2025年07月03日 公開
ホットヨガスタジオ「loIve(ロイブ)」やマシンピラティス専門スタジオ「pilates K」などを全国展開し、業績を伸ばしているLIFE CREATE(今年6月26日開催の株主総会での承認を経て、8月1日に〔株〕LOIVEに社名変更予定)。4月24日には東証グロース市場への上場も果たした。その成長の原動力は、高い理念共感度と社員の自己肯定感にあるという。創業社長の前川彩香氏に話を聞いた。
取材・構成:川端隆人、写真撮影(前川氏):丸矢ゆういち
※本稿は、『THE21』2025年8月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
――2006年に、北海道初のホットヨガスタジオを札幌にオープンしたのが、御社の始まりですね(会社設立は08年)。
【前川】当時は、ホットヨガスタジオがあるのは首都圏や関西くらいで、他の地域にはありませんでした。北海道にまだないなら、最初にやろう、と考えたんです。
始めてみると、本当に人生が変わりました。インストラクターもお客様もどんどん生き生きとしていく。当社のパーパスが実現されるのを目の当たりにしました。現在の「自分を愛し、輝く女性を創る」と表現は違うものの、当初から同様のパーパスを掲げていました。
現在はマシンピラティスのスタジオなども運営していますが、特定のエクササイズに専門特化し(ブティック型)、1人のインストラクターが20~30人にレッスンをするグループ型というのも、当初から変わりません。このかたちだと利益率が高いのです。
パーパスだけでも、ビジネスモデルだけでも、会社は成長しません。これらの両輪が回って初めて成長するということを、創業当初から実感していました。
――現在は全国に店舗を展開しています。他社と競合するようになっていると思いますが、御社の強みは何でしょうか?
【前川】全国展開は創業したときから考えていました。3店舗目を出したときには、もう「100店舗にする」と決めていました。
マーケティングの効率性や認知度のことを考えると、結局は店舗数を多く持っているほうが勝ちます。そのためには、全国展開が必要です。
すでに競合が多かった東京などは飛び越えて、中国地方など、まだホットヨガが広がっていない地域から出店していきました。そうすることで、先行優位性が生まれ、投資の回収も早くなり、成長を加速できました。
当社のような業態で全国展開できる会社は稀有だと思います。ヨガやピラティスのインストラクターには女性が圧倒的に多く、女性を全国に転勤させるのは難しいとされているからです。
当社も女性社員比率が99%と非常に高いのですが、55%が総合職です(25年4月時点)。しかも、理念共感度が95.0%(24年6月の社内アンケートの結果)と、エンゲージメントが高い。
だから、社員が地元を離れて転勤することをいとわず、全国で新店舗を立ち上げられているんです。
――パーパスを掲げている会社は多いですが、御社ほど理念共感度が高い会社は、あまりないと思います。なぜ、御社では理念共感度が高いのでしょうか?
【前川】社員がパーパスを復唱したり、暗記したりすることよりも、パーパスを「体感」することが重要だと考えています。
当社のパーパスは「自分を愛し、輝く女性を創る」ですから、それが実現された世界を見てもらうのです。
例えば、全社員が東日本・西日本の会場と本社にそれぞれ集まる1泊2日のキックオフを、年に2回行なっています。先日の本社キックオフでは、社員のお子さんたちに母親について話してもらう動画を制作し、サプライズで流しました。社員たちは、お子さんたちから見て、自分たちが「輝く女性」になっていることを実感し、大号泣していました。
こうしたイベントは、社内のカルチャー戦略として、経営陣がコミットして作り込んでいます。
社員研修でも、「自分を愛し、輝く女性」になるためのワークに力を入れています。心理学も活用した、自己肯定感を高めるカリキュラムは、唯一無二だと思います。
当社でも、採用時点では、自己肯定感が高い社員ばかりではありません。しかし、24年6月に実施した社員アンケートでは、「自分好き度(自己肯定度)」が、入社1年未満で88%、一般スタッフ職で91%、リーダー職で96%、店長職で99%という結果が出ています。
自己肯定感が上がると、挑戦意欲が湧きますし、お客様との接し方も変わります。
私たちのビジネスは人でできています。パーパスをただ理解するのではなく、体感することで、サービスの質が大きく変わってきますし、他社との差が生まれるのだと考えています。
――これだけ女性が活躍しているということは、出産や育児に関する制度も充実しているのでしょうね。
【前川】特徴的なものは、子連れ出張でしょうか。出張に子どもを連れて行っていいし、宿泊費や交通費は子どもの分も出ます。現地での託児所代なども経費で出します。
前述のキックオフのようなイベントでは、保育士を呼んで託児所を開設するので、全国から子連れの社員たちが集まります。懇親会は子どもたちが大勢いて賑やかですよ。
出産後、仕事に復帰する際の託児所の費用の援助も、最近でこそ公的な補助が充実してきましたが、当社ではずっと自前でやってきました。
――社員のためにリソースを惜しまない姿勢を感じます。
【前川】ただ、本当に大事なのは制度ではありません。
日本の女性は、専業主婦になるという選択もできます。だからこそ、働く目的を持たないと頑張りきれないと思います。
子どもとずっと一緒にいるという選択もできるわけです。それなのに、あえて子どもを置いて仕事をするには、それだけの意味や価値を持つ仕事でなければなりません。だから、制度よりもパーパスが重要なんです。
また、当社には子育てをしながら働く女性のロールモデルがたくさんいることも特長です。私自身も、創業以来ずっと、子育てをしながら仕事をしてきました。
それと関連して、インナーブランディングの活動にも力を入れています。例えば、インスタグラムに社員だけが見る鍵つきのアカウントを作って、「社長の1日」などといった発信をしています。いわば、社内向けのインフルエンサー活動です。
それを見て私をロールモデルにしてくれる社員もいますし、現場に行って社員と話すときも、言葉が届きやすくなっています。
――お客様向けに、感動させるイベントを開催したり、インスタグラムで発信したりといったマーケティング活動をする会社はあっても、社員向けは少ないように思います。
【前川】お客様に対してはもちろんですが、社員に対するマーケティング活動も大事だと思います。
――今年4月に上場して、何か変化はありましたか?
【前川】ほとんどないですね。今後も店舗展開を拡大し、たくさんの女性たちと出会い、そしてパーパスの実現に注力していくことは変わりません。
当社では、以前からFC(フランチャイズ)展開はしない、店舗はすべて直営でやると決めていました。それも変わりません。
FC展開をすると確かに出店速度は速められますが、当社のやり方だと直営でないと難しいからです。それに、直営のほうが利益率が高く、その分、人への投資もできます。上場して資金調達をしたことで、直営でも出店スピードをFC並みにできるという変化はあると思います。
――どこまでも、パーパスとビジネスモデルの一貫性がブレませんね。
【前川】一貫性は大事ですね。経営をしていくうえで、取り組んだことにきちんと効果が出るかどうかは、一貫性にかかっているんじゃないかと思います。
【前川彩香(まえかわ・あやか)】
1978年生まれ。北海道出身。専業主婦の後、仲間とともに2006年に北海道初のホットヨガスタジオをオープン。08年、(株)LIFE CREATEを設立。「自分を愛し、輝く女性を創る」をパーパスに掲げ、新しい女性の生き方を世の中に発信。女性専用フィットネスブランドを複数展開し、ココロが動くエクササイズを通して、女性たちの人生に寄り添う体験価値を提供している。女性活躍企業に贈られる「Forbes Woman Award 2021(300名以上、1000名未満の部)」第1位。
更新:07月03日 00:05