ビットコインは、誕生から十数年で驚くほどの価格上昇を遂げてきました。しかし、その「価値」はいったいどこから生まれているのでしょうか。単なる投機対象なのか、それとも新たな金融の仕組みを担う存在なのか。今後、暗号資産は世界経済の中でどのような位置づけになっていくのでしょうか。書籍『デジタル資産とWeb3』より解説します。
※本稿は、小田玄紀著『デジタル資産とWeb3』(PHP研究所)より内容を一部抜粋・編集したものです
ビットコインをはじめ暗号資産の「価格」はこれまで乱高下しており、ボラティリティが高いのは事実です。しかし、価格の動きにだけ注目していると暗号資産の「本質」を見誤る可能性があります。暗号資産の「価格」と「価値」は別と考えたほうがよいのです。
暗号資産の「価値」とは、何より非常に多くの人が保有しているということです。
口座数は日本だけでも1200万以上、世界では6.5億口座にまで拡大したと推定されています。
そもそもビットコインをはじめ暗号資産の実体はデジタルデータです。物質的な裏付けがなく、日本の民法では所有権の対象とはなりません(所有権の対象は「有体物」に限られるため)。それでもビットコインは現在、1BTC=1250万円ほどの高値で市場において取引されています。
これは端的に言えば、「それ以上の価格で次に買う人が出てくるだろう」と考える人がいるからであり、もし「この先、誰も買う人はいないだろう」とあらゆる人が考えれば資産価値はゼロになるでしょう。
この理屈は、円をはじめ現代の法定通貨にもあてはまります。かつては金本位制といって金との交換が約束されていましたが、いま1万円紙幣の原価は1枚20円弱です。それでも日常生活において日本人は、「1万円」の価値があるものとして使っています。それを保証しているのは、徴税権や金融システムなどの国家の権限です。
しかし、いわゆるハイパーインフレになって「今日1万円札1枚で買えたものが、明日は2枚必要になるかもしれない」と多くの人が考えるようになれば、1万円札の価値は瞬く間に暴落するでしょう。
その点、暗号資産の資産価値は、法定通貨のように国が保証しているからではなく、取引市場において多くの人が「それだけの資産価値がある」と考えていることが裏付けとなっています。国家の権限と市場の裏付けという違いはありますが、いずれも「信用」が支えているのです。
特にビットコインについては、プログラムによって発行上限が2100万枚にあらかじめ制限されています。2100万枚のうちすでに1980万枚が発行されていますが、2100万枚の上限に到達するのは2140年頃です。上限に達すると新たなマイニング報酬はなくなり、BTCの新規発行はストップします。このように発行上限が決まっていることも、ビットコインの信用につながっているといえるでしょう。
実際、アメリカのトランプ大統領が2025年3月に署名した暗号資産を国家備蓄する大統領令でも、ビットコインとその他の暗号資産を別扱いすることとしています。同じ「備蓄」といってもビットコインは「Reserve」と位置づけられ、これまでアメリカ政府が違法取引などから没収した約20万枚のビットコインは売らずに持ち続けるだけでなく、追加的に取得する可能性もあります。一方、その他の暗号資産は「Stockpile」と位置づけられ、追加取得はせず、必要に応じて売却することもあります。
今後、ビットコインとそのほかの暗号資産については、こうした扱いの差が広がるように思われます。つまり、ビットコインは金融商品としての性格をさらに強め、その他の暗号資産はWeb3などで利用されるトークンとしての位置づけになっていくのではないかということです。
現在、金の時価総額が他の金融資産を圧倒しているのは、ETF(Exchange Traded Fund)の普及などによって多くの個人投資家が参入していることも理由のひとつです。ビットコインとイーサリアムの時価総額も、最近ようやくETFが登場したことで大きく伸びました。
ETFとは金融商品取引所に上場している投資信託のことです。投資家は、裏付けとなる原資産を組み込んだ信託受益権を購入し、それを金融商品取引所で自由に売買できます。一口あたりの投資金額が低く、流動性も高いことから、主に個人投資家が購入しています。
アメリカでは2024年1月にビットコインの現物ETFが承認されました。また、同年4月、香港の取引所でビットコインやイーサリアムを含む、6銘柄の暗号資産ETFの取引がスタートしました。カナダ、ブラジル、オーストラリア、タイでも暗号資産ETFが上場しています。
さらにイギリスでは、5月から機関投資家向け市場にビットコインとイーサリアムの現物ETN(指標連動証券)が上場。ドイツ、フランス、スイス、ドバイなどでも暗号資産ETNが上場しています。
暗号資産ETFとETNが認められた国々のGDPの合計は全世界GDPの約50%に及びます。
かつて、金のETFが初めて登場したのは2004年、アメリカのニューヨーク証券取引所においてでした。その後、日本の東京証券取引所にも2008年に上場。いまや多くの国で金のETFが取引されています。
このように金のETFが広がったことで個人投資家による金への投資が容易になり、金の価格上昇と時価総額の増大へつながっていったのです。
ビットコインなどのETFが誕生してまだ1年ほどしか経っていませんが、今後、金と同じことが起こる可能性は十分あると思います。
更新:08月29日 00:05