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ベーシックインカムも必要? 日本で「失業なき労働移動」を実現するための3つの方策

後藤宗明(一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事)

労働移動

日本経済の成長と維持を目指すなら、各企業が自ら成長事業を生み出し、その集合値として「日本の成長産業」を築いていくことが不可欠です。その実現に向けては、何を優先するかによって多様なアプローチが存在します。

ただ重要なのは、雇用を守りながらロボットによる業務の自動化によって消失していく仕事から、給与水準の高い成長産業へと人々を移行させる「失業なき成長産業への労働移動」です。

本稿では、その過渡期を支える仕組みづくりについて、書籍『AI時代の組織の未来を創るスキル改革 リスキリング 【人材戦略編】』より解説します。

※本稿は、後藤宗明著『AI時代の組織の未来を創るスキル改革 リスキリング 【人材戦略編】』(日本能率協会マネジメントセンター)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

アウトスキリングによる労働移動

アウトスキリングとは、収益悪化が原因で人員整理を行わなくてはいけなくなった会社が、その対象となった従業員に対して、退職前にリスキリングの機会を用意し、成長産業での転職が可能となるように行う支援策を指します。特に新型コロナウイルス感染症による影響で収益が悪化したアメリカやイギリスの企業で注目された手法です。

一時期注目された手法ではあるのですが、新型コロナウイルス感染症からの景気回復が早かった米国では未曽有の人員不足が続いているため、アウトスキリングの需要が減ってきたため、雇用を維持して自社の人材を育成していく本来のリスキリングにさらに注目が集まっています。

今後日本においてミドルシニアの方々の雇用をどうすべきなのかという議論が進んでいく中に、もし強制的な労働移動をやるという話になるのであれば、その前に真剣にアウトスキリングの可能性を模索すべきだと思います。

企業としては、一時的に財務状態は改善するのですが、やはりリスキリングの機会はもらえるものの、個人は苦しい思いをするわけです。実際にアウトスキリングの経験を経た方たちが実際に成長産業での転職を成功させ、以前より収入も上がって満足しているといった事例も出始めてきています。まずは日本で全体として、失業なき成長産業への労働移動の実現に向けて真剣に取り組むべきです。

 

AI・ロボット稼働による自動化課税とベーシックインカム

徹底的な自動化が加速度的に進み、新しく生まれる雇用に対してリスキリングのスピードが追いつかず、労働移動が停滞する状況になった場合、大規模な失業者対策等のセーフティネットを用意する必要が出てきます。

1つ目は、ベーシックインカムの導入の議論です。既存の政策やビジネスの仕組みだけでは解決できない場合に必要となります。さまざまな国で実証実験が行われ、労働者の働く意志を削がないといった結果も出てきていますが、賛否両論の状態ではないかと思います。

反対論者の意見の1つは、server wageという米国の仕組みと同様の結果になるというものがあります。米国ではウェイターの仕事などに対し、チップを支払う制度が習慣となっています。ところが、雇用主が来店顧客から従業員がチップをもらえることを前提に、最低賃金をあえて低く設定しており、最低時給を押し下げるという問題が起きているのです。

これと同様に、ベーシックインカムをもらえることを前提に、雇用主が意図的に給与を下げる可能性も指摘されているのです。給与で1人当たりの従業員の生活費を全額カバーすることが保証されない限り、実はベーシックインカムだけでは生活できなくなるという指摘もあるのです。

2つ目は、AI・ロボットを導入している企業に対する税金として自動化課税を課すという考え方です。生産性向上を極大化するために人間を雇わず、AIやロボットを活用している企業に対して、稼働単位に応じて税金を徴収するという考え方です。今後日本でも真剣に議論する必要性が出てくるのではないかと考えています。

automation tax(自動化税)と表現する方もいますが、例えば、従業員1人当たりの雇用をAIやロボットによって自動化している場合に、税金を課すやり方です。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が2017年にQuartz社の取材に対してロボット税を課すべきとの考え方を披露し、当時注目をされました。

例えば年収5万ドルの従業員の方がいたら、所得税や社会保険を支払っているわけですが、その仕事をロボットがやるようになればその所得税などは支払われなくなるわけなので、ロボットに税金を課すべきという考え方です。

例えば、現在厚生労働省が障害を持った方の雇用数が法定雇用率に満たない場合、企業規模に応じて、不足する障害者数に対するペナルティとして、1名につき50000円「障害者雇用納付金」として納付する義務があります。同様に人間を一定レベルで雇用する義務として、「人材雇用納付金」といった形でペナルティを科す。企業がもし生産性の向上と利益拡大だけを追求する事態が加速してしまうと、過渡期としてそういった仕組みでも作らないと、人間の雇用そのものが危うくなる可能性もあるのではないでしょうか。

技術的失業を防ぎきれない過渡期においては、AI税、ロボット税などから得られる財源を用いて失業している方への支援、リスキリングによる就労支援に充当するなどの検討が必要になってくるのではないかと考えています。

 

リスキリングを条件とした公共・民間のハイブリッド職の拡大

現在、大都市圏と地方、大企業と中小企業で、人手不足と余剰人員の状況がそれぞれ異なっています。また事業形態や内容によって異なります。

社会不安、治安悪化などを未然防止するためにも、技術的失業に陥る方々を一時的に受け入れる雇用の受け皿として、税金と民間給与の財源から半分ずつを拠出する、公共と民間のハイブリッド職などの創設の議論も検討する必要が出てくるのではないかと考えます。

政策起業家、社会起業家の方々の支援を含め、社会維持のための必要な公共性の高いエッセンシャルワークの分野、最低限の人間の衣食住を維持するサービス提供に関する分野などに適用します。

ハイブリッド職に就業することで、生活を維持しながら成長分野の職に就くためのリスキリングに取り組むことを就業条件にする、期間限定にする等の措置を取ることで、財政への影響を最小化する必要もあります。雇用を維持するための雇用、については反対意見も大きいですが、労働の自動化が短期間で極端に進んだ際には、大企業出身のホワイトカラー職の中高年労働者などに対しては、必要な措置と考えます。

 

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