課題です。

適応課題は、見えないことが多く、わかりにくいものです。そのため、適応課題に対して、技術的問題への対策が実施されていることが多々あります。しかし、これでは問題の本質が改善されず、ゆえに再発したり、問題が拡大したりします。

また、適応課題に対しては、問題を引き起こした構造やシステム、関わる人たちの意識を変えなければならないケースもあります。

このように適応課題は、様々な変革に取り組む必要があり、これは非常にハードルが高いと言えます。取り組みには勇気がいりますし、困難もあるでしょう。それでも適応課題に取り組むことが、現代においては非常に重要となってきています。

 

見えない問題まで考える「システム思考」

問題を構造的に捉える

氷山は、水面上に見えている部分よりも、水面下の見えない部分のほうが大きいのですが、問題も同様で、見えている技術的問題だけを解決しても本質的な問題解決にならないことが増えています。

そこで、見えないことの多い適応課題を解決するには、組織構造やマネジメントの仕組み、管理制度などまで考え、変えていくことが不可欠になります。

あるいは、根底にある、その人たちの意識や価値観、文化、風土まで変えていく必要があるかもしれません。

水面上の問題だけでなく、水面下の問題にも着目することが大切で、このように問題を構造的に捉えるのに有効なのが「システム思考」です。

私たちは、様々な出来事を断片的に見ることが多いため、直接的な関係性の範囲で因果を線形に捉える傾向があります。

しかし、このような見方では、今日の複雑で脆弱性を増した組織システムや社会システムの中で成果を出し続けることは難しいと言わざるを得ません。

システム思考は、「大局の流れを観ること」「つながりを体系的に捉え、全体像を観ること」「根本を観ること」によって、複雑なシステムにおいても、より本質的で持続的な成果をつくり出すことを目的にしています。「木を見て、森も観る」のが、システム思考なのです。

 

5つのステップで変革をやり抜く

イノベーションとは、新たな枠組み・視点、新たな前提、新機軸、新結合、新たな切り口などで、過去や現状の延長線上にある改善・改良とは明らかに異なる、革新的な「変革」を実現することです。

企業活動で言えば、これまでにない製品やサービス、ビジネスモデル、社会価値の提供を創出することだと言えます。

イノベーションの実現のために大切なことを3つ紹介しましょう。

1つが「パラダイム変換」。物事の考え方や価値観、これまでの考え方のパターンを変えること。このパラダイム変換なくして革新的なものは生まれません。

2つめが「協働、共同創造」。1人でイノベーションに挑戦することもありますが、多くの場合、多人数で協働、共同して創造することが求められます。

3つめが、「継続的探究」。単発や短期ではなく、中長期的に継続することがイノベーション成功へのポイントになります。

これら3つが実践されることによってイノベーションが実現できます。

次に、変革をやり抜く5つのステップを紹介します。まず、危機感を醸成します。現状のままではまずい、今変わらないと生き残れないといった危機意識を組織全体に持たせるのが第1ステップ。

第2ステップで、強力な変革推進チームをつくります。企業であれば、このメンバーが中心となって変革プロジェクトを進めていくことになります。

第3ステップで、ビジョンと戦略を構築し、それらを落とし込みます。このステップでは、「変わることの喜び」をいかに広げるかがポイントです。

第4ステップが最も重要で、短期的成果を意図し、変革を実現します。組織においては、「うまくいった」という事実が大きなメッセージ性を持ちます。なので、小さな成功でいいので短期的に成果が出ることを実行します。

第5ステップで、新しい方法を組織文化に定着させます。これら5つのステップで実践していくと変革が進みます。

 

変革のリーダーに求められる6つの力

変革のリーダーに求められる力

変革を進めるリーダーに必要不可欠なのがリーダーシップです。リーダーシップとは、他者に与える肯定的な影響力のことであり、変革のリーダーシップとは、システム思考に代表される体系的な視点で、勇気をもって組織や社会の適応課題解決に果敢に取り組むことです。

最後に、変革のリーダーに求められる力を6つ紹介します。

1つめが「状況や出来事を認知する力」。変革は、どれだけ情報を取り込めるかにかかっています。偏見や決めつけがあると情報は入ってきません。

2つめが「環境や変化を分析する力」。様々な視点や角度、レベルから状況を分析する力によって、事実が明らかになっていきます。

3つめが「構造やシステムで考える力」。繰り返しになりますが体系的に捉える力は必須です。4つめが「未来やビジョンを描く力」。将来のビジョンを提示することが組織を動かす原動力になります。そのうえで、5つめの「戦略策定とマネジメント力」が求められます。最後、6つめが「体験から組織で学ぶ力」です。

複雑で無力感を感じやすい環境の中でも変革のリーダーは、組織の存続のために、関係者とともに様々な適応課題に取り組み、明るい未来を実現するのです。

 

著者紹介

福田祥司(ふくだ・しょうじ)

PHPゼミナール講師

NEC、三菱ケミカルグループにてステムエンジニア、ITプロジェクトマネージャーとして大規模プロジェクトのマネジメントで活躍。また事業部門の責任者として部門経営に従事。2014年、インテリジェンスフィールド合同会社を設立し、経営診断、組織開発、人材開発のコンサルタントとしてリーダー育成、学習する組織の実現など様々な企業支援を実施中。

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