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人材難を打破する切り札? 企業がリファラル採用を導入するメリット

2025年10月03日 公開

鈴木貴史([株]TalentX代表取締役CEO)

鈴木貴史

労働人口の減少や高い離職率を背景に、人材確保に頭を悩ませる企業は多い。そんななか注目が高まっているのが、マーケティングの発想で採用活動を進める「採用マーケティング」だ。社員が友人や知人を自分が勤める会社に紹介して採用選考につなげる「リファラル採用」をはじめとする幅広い採用支援を手がけ、今年3月に東証グロース市場に上場した(株)TalentXの創業社長・鈴木貴史氏に話を聞いた。(取材・構成:川端隆人、写真撮影(鈴木氏):丸矢ゆういち)

※本稿は、『THE21』2025年11月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

採用活動にマーケティングの発想を

MyRefer「MyRefer」では、リファラル採用の制度設計から採用成果の創出まで、各社が抱える課題を解決するクラウドサービスとコンサルティング支援を行なう

――売上、営業利益とも急伸しています。その要因は?

【鈴木】最初のプロダクトであるリファラル採用SaaS「MyRefer」に加えて、2022年に採用MA(マーケティングオートメーション)サービス「MyTalent」を、24年に採用ブランディングサービス「MyBrand」をリリースしました。

「Myシリーズ」としてマルチプロダクトを展開し、それらをシームレスに連携させることで相乗効果を生み、企業のより効率的な採用活動を支援しています。そのため、大企業を中心に、多くの企業に導入していただけています。

「Myシリーズ」は、企業独自の採用力を強化する採用DXプラットフォームです。

当社は創業当初から、「採用をマーケティングに転換する」という思想を持っています。

グローバルでは2010年代から、採用活動にマーケティングの考え方を取り入れて、中長期的に会社を成長させるために必要な人材に戦略的にアプローチしていく「タレントアクイジション」という考え方が主流になってきています。この流れは日本でも起こると考えていて、そのために必要なサービスを開発しました。

――「Myシリーズ」の月次解約率は0.5%と非常に低いとか。

【鈴木】長く使っていただくほど価値が上がっていくサービスだから、というのが一つのポイントでしょう。

例えば「MyTalent」なら、社員が会社に紹介した採用候補者のデータが、1年目より2年目、2年目より3年目と、どんどん多く蓄積されていき、会社の「資産」になります。

通常、企業の採用担当者のミッションは、「とにかく、今、足りていない人員を採用すること」だったりします。そのために、求人広告を出したり、人材紹介会社を利用したりするわけです。

しかし、それだと採用がどんどん難しくなってきているという現実があります。

生産年齢人口の減少で応募者数が減り、採用コストが上がっているという課題を認識した企業が、リファラル採用に関心を持ち、当社のサービスを使ってくださるようになっています。

当社としては、プロダクトの開発だけでなく、従来の採用とは違うタレントアクイジションという概念の啓蒙から取り組んで、現在に至ります。


「MyTalent」では、採用候補者のデータを管理・資産化し、半自動でのアプローチなどもできる。「MyBrand」では、採用候補者の応募前の認知・興味づけのためのオリジナルのオウンドメディアをノーコードで作成できる

 

リファラル採用には離職率を下げる効果も

――リファラル採用という言葉はよく聞かれるようになりましたが、御社の創業当時はほとんど知られていませんでした。どのようにして顧客を開拓してきたのでしょうか?

【鈴木】具体的に何名採用できた、採用コストをいくら下げられた、離職率がどれくらい下がった、というような、成果として語れる実績を増やしてきたことが大きかったと思います。成果を地道に出して、プロダクトを磨いてPRし、徐々に新しい概念を浸透させてきました。

――リファラル採用をすることによって、離職率も下げられるのですね。

【鈴木】友だちに誘われて一緒に仕事ができたら楽しいですよね。

それだけでなく、一緒に働く仲間を自分たちで集めることを通じて、社員のエンゲージメントも上がります。

業種によっても異なりますが、一般的に、リファラル採用では応募者のうち採用が決まるのは約20%だと言われています。対して、人材紹介会社だと5%ほど、求人広告なら約1%です。

リファラル採用では、業務フローをよく理解している現場の社員が採用候補者を紹介しますし、ミスマッチが起こったら紹介者も責任を感じますから、スクリーニングの精度が高いと言えます。

 

社員を巻き込んでコミットメントを醸成する

――企業がリファラル採用を取り入れるうえで課題となることはありませんか?

