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絶望の淵から放たれる、反撃の狼煙 『布団の中から蜂起せよ』【書評】

2025年07月20日 公開

大村壮太(作家)

高島鈴の著作『布団の中から蜂起せよ』(人文書院)は、単なる書籍というカテゴリーに収まることを自ら拒絶し、読者に対して明確な態度を要求する一冊だ。学術書のように体系的な知を提供するのでも、エッセイのように静かな内省を促すのでもない。著者自身が「アジテーション本」と称するように、本書は2022年の日本社会に投下された、極めて実践的な扇動の書である。

その根底に流れるのは、著者が掲げる「アナーカ・フェミニスト」という思想的立場だ。それは、私たちの生を日々無自覚に蝕む、あらゆる権力構造に対する非妥協的な異議申し立てであり、絶望が蔓延する時代を生き延びるための、切迫した呼びかけに他ならない。

 

「あなたも怒っていい」

本書を読み解く上でまず不可欠なのは、著者がなぜ「アナーカ・フェミニスト」という思想的座標に立つのかを理解することだろう。

評者と同じく1990年代に生まれた著者が、かつて自身を「ボンヤリとした左翼」だったと語る感覚は、特定のイデオロギーに安易にコミットすることへの躊躇と、しかし社会に蔓延する理不尽さへの消しがたい違和感との間で揺れる、同世代的な心情を的確に捉えている。その違和感の正体を突き詰める旅が、彼女をアナキズムへと導いた。

アナキズムは、国家や資本といった巨大な権力だけでなく、あらゆる固定的で非対称的な支配関係を問題視する。しかし、高島氏はそこに留まらない。歴史的に男性中心で語られがちだったアナキズムの運動内部にすら、家父長制的な思考やミソジニーが根深く存在することを見抜き、その矛盾を鋭く告発する。ここにフェミニズムが必然として接続されるのだ。

彼女のアナーカ・フェミニズムは、リベラル・フェミニズムが既存のシステム内での権利獲得を目指すのとも、時に権威主義的になりうる一部のラディカリズムとも一線を画す。それは、最も根源的なレベルで、支配する者とされる者という構造そのものを解体しようとする、極めてラディカルな地平を目指している。

この思想的立場は、必然的に彼女特有の文体を生み出すことになる。高島氏の文章は、独特の「取り乱し感」に貫かれており、理論的な整合性や客観性を意図的に放棄しているかのようにさえ見える。

そこでは、論理的な跳躍や唐突な断定が頻出する一方で、自己への懐疑や迷いが躊躇なく吐露される。痛み、熱、叫びといった身体感覚に根差した比喩が多用され、読者の理性にではなく、皮膚感覚に直接訴えかけてくる。

この文体は、単なる感情の爆発ではない。むしろ、冷静で理性的な「正しい」言説が、かえって人々を抑圧し、声を奪ってきたことへの戦略的な抵抗である。理論の鎧を脱ぎ捨て、むき出しの感情や混乱を晒すことは、読者に対して「あなたも怒っていい、混乱していい、完璧でなくていい」という強力な許可を与える。

 

「弱きものたち」に届けるための、叫びに似た祈り

このようなラディカルな言葉が、現代においてどのような有効性を持ちうるのか。ここでマーク・フィッシャーの「資本主義リアリズム」の概念が重要な意味を持つ。

「どうせ何も変わらない」という冷笑的な諦念が社会の隅々にまで浸透し、あらゆる反抗的な文化や思想ですら、すぐさま「おしゃれなアイテム」として商品化され、骨抜きにされてしまう。この強固なシステムに対し、高島氏の言葉はなぜ安易な回収を免れうるのか。

それは、彼女の言葉が持つ、徹底した「非妥協性」と「過剰さ」にある。彼女の文章には、商品化を拒むザラつき、個人的な痛みの消えない刻印が残っている。それは、読者に安易な共感や消費を許さず、むしろ読者自身の生き方や社会との向き合い方を問いただすような力を持っている。

この言葉に触れることで得られる「元気」とは、心地よい癒しや気休めではない。それは、諦念の壁に亀裂が入り、これまで不可能だと思わされてきた別の社会を想像することが可能になるという、「政治的想像力の回復」に他ならない。

もちろん、これほどまでに激しい言葉は、時に人を傷つける刃となりうる。また、筆者の問題提起や語りかけは、言葉の切れ味に比して非常に素朴であり、深い洞察や新しい発見を読者に与えるものであるとは言い難い。

しかし、そういった当たり前のことこそ、強い言葉で伝える価値があると私は感じている。著者は言葉の暴力性を自覚し、その責任を引き受ける覚悟の上で、あえてこの声を発しているのだ。それは、日々を窮屈に暮らしている多くの「弱きものたち」に届けるための、叫びに似た祈りなのである。

本書は、万人に受け入れられるような、明確で優しい答えを与えてはくれない。しかし、孤独な個人が自らの内にある痛みや怒りに名前を与え、それが自分一人だけのものではなく、社会の構造と深く結びついていると知ったとき、そこに連帯への道が拓ける。

「あなたに死なないでほしい」という高島鈴の言葉は、誰もが忍び寄る「死」の気配からのがれようと必死に生きている現代社会における「強力な着火剤」であり、まだ見ぬ仲間たちへ向けて放たれる、反撃の狼煙なのである。

 

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