2025年07月15日 公開
「人間力」を磨き、部門経営者を育てることを目的としたPHPの研修事業。講師陣は、企業・組織において様々な現場を経験し、時に修羅場を乗り越えてきた実務者ばかりだ。本連載では、その研修内容の一部を誌上講義してもらう。連載4回目は、「チームには共通の目的や目標が必要」と語る中野達也氏が、「衆知を集めた強いチームのつくり方」を熱く説く! (構成:坂田博史)
※本稿は、『THE21』2025年8月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
近年、働き方が大きく変わり、チームメンバーに正社員だけでなく、契約社員や派遣社員、パート社員がいるという方も多いでしょう。現在のリーダーには、こうした多様なメンバーがいるチームを率い、強いチームにすることが求められています。
「チームとは、共通の目的、達成すべき目標、そのためのアプローチを共有し、連帯責任を果たせる補完的スキルを備えた少人数の集合体である」
『[高業績チーム]の知恵』(ダイヤモンド社)の著者であるジョン・R・カッツェンバックとダグラス・K・スミスは、チームをこのように定義しています。目的や目標、アプローチを共有することがチームにとってとても重要だということです。
また、経営の神様と呼ばれた松下幸之助氏は、昭和47年の松下電器経営方針発表会で「みんなが経営に興味を持って、お互いに知恵(衆知)を出し合って、それをうまく結集し、経営の芯としている、というような会社は、概して発展している。それが特にうまくいっている会社は急速に発展している」と述べ、衆知を集めることの重要性を説いています。
部長や課長などの役職に就くと「まず私自身が頑張ろう」と思う方も多いでしょうが、それ以上に周りの人たちの知恵を集める=「衆知を集める」ことが強いチームづくりのカギを握るのです。
チーム全体の認識を揃えることを「アラインメントを取る」と言います(アラインメントとは「統合」「結合」の意)。「何に衆知を集めたらいいのか?」には色々な考え方があると思いますが、チームの定義である「共通の目的、達成すべき目標、そのためのアプローチを共有する」ところに衆知を集め、アラインメントを取ることだと私は考えています。
具体的には、組織やチームにとって重要な「目的・ミッション・バリュー」「ビジョン」「目標」「方針」「戦略・戦術」「具体的なアクションプラン」などを策定するときに、衆知を集めることは役立つでしょう。
このチームの目的は何か。使命は何か。どのような任務を担っているのか。チームが大切にしている価値は何か。
ビジョンとは、チームがミッションを遂行して実現する望ましい未来像のこと。また目標とは、ビジョンに近づいているかを数値的に表す指標です。
方針は戦略の原点になるもの。具体的に何をやるのか、やらないのかを戦略として決め、どのようにやっていくのかを戦術として決めます。そして最後に、チームとしての具体的なアクションプランをつくる。
これらをメンバー全員の合意のもとで策定することで、「本当はあのとき賛成ではなかった」といった言い訳はなくなり、チームの一糸乱れぬ行動につながります。
2024年に創業50周年を迎えた埼玉県のA社の3代目社長は、とてもエネルギッシュで、これまで強いリーダーシップで会社を引っ張ってきました。ただ、これからは自分だけが引っ張っていくのではなく、役員チームが引っ張っていく「衆知経営」を目指したいということで、23年10月から私が役員8人に対して一枚岩会議(R)(=チームコーチング)を行なっています。
役員チームは、「100年企業」「グループ年商100億円」「お客様からの100の信頼をいただく」という3つの目標を立てていました。
私は、「グループ年商100億円をいつ実現したいですか」と一枚岩会議(R)の中で訊ねました。
23年度のグループ年商は約70億円でしたが、社長と筆頭常務の2人は、27年度に実現したいと答え、それ以外の役員はそれよりも先の年度を答えました。それから8人で討議を行ない、27年度に100億円を目指すことで合意しました。
多くの企業では、様々な要素を考慮したうえで、これなら実現できそうだという目標を決めます。しかし、大きな成果を出している組織や個人は、まず実現したい目標と期日を決めます。そして、目標と期日を決めてから、それをどのように実現するのかを考え、計画を立てていきます。
アラインメントを取るプロセスで「決める」ことを全員で行なうと、全員が目標に対して腹落ちしているので実現可能性が高まります。
A社も「いつまでに」の目標を役員全員合意のもとで決定したので、その実現可能性はさらに高まっています。
一度アラインメントを取っても、チームのメンバーが入れ替わることもあるでしょう。メンバーが変わればチームも変わります。ですから、そのたびに「また一からチームづくりを行なう=アラインメントを取るプロセスを踏む」ことがリーダーには必要になります。
兵庫県にある創業40周年を迎えたB社の事例です。B社では、2020年、23年、25年と3回、アラインメントを取る「一枚岩会議(R)(=チームコーチング)」を実施しましたが、24年から25年にかけて、ナンバー2人材の入れ替わりがありました。この人物はアラインメント作成に関わっていない方です。
しかし、この新しく入ってきたナンバー2にも、これまでに決めたアラインメントを自分事として共有してもらえなければ、強いチームづくりにはつながりません。
