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「平均年収は上場企業より高いことも」 40代からスタートアップで副業するメリット

2025年07月07日 公開

藤岡清高([株]スタートアップクラス代表取締役社長)

スタートアップ副業

社会にインパクトを与える革新的なビジネスの創出を目指すため、近年、国や大手企業が一丸となって、スタートアップ支援に力を入れ始めた。その後押しを受け、スタートアップ市場への人材流入も勢いを増している。スタートアップ採用事情にくわしい藤岡氏に話を聞いた。(取材・構成:林加愛)

※本稿は、『THE21』2025年8月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

スタートアップの採用は空前の売り手市場

スタートアップ転職は超売り手市場有望スタートアップの平均年収は上場企業より高い

「長年一つの会社で働いてきたけれど、違った環境も経験したい、やりがいを再発見したい」――そんな思いを抱いている皆さん、「スタートアップ」という選択肢を考えたことはありますか?

私はスタートアップに特化した採用支援会社スタートアップクラスを営んでいますが、この市場は今、非常に熱い時期を迎えています。

過去10年間で、スタートアップへの転職者数は2倍に増加。そして求人数はそれを上回る勢いの、実に6.8倍という激増ぶりです。採用される側にとっては空前の売り手市場。打って出るなら今がチャンスです。

会社員、特に大企業にお勤めの方は「収入が減りそう」と危惧されるかもしれませんが、そこにも変化が見られます。年収1000万円以上の求人比率は、スタートアップが大企業を上回っていますし、22年度には、いわゆる「ユニコーン企業」の平均年収が上場企業のそれを上回り、今後も上昇傾向が続くと予測されます(上のグラフ)。

「年齢的にもう無理」という思い込みも捨てたほうが吉です。数年前まで囁かれていた「転職35歳限界説」のようなものは、今はもうありません。50代や定年間近の方でも、ニーズに応えられるスキルさえあれば歓迎されます。

「若い企業がなぜ?」と意外に思われるでしょうか。それには合理的な理由があります。

スタートアップは「○年以内に上場」「○年以内にM&A」といった「イグジット(投資リターン)」を約束することで、投資家から資金を集めます。目標に最短で達しなくてはならないため、人材をイチから育成しているヒマはありません。

いかに頭脳明晰で可能性に満ちた若者でも、その可能性が花開くまでには数年かかります。その点、40代以降なら育成は不要。それどころか、スキルと経験と実績を持っています。もしそのスキルが、目標到達のための課題解決につながるなら......どちらが欲しい人材かは言うに及ばず。つまるところ、即戦力人材であれば、何歳になっていようと求められるのです。

 

先端産業では「失敗」が価値になる

「スタートアップは不安定でハイリスク」という理由でためらう方もいそうですが、そこはリスクの捉え方次第です。

皆さんが考えるリスクとは、プロジェクトの不成功や会社の倒産などでしょう。ところがスタートアップは、それらをリスクとは呼びません。

彼らにとってのリスクは「したいことができなくなる」ことであり、成功・失敗は二の次。そもそも、「失敗してもともと」の世界なのです。

例えば、5年前のAIブームの際に当社の紹介でAIスタートアップへ転職した方のうち、9割はもうその会社にはいません。プロジェクトが失敗したか、会社自体が消滅したからです。では彼らがその後どうしたかというと――さらに高い年収オファーを受け、次のスタートアップに移っています。

先端産業では、失敗経験に価値がつきます。失敗したことにより、次はより高い精度でチャレンジできる人材にグレードアップした、という考え方をするのです。失敗を非難したりバカにしたりする価値観とは正反対。コンプライアンスに抵触するような失敗なら話は別ですが、チャレンジした結果の失敗なら、必ず次のチャンスが来ます。

事業内容の先端性が高いほど、その傾向は強まります。AI、クライメートテック(気候テック)、量子コンピューターなどの分野では熾烈な人材獲得競争が繰り広げられ、5~6社で取り合う引っ張りだこ状態の人も少なくありません。

人材の側にとっても、スタートアップはやりがいのある場です。社会を変える志を持つ集団に参画する、それも裁量を持って加われるのは大きな魅力。大規模な組織の一員として働くよりも、自分の手で成果を出せた、という実感を持てるでしょう。

 

スタートアップ「副業」の魅力とは?

