
仕事・ビジネスでも、キャリア・人生でも、何か意思決定をする際に自分なりの軸を持っている人は、周りに流されずに適切な判断をできることが多い。では、そうした「自分の判断軸」を持つためには、いったいどのようなことを学び、考え、体験したらいいのだろうか。
本連載では、ボストン コンサルティング グループの日本代表を長年務め、現在はリーダー教育にも携わっている御立尚資氏の考えをうかがっていく。(取材・構成:杉山直隆)
※本稿は、『THE21』2024年6月号の掲載記事より、内容を抜粋・編集したものです。

ここまで5回の連載では、これからのリーダーは自分の判断軸を持つことが重要であること、そのためには、現代から近未来にかけて時代を形作る原動力を理解し、自分ならではの時代認識を持つことが重要だとお話ししてきました。
それに加えてもう1つ、これからのリーダーが身につけるべきことがあります。それは、近年リーダーシップ研究の分野で注目を集めている「オーセンティック・リーダーシップ」です。
オーセンティックとは「本物の」という意味。転じてオーセンティック・リーダーシップとは、「自分の価値観や信念、倫理観に基づいたリーダーシップ」のことです。自分自身の本当の気持ちや考え方に嘘をつかずに、リーダーとしてふるまうこと、といっても良いでしょう。
なぜオーセンティック・リーダーシップが重要視されているのでしょうか。その理由は3つあります。
1つは、変化の激しいビジネス環境で意思決定をするときに、リーダーの価値観や信念が最終的なよすがになるからです。
ビジネスの意思決定というと、主観を排して論理的・客観的に判断するイメージがあるかもしれませんが、現実には論理だけで判断できることはほとんどありません。
例えば、「今後、AIとデータサイエンスによって、自分の業界のビジネスモデルがガラリと変わる」というシナリオが想定されるとしましょう。その場合、「今までのモデルをすべて壊して新たなモデルをつくる」か、「もともとの強みを活かして違う業界に転身する」か、どちらが正解かわかりません。
また、「一気に軸足を移す」か、「少しずつ軸足を移す」か、という選択もあるでしょう。こうした意思決定で最後の決め手になるのは、リーダー自身の価値観や信念です。
置かれた状況が同じでも、その人の価値観や信念次第で、判断はまったく変わります。例えば、「安定した人生を送りたい」と考える人と、「人生は挑戦するためにある」と考える人では、判断はまるで違ってくるでしょう。
もっとも、そうした自分の根っこにあるものは、わかっているようで意外とわかっていないものです。それが何かを突き止めることで、判断に迷いがなくなります。同時に、自分らしいリーダーシップのスタイルを確立しやすくなるのです。

オーセンティック・リーダーシップが重要な理由の2つ目は、「自分と異なるキャラクターを演じているリーダー」や「人のマネをしているリーダー」は、必ずどこかでバーンアウトするからです。
「リーダーは自分らしさを出してはいけない。自分を無理やり押さえつけてでも、リーダーとしての役割を演じなくてはならない」。リーダーについてそんな考え方を持っている人は少なからずいると思います。だからリーダー的な役割を求められると、努めて毅然とした態度を取ったり、寛容であることを装ったりする人は少なくありません。
演じることでチームを成功に導けることもあるでしょう。しかし、それは短期的に見たときの話。長期的に見ると、そうした自分に嘘をつくリーダーシップを取る人は、突然バーンアウトして、やる気をなくしたり無気力になったりすることが多いのです。少なくとも私は、本当の自分を偽って長く活躍しているリーダーを見たことがありません。
3つ目の理由は、本当の自分に合わないリーダーを演じていると、部下から「この人、なんか無理しているな」と見透かされるからです。そうなると、部下はそのリーダーの言うことを信じようとは思いません。だから、組織全体を同じ方向に動かそうとしても、なかなか上手くいかないのです。
では、オーセンティック・リーダーシップはどうすれば身につくのでしょうか。
ロールモデルを参考にしても意味がありません。人の真似をしていたら、いつまで経っても自分らしいリーダーシップは見つからないからです。
マネジメントを行なうマネジャーの仕事ならロールモデルを見つけて真似をしても良いのですが、自分で意思決定をして人を引っ張っていくリーダーとなると、真似する相手を探していてはいけないのです。
リーダーにとって大切なのは、自分の本質的なキャラクターに向き合うこと。その意味を知る上で参考になるのが、「Connecting the dots(コネクティング・ザ・ドッツ)」です。
「コネクティング・ザ・ドッツ」とは、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズが、スタンフォード大学の卒業式で行なったスピーチで語ったことです。
有名なスピーチなので見たことがある方も多いと思うのですが、多くの人は「stay hungry, stay foolish」の印象が強いのではないでしょうか。それも良い話ですが、オーセンティック・リーダーシップを語るうえで最も重要なのが、そこに至るまでに語られている「コネクティング・ザ・ドッツ」です。
子どもの頃に、「点を結んでいくと星になった」というような遊びをしたことがある人は多いでしょう。同様に「点だけ見ているとわからなくても、点と点をつなげると何か浮かび上がってくるものがある。それを自分の人生でも感じよう」というのが、「コネクティング・ザ・ドッツ」の意味です。

スピーチで、ジョブズは、自身の生い立ちから現在に至るまでのことを語ります。
大学生で未婚の母のもとに生まれ、生まれてすぐ里子に出されたこと。そこで育ててもらってアメリカの大学に入ったけれども、ドロップアウトしたこと。学生証はあったので、気になった授業だけ受けて、まったく関係のないカリグラフィーの授業を取ったこと。そのときは何に役立つかわからなかったけれど、のちにアップルを立ち上げマッキントッシュを作ったとき、美しいフォントづくりにカリグラフィーの知識が役立ち、大ヒットの要因になったこと──。
そのエピソードから、「何がものすごく重要な経験になるかは、後でしかわからない。でも後からドットをつなぐと、それがわかる」という話をしているのですね。
このように、自分の身に起こったことを「コネクティング・ザ・ドッツ」していくと、「そのときはわからなかったけれども、自分にとって意味があるつながりだった」と思えるようになります。すると、「自分らしさとは何か」がわかり、行動に迷いや嘘がなくなるのです。それが、オーセンティック・リーダーシップの元になるのですね。
ジョブズのリーダーとしてのふるまいは自分らしさにあふれていて、とにかく偏執狂のようにプロダクトにこだわったことで知られています。「ここが完璧でないと許せない」という性格なので、一緒に働くと大変だったでしょうが、それをそのまま出すところが、ジョブズが人を惹きつける魅力でもありました。
正直に言って、ジョブズはスピーチが上手ではありません。原稿は棒読みだし、抑揚をつける技術も拙い。しかし、話を聞いていると、「この人は飾らずに自分が信じていることを話している」と感じられ、惹きつけられます。まさにジョブズはオーセンティック・リーダーシップの体現者と言えるでしょう。

コネクティング・ザ・ドッツを可能にするうえで、「10個の出来事シリーズ」というエクササイズがよく使われます。
最初に行なうことは、