2025年11月11日 公開

説明がわかりやすい。提案内容が的確...営業成績のいいセールスパーソンの特性はいろいろあるが、各人の個性任せでは、一部の「エース」のみに頼ることとなってしまう。では、チーム全体で安定的に成果を出す営業組織を作るにはどうしたらいいか。「マニュアル」とは違う、「コンピテンシー」と「プロセス」の標準化について語る。
※本稿は、グロービス経営大学院 著、嶋田毅 執筆・監修『強くて元気な営業組織のつくりかた』(東洋経済新報社)より一部抜粋・編集したものです。
「営業は商品を売る前に自分を売り込むんだ」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。営業は、基本的に人と対する仕事ですので、愛嬌や人間性などの個性も確かに大事です。しかしそれだけでは営業組織全体としてコンスタントに成果を出せません。顧客が求めるのは、あるレベル以上の質と量を伴った営業対応だからです。そして一定レベル以上の質と量を提供するために重要なのが「標準化」の発想です。
製造業においては、生産プロセスや製品のスペックが標準化されているのは普通のことです。それによって不良品が減り、バラツキの少ない製品が生産されますし、顧客満足も向上します。
営業活動も同様です。工場における自動生産プロセスや工業製品の性能ほどの標準化は難しいまでも、営業活動もそのプロセスや質がある程度標準化されているほうが、高いレベルで安定的に実践できます。ただ、製造現場では当たり前のこのことが、営業ではできていない場合が多いのです。
その背景には以下のような2つの誤解がよく見られます。
1つ目の誤解は「営業の現場の状況や顧客のニーズ、さらにはセールスパーソンの個性はすべて違っており、標準化になじまない」というものです。
確かに細かい点を比べれば、毎回、営業活動の内容は異なります。しかし、より大枠で見れば、営業の流れはいつも、ある程度までは同じです。
たとえば、「見込み顧客に対して電話でアポイントメントを取る」→「顧客からすでに得た情報や関連情報からニーズに対して仮説を立てる」→「営業資料を作る」→「商談を行い、その仮説を検証しつつ、真のニーズを見極める」......といった具合です。
どのレベルまでブレークダウンするかは目的次第ではありますが、こうした共通の流れを洗い出すことで、無駄や無理、ムラを排したり、各プロセスにおけるナレッジを蓄積したりできるのです。
また、営業人材についても、持つべきスキルや好ましい行動様式、すなわちコンピテンシー(高いレベルの業務成果を生み出す、特徴的な行動特性。単なる知識、思考力、資格などではない点に注意)が定義・言語化されていれば、指導や育成もやりやすくなります。さらにその上流の工程である人材採用などにも活かせるでしょう。
たとえばセールスパーソンが備えるべき資質である「顧客志向」についてであれば、「常に顧客の立場に立って考え、彼らの期待やニーズに応えることを目指す姿勢がある。単に商品やサービスを売るのではなく、カスタマーサクセスに貢献するためのサポートやアドバイスを提供する姿勢がある。顧客の声に耳を傾け、長期的な信頼関係を築くことができる」などと言語化されていれば、目指すべき像も明確になるでしょう。これを数項目から十数項目作っておけば、標準化は大きく進みます。
2つ目のよくある誤解は、「標準化=マニュアル化である。営業活動をマニュアルにすることはできない」というものです。こう言う人は「標準化」と「マニュアル化」を混同しています。
「マニュアル化」とは、誰でも同じやり方で作業できるように、最終的なアウトプットを出すまでの手順をわかりやすくまとめることです。コンビニエンスストアの接客マニュアル作成などがその例です。
それに対して「標準化」とは、最終的に目指すべきアウトプットを明確にした上で、その成果物に至るまでのプロセスを統一して共有し、さらにより良いものを目指して日々改善を行う取り組みのことです。
つまり、マニュアル化は静的ですが、標準化は動的なものなのです。
また、マニュアル化は結果よりも途中のプロセスを重視する傾向が強いのに対し、標準化はプロセスだけでなく、結果についても現状維持には留まらないという意思を反映しています。
たとえば、飲食業の接客マニュアルは、その手順に従えば、最低限の対応はできますが、必ずしも品質の向上につながるものではありません。また、なぜそのようにするのかという理由を示すことはあまりありませんし、予期せぬ事象への対応をあまねく網羅することもありません。あくまで「やり方」を統一することにこだわっているのです。
しかし、営業活動は、手順さえ守れば目的を達成できるわけではありませんし、効率の改善も見込めません。「標準化」とは、単に営業活動のやり方をまとめたものではなく、なぜそのようなことをするのかという意味や意義、予想される顧客の反応とそれに合わせた対応までを含めて、一連の営業行動の基本として作り上げていくものなのです。
そして、営業組織を強くするために必要なのは、営業プロセスの標準化だけではありません。同時に、先述したセールスパーソンのコンピテンシーの標準化も必要です。
更新:11月14日 00:05