「それでも、転職はさすがに勇気が要る」という方もいるでしょう。そこでお勧めなのが、現業はそのままに副業として関わることです。

スタートアップ副業の魅力は、「転職より安全」だけではありません。最も大きいのは、自分の市場価値を確認できることです。

大きな会社にいると会社の看板で仕事ができてしまうため、個人の市場価値は見えづらくなります。実際、副業希望の方の多くが、「外でも通用するか否かを知りたい」と口にされます。

ちなみに、大手の転職サイトで無料の市場価値診断をしただけで「自分の価値」をわかったつもりになったり、複数の企業からスカウトが来ただけで安心するのは禁物。スカウトしているのはAIなので当てになりません(笑)。

自分の市場価値を知るには、本当に外で働く以外の方法はありません。会社に許可をもらって副業をして、成果が出せたら、そこで初めて数字が出ます。同じ会社からリピートされるか、別会社からスカウトが来るか、はたまた複数の会社で「取り合い」になるか――そこで提示される報酬額が、市場価値のリアルな反映となるでしょう。ことによっては副業から転職へと踏み切るきっかけにもなるかもしれませんね。

他方、今の会社に居続けたい人にも、副業のメリットはあります。外の世界に出たことで「自社の市場価値」を客観的に見られるのです。何気なく勤めてきた会社が非常に価値ある事業をしていた、と気づく方も多数。その一員である誇りや、「外でも通用する自分」への実感を通して、本業での自信を取り戻せることも、大きな収穫と言えるでしょう。

 

仕事内容を聞かれて「役職」を答える人は不向き

一方、スタートアップ副業に「向いているか否か」については、いくつか分かれ目があります。

例えば「現在のお仕事は?」と聞かれて「○○(大企業名)で部長をしております」と答える方は、少々「残念人材」。ここはジョブ型の回答、すなわち「マーケティング領域で△△のミッションをしています」などの回答が欲しいところです。スタートアップ側は、今ある課題を解決できる人=その領域で成果を出した人を求めているからです。

副業先の企業を選ぶ段階では、ビジョンを共有できるか否かが重要ポイントになります。その企業が解決したい社会課題に対して、同じく問題意識を持っているか、共に解決を目指せるか。また、解決プロセスはこれまで誰も答えを出せていない領域ですから、「道なき道」を切り拓く情熱を携えているか、が問われるところです。

即戦力になれるか否かについても、分かれ目があります。

スタートアップでは、ミッションだけを伝えてやり方は任せる、ということがしょっちゅうあります。例えばSaaS企業で「カスタマーサクセス事業部を立ち上げてください」とだけ言われる、など。そのとき、社外も含めた人脈を活かして人を雇い、チームを編成して成果を出せるか。こうした「丸投げ対応力」のある人ほど喜ばれるでしょう。

細かいところでは、デジタルツールをスムーズに使えるか、も大事です。特にIT系スタートアップではSlackやNotion、Google Workspaceなどが基本的なコミュニケーションツールとして使われています。触ったこともない、という方は少々予習が必要かもしれません。

 

スタートアップは「学校」ではない

とはいえツールの不慣れ程度の話なら、慣れて追いつけば良いだけです。それよりはるかによろしくないのは、「動機に難アリ」な人です。「勉強したい・経験を積みたい」だけでスタートアップ副業を希望する人は、向いていないどころか、迷惑人材になりかねません。

実は一時期、そうした人々の増加が業界で問題になりました。大企業の副業解禁が話題になった頃、スキルもないのにスタートアップに「勉強しに行く」大企業社員が増えたのです。

即戦力を求めているのに、なぜ逆にお金を払って経験を積ませなくてはならないのか、とスタートアップからは非難ごうごう。残念ながら当社でも、複数のクレーム事案が発生しました。中には(名は伏せますが)某大企業が社員を送り込み、スタートアップの手法を吸収して自社で活かさせようと企図していたケースもありました。

以降はスタートアップ側も用心して、そうした人材を受け容れないようにしていますし、もちろん我々も注意しています。

しかし今でも、当社を訪れる個人の副業希望者の中にはときどき、スタートアップを塾か学校のように捉えている人が見られます。とりわけ残念なのは、「小さい会社に『行ってあげる』」という意識の大企業社員の方。それはリスペクト不足であると同時に、大いなる勘違いです。スタートアップが求めているのは会社名ではなくスキルです。持つべきは「名札」ではなく「値札」――副業先に価値をもたらすことが絶対条件です。

 

大企業社員の知識と常識は武器になる

とは言いましたが、大企業ならではの強みもあります。歴史ある組織にはスキルの蓄積もあり、とりわけ専門職には素晴らしいスキルの持ち主がいます。そういった方々が能力の再現性を確認しに行く、というかたちでの副業なら、受け手の側も大歓迎。うまくフィットすれば、ウィンウィンになります。

また、先ほど「先端産業人材は引っ張りだこ」という話をしましたが、必要とされているのは先端的な技術や知識だけではありません。大企業にいれば自然に身につく「常識」も大いに武器になります。

スタートアップ業界には、「スタートアップネイティブ」とも呼ぶべき人種がいます。学生時代から、会社員になるという選択は端から念頭になく、アイデアと機動力一つで社会に打って出る、起業マインド100%の人々です。

しかし彼らは、いざ起業すると「お作法」でつまずくことがままあります。敬語が使えない、根回しができない、相手の事情も聞かずにやりたいことだけを押しつける、法令の知識がない、そもそもコンプライアンスの意識が低い、などなど。こうした一面は、取引先や顧客が大企業の場合は特に障壁になりがちです。