この人物が初参加した25年の会議で私は、これまでのメンバー6人に「あなたにとって、このミッションは仕事にどのように活きていますか。あるいは、このビジョンはあなたにとってどんな価値があるでしょうか」について語ってもらい、各自の考えや思いを皆で共有しました。
2日間の会議中は、アラインメントへの関わりがやや薄く見えていたナンバー2ですが、メンバーの発言を聞くうちに、皆でつくったアラインメントに乗っかっていく準備ができたのでしょう。会議から1カ月後、彼の表情や行動が以前とずいぶんと変わっていることに私は気づきました。社長も、「このチームでの自分の役割を見つけ出したみたいだ」と言っていました。
会議から1カ月をかけ、他のメンバーとの関係も構築し、彼は経営チームの真の一員になったわけです。
衆知を集めた強いチームづくりのプロセスにおいて大切となる要素が2つあります。それが、「主体性」と「関係性」です。
チームにとって、メンバー一人ひとりの「主体性」が立ち上がっていくことが重要なことは言うまでもありません。では、メンバーの主体性はどのように立ち上がっていくのでしょうか。
まず衆知を集めるときに、一人ひとり全員に意見を言ってもらいます。その意見が他のメンバーにどれくらい受け入れられるかが重要になります。
例えば、私が関わっている会議では、一人ひとりが発言するたびに拍手をもって承認するということをやっています。自分の意見がチームに受容されれば、「このチームの役に立ちたい」と思うようになり、自分から動き出します。
2つめの「関係性」も強いチームづくりには欠かせません。私はこれまで多くの企業の会議を実際に見てきましたが、重要なことほど話し合われていないと感じています。
兵庫県芦屋市で100年続くC社は、創作珍味を製造・販売しているのですが、「御社にとって創作珍味とはどういう意味ですか」と尋ねると、皆が違うことを答えました。また、「創作珍味についてどれくらい話し合っていますか」という私の問いに対して返事はありませんでした。
組織やチームにとって重要なことを話し合うことはとても大事なことです。なぜなら、その話し合いを通して、お互いをよく知ることができるからです。また、自分の考えを発言することで自分を知ることもできます。
相手を知り、自分自身を知ることでチームの関係性が深まっていきます。自分たちが目指すビジョンや目標に向かってお互いが協力し合う、相互依存の関係ができあがっていくのです。
メンバーの主体性が立ち上がり、関係性が深まると、次のプロセスである「成功循環モデル」に入っていくことができます。これは、MIT組織学習センターの共同創始者であるダニエル・キム教授が提唱したモデルで、「関係の質」「思考の質」「行動の質」「結果の質」を上図のように循環させることで、より良質な結果を求めることができるという考え方です。
多くの組織は、「結果の質」を求め過ぎるがために、時間がかかる「関係の質」から入ろうとはしません。しかし、「時間がかかっても『関係の質』から入っていくことが大切だ」とキム教授は言います。
衆知を集めた強いチームづくりにおいても、この成功循環モデルが使えます。
先ほど述べた主体性と関係性が立ち上がってくると、この「関係の質」というスタート地点に立つことができます。自分の真実を話し、相手の真実の話を受け入れることで、お互いの関係性が深まり、良好なコミュニケーションが取れるようになります。相手を知ることも、自分を知ることもできます。
自分と他のメンバーの真実が違う場合、メンバー同士の葛藤が生まれることもあります。
心理学者のブルース・W・タックマンが提唱した「チームの発達段階モデル」では(上図)、チームは形成期から混乱期、統一期、機能期、散会期へと移っていきます。メンバーのぶつかり合いが生じる混乱期を経ることは必然であり、お互いに自分の真実を話すからこそ混乱が生まれるわけですが、お互いの真実を語りつくすことで理解が深まり、やがて統一期に進んでいくことができます。
次の「思考の質」の段階では、議論を尽くすことが大事になります。
皆さんの中には、部門や課などチームのトップの任にいる方が多いと思いますが、皆さんの視座や視野と、メンバーの視座や視野はおそらく違います。その違いをいかに近づけていくか。議論を尽くすことで、メンバーの視座や視野が変わり、「思考の質」が高まっていくのです。
「思考の質」が高まることを通して、一貫した行動という「行動の質」に移っていきます。チームが一糸乱れぬ行動を取れるようになっていくのです。
それは、目的に基づき、ビジョンを目指して、目標の達成のために、方針に沿った戦略通り、戦術通りの行動をメンバー全員が実行していくということです。それが「結果の質」につながり、期待を超えた結果を出せるようになっていきます。
もし、自分たちが期待した結果に届かない場合には、やり方を変える必要があります。うまくいかなかったときに、やり方を変えるのはマネジメントの鉄則の1つです。
「関係の質」「思考の質」「行動の質」が上がることで、「結果の質」も着実に上がっていきます。それが、さらなる「関係の質」の向上につながり、チーム力がスパイラルアップしていきます。
リーダーとメンバーが共に衆知を集め、主体性と関係性を立ち上げ、成功循環モデルを好循環させることで、チームはどんどん強化されていくのです。
更新:07月18日 00:05