2025年09月10日 公開

技術の進化や価値観の多様化など変化の激しい時代、変えるべきものは働く時間や場所だけでなく、ビジネスモデルそのものにも及ぶ。本連載では、時代の変化をとらえ、様々な「新しい働き方」にチャレンジしている人や企業の取り組みを紹介する。第26回では、美容師をはじめとする美容系プロフェッショナルを対象にシェアサロン事業を手掛ける(株)Solonに話を聞いた。
※本稿は、『THE21』2024年9月号の掲載記事より、内容を抜粋・編集したものです。
――(株)Solonはフリーランスとして活動される美容師やネイリストといった方々を対象に、シェアサロン事業を展開されています。そもそも、「シェアサロン」とは何でしょうか?
【池田】美容師をはじめとする美容系のプロフェッショナルたちが、低コスト・低リスクで開業できるよう、私たちが提供しているサロンのことです。水回りやタオル類といった、ヘアサロンに必要な設備を整えているので、入居者の方々は、月額の利用料のみでサロンを開くことができます。
「シェアサロン」といっても、コワーキングスペースのように空間を共有するわけではなく、美容師一人ひとりが個室を持つのが基本です。カーシェアリングのような時間貸しでもなく、月単位での契約なので、それぞれのセンスで内装を工夫し、理想のサロンを創り上げることができます。
――シェアサロン事業を始められた経緯を教えてください。
【池田】ウィッグやシャンプーといったヘアケア事業を手掛けるスヴェンソングループの社員には美容師免許を持っている人が多く、さらにそのほとんどが美容室での勤務経験があります。そんな環境の中で、美容師一人ひとりが理想的なかたちで活躍できるように、色々な働き方を選べる環境を提供できたら、ということで始まったのが、シェアサロン事業です。
分社化してSolonとして法人化したのは昨年の10月ですが、事業自体は2022年にスタートしました。
――美容師のキャリアというと、専門学校を出たら美容室に就職して、アシスタントとして働きながら修業を積み、スタイリストに昇格、お客さんがついたら独立して自分のサロンを持つ、というイメージがあります。
【池田】Solonの利用者の方々は、やはり独立を目指して入居してこられます。ただ、「独立」のイメージが以前と比べて多様化しています。
施術スペースを時間貸しするような業態のシェアサロンは昔からあり、こちらは本格的に自分の店舗を持つまでの準備期間として利用されるケースが多いようです。
一方、最近は自分の店舗を持つことが最終的なキャリアの正解、というわけではなくなってきました。そういった中で、自由に仕事をしていく環境として、Solonのようなシェアサロンを利用しての開業を選ばれる美容師の方が増えていますね。
――そうした独立に対する考え方の変化には、どんな背景があるのでしょうか。
【池田】圧倒的に大きいのは、個人での集客ができるようになったことです。
いまのようにSNSが普及するまでは、美容師から新規顧客にアピールする場がほとんどありませんでした。ホットペッパービューティーのような媒体が出てきたのも2000年代なので、それまでは店舗を構えて、口コミなどで地道に集客するしかなかったんですね。
そうなると、駅前の広い店舗と多数のスタイリストを抱える大手有名サロンが有利で、人を雇わずに一人で活動する美容師が顧客数や業績を右肩上がりに伸ばしていくのは、非常に難しいことでした。
それが、SNSの登場によって個人が発信力を持つようになり、集客の方法が大きく変わりました。これは業界にとって大きな転換期だったと思います。
――Solonの利用者には、どんな方が多いですか?
【池田】比較的若い世代が多く、ボリュームゾーンは30歳前後の方々です。新卒で就職した美容室で修業して、技術もお客様もついて、そろそろ独立したいな、というタイミングなんでしょうね。
――美容室に所属して働く場合と、一人で働く場合の違いはどんなところでしょうか。
【池田】これは美容師に限ったことではないと思いますが、組織に所属する場合とフリーランスの違いは、やはり圧倒的自由ではないでしょうか。
例えば、美容室では、ミーティングや練習、後輩の技術指導などは、すべて営業時間外にやることになります。ソロならそうした制約がないので、労働時間も短くなるし、自分のやりたいことを、やりたいようにやれます。
――先ほど、施術スペースを時間貸しするような業態のシェアサロンは昔からあるということでしたが、Solonが個室占有という業態を選ばれたのはなぜですか?
【池田】やはり美容師にとって、自分のサロンを持つということが一つの夢だからです。小さくても自分の美容室を持てる、という夢を叶えてあげられる部分は強いと思います。
また、共有スペースを時間単位で借りるようなかたちだと、1回1回道具を片づけなければならないし、内装も自分の好みにできません。それが個室占有なら、それぞれの顧客に合わせた内装にするなど、ブランディングに寄与することができます。美容室に来られるお客様は、カットなど技術はもちろんですが、きれいになる空間を楽しみに来ている部分もありますよね。
――逆に、自分で小さな店舗を借りる場合と、Solonを利用する場合の違いは何ですか?
【池田】開業における低コストと低リスク、それから自由度が圧倒的に違うと思います。一から物件を探して開業するとなると、シャンプー台など水回りの設備に多くの費用がかかるのですが、Solonならそれは私たちが準備しているので、開業のイニシャルコストがかかりません。契約は月単位ですし、内装費などの費用も低く抑えられ、月額の利用料だけで開業できる点は大きいと思います。
こうした点は、当然美容師の収入にもつながってきます。昨年アンケートを取ったところ、Solon入居者の年収は、美容室勤務時代と比べて平均7倍にもなっていました。ただし、これは16倍という異常値を出した一人の影響が大きいので、中央値は約2.5倍です。
――なぜそんなに収入が上がるのでしょうか。
【池田】美容師は基本的に歩合制です。たくさん売り上げると給与は上がりますが、同時に売上歩合と呼ばれるものをサロンに支払うので、仮に月100万円売り上げても、手取りは30万円台程度、ということが多いんです。
一方のSolonでは月額利用料しか発生しないので、月100万円売り上げれば、75万円くらいが収入になります。頑張れば頑張っただけ、収入にダイレクトに反映されるんです。
――それは大きな差ですね。一方で、美容室ではトップスタイリストの売上がアシスタントの人件費をカバーすることで後進が育つ、といった面もあると思います。ソロ活動を選ぶ美容師が増えると、若手が育たない、ということにはなりませんか。
【池田】シェアサロンが流行ると、専門学校を出たばかりの若手を育てる人がいなくなるんじゃないか、というご意見は、実はよくいただきます。
でも、私は大丈夫だと思っています。Solonの事業と矛盾するかもしれませんが、美容師の中には、美容室に勤めて後進を育てることにもやりがいを感じている人のほうが、ソロで活躍される人より、まだ圧倒的に多いからです。
美容師は、良くも悪くも徒弟制というか、師匠から弟子へ、弟子からまたその弟子へ、という「恩送り」の文化の業界なので、その伝統はそう簡単にはなくならないと思います。
私たちは美容業界の伝統に取って代わるような存在ではなく、美容業界で働くうえでの多様な選択肢の一つ、という位置づけで自分たちの事業を捉えています。
美容師が輝くと、お客様はさらに輝く。そのために、美容師がよりのびのびと幸せに、そして持続的に働けるように──この想いを実現するために、これからも色んなことにチャレンジしていきたいと思っています。
更新:09月23日 00:05