そんなとき、大企業出身者の知恵が助けになります。スタートアップ側もそれに気づいていて、人事や労務・法務系人材へのニーズは年々高まっています。

大企業では「できて当たり前」のことが、若い会社にとっては大きな価値になります。自分にとっての「当たり前」の価値を、ぜひ一度見直してみることをお勧めします。

スタートアップ副業がお勧めの5つの理由

 

本業と副業を両立させる時間術

副業に割く時間が取れるかどうか、も気になるポイントでしょう。そこは双方うまく回す秘訣があります。

スタートアップは、労働時間に対してではなく、成果に対して報酬を出します。ということは、高いスキルを持つ人ならば短時間で成果を出すという方法が取れるわけです。

例えば、マーケティングのエキスパートなら、通常の人が何日もかけてつくるような戦略を数時間の打ち合わせでつくれるはず。つまりは「得意なこと」ができる会社を選び、効率的に回していけばいいのです。

「得意なこと」の中の、作業的要素は請け負わないことも大事なコツです。立案や設計などの方向づけのみを行ない、リサーチや資料作りといった細かなことは人に任せられる環境が望ましいでしょう。若手育成などの人のマネジメントも、時間が読みづらくなるので請け負わないほうが得策。発注者と自分の間で完結できるタスクだけに絞り込みましょう。

そして何より重要なのは、副業契約締結時の書面に、以上をきちんと盛り込むことです。自分がどのような成果を約束できるか、どのようなリソースを提供してほしいか、コミットできる範囲はどこまでか。加えて「このような状況下ではどこまで対応するか」といった想定も細かく定め、同意を取りましょう。

この取り決めをおろそかにすると、思わぬトラブルを招きます。範囲外の仕事を頼まれては断り切れずにズルズルと時間を取られ、本業にまで支障をきたす、といったことにもなりかねません。

本来、副業は純粋なジョブ型の働き方であるにもかかわらず、現状ではそのあたりの認識が甘いスタートアップも見られます。前述の、法務・労務系の知識不足のせいでもあるでしょう。今後の改善が望まれるところですが、雇われる側の自衛も不可欠です。

その点さえ万全にしておけば、あとは短時間で成果を出していくだけ。この方法は時間を圧縮できるのみならず、応用幅が広いのも利点です。本業で培ってきた「型」を横展開して5~6社の副業を回している人もいます。

 

スキル以上に重要な「マインドの転換」

ここまでの話から、スタートアップ副業はスキルがあってこそ成功する、ということがわかっていただけたでしょう。最後にもう一つ、スキルよりもさらに大事なことがある、ということをお伝えしたいと思います。

それは「マインド」です。スキルの高い方々がスタートアップで活躍できない理由は例外なく、マインドチェンジできないことです。

まして、ホームグラウンドの大企業マインドを押しつけるとなると最悪です。「ウチの会社ではそんなやり方通用しませんよ」などの上から目線フレーズを発した瞬間、嫌われること確実です。

名のある企業でそれなりの地位を得た、というプライドがそうさせるのでしょうが、そこに陥るのはたいてい、言葉は悪いですが「中途半端」な地位の方々です。

名だたる企業でトップを極めた方々は、皆さん例外なく謙虚です。当社を時折訪れては、私のような若輩にスタートアップの現況や手法について「教えてほしい」と言ってくださる方もいらっしゃいます。

中途半端な方は、その逆の「教えてやろう」状態にあるわけですが、これでせっかくのスキルを持ち腐れにするのはあまりに残念です。

改善のコツは、「教えてやろう」を、「貢献しよう」に転換することです。自分が学んだ手法をスタートアップに導入するのではなく、役立つかたちにアレンジする方法を考えれば、アプローチが180度変わります。その上で、三つの「スタートアップマインド」を備えれば完璧です。

一つ目は「原因自分論」。人のせい、会社のせいにせず、常に当事者意識を持つことです。二つ目は「創意工夫」。道なき道を歩む以上、「できない理由」を並べ立てるのはナンセンス。「どうすればできるか」を考え続けることが不可欠です。そして三つ目は、失敗を恐れないこと。失敗はチャレンジしたことの証左であり、次なるチャレンジの精度を上げる「価値」だということは、もうご存じですね。

会社員マインドが染みついていた方が、この新しいマインドに切り替わったとたんに大活躍する姿を、私はこれまで何度も見てきました。皆さんも、そんな可能性を秘めた人材の一人かもしれません。自分の中にある鉱脈と、新たな収入チャネルを探る旅へ、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。

スタートアップで活躍する人のマインド

 

著者紹介

藤岡清高(ふじおか・きよたか)

(株)スタートアップクラス代表取締役社長

1974年生まれ。東京都立大学卒業後、住友銀行(現・三井住友銀行)にて法人営業などに携わる。退職後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科を修了、MBAを取得。(株)ドリームインキュベータ参画を経て、2011年に(株)アマテラス(現・スタートアップクラス)を創業、スタートアップ企業と参画希望者の出会いを創出している。『「一度きりの人生、今の会社で一生働いて終わるのかな?」と迷う人のスタートアップ「転職×副業」術』(東洋経済新報社)が好評発売中。 

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