【鈴木】日本企業では、採用担当者と社員の距離の遠さを考慮する必要があります。

海外企業では、各現場に採用担当者を置いて、社員が友人や知人を紹介するのが当たり前です。

一方、日本では、新卒一括採用が基本で、採用は現場から離れた人事部の役割だという意識が強い。現場を採用活動に巻き込んでいくという考え方が一般的ではありませんでした。

そのため、採用担当者が、「うちの社員が会社に採用候補者を紹介してくれるだろうか」と不安を感じるケースが多くあります。

――採用担当者以外の社員にも意識を変えてもらう必要があるのですね。それは、どうやって?

【鈴木】社内にどう浸透させて、社員をどう動機づけるか。いかに人を動かして、仕組みにするか。これもマーケティングです。

例えば、まずはリクルーターとして活動していただく社員に向けて説明会を開き、なぜリファラル採用を今すべきなのかということをしっかりとお伝えする。

同時に、トップメッセージとして、全社でリファラル採用を推進していく意義や背景をしっかりと説明していただく。

また、紹介で入社された方が一定期間、離職せず、定着したら、紹介した社員にインセンティブを出す、といった制度設計も効果的です。

友人や知人の職務経歴書を取り寄せて会社に紹介するというのはハードルが高いので、転職を考えていない方でも気軽に参加できるイベントを開催することで、紹介のハードルを下げる、といったこともしています。

こうした手法の先行事例は、アメリカなどの海外に存在しています。それを海外とは文化の違う日本に合わせるために、お客様の声を聞くことが重要ですし、データの蓄積も大事です。

海外とお客様とデータ。この3つの観点でプロダクトを生み出し、磨いてきました。

 

「社員のリクルーター化」だけがリファラル採用ではない

――自分が勤めている会社を友人や知人に紹介することによって、社員の意識が変わるという面もありそうですね。

【鈴木】当社では、リファラル採用とは社員をリクルーター化するということだけではなく、エンゲージメントを高めていく手法だと言い続けています。

「社員が自社を友人や知人に紹介する文化を作ることによって、社員のエンゲージメントが高くなっていく」ということは、実態としてあります。

エンゲージメントが低いから紹介をしないのではなく、エンゲージメントを高めるうえでリファラル採用が有効。そこに対する支援を、当社はしているのです。

――さらなる成長を目指して、どんな展望を持っていますか?

【鈴木】採用マーケティングの領域に関しては、今のところ明確な競合は出てきていない状況で、どれだけこの市場を牽引できるかが鍵だと考えています。

当社のオーガニックな成長に加えて、非連続な成長を生むM&Aも重要です。「Myシリーズ」という当社のプラットフォームと親和性のあるプロダクトを提供している企業にジョインしてもらったり、あるいは、当社の顧客基盤を使ってもっと成長したいという企業にジョインしてもらったりということもあるかもしれません。

TalentX単体というよりも、既存の人材業界に風穴を開ける「連合軍」を作っていきたいですね。

 

【鈴木貴史(すずき・たかふみ)】
1988年生まれ。2012年、(株)インテリジェンス(現・パーソルキャリア(株))入社、イノベーション部門でゼネラルマネージャーを担当。15年、日本の採用のあり方に課題を感じ、「MyRefer」を創業。その後、MBOを経て、18年、(株)TalentXを設立。採用活動をマーケティング活動に転換する採用DXプラットフォーム「Myシリーズ」を展開。「第10回HRテクノロジー大賞」採用部門賞などを受賞。25年、東証グロース市場に上場。著書に『戦わない採用』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

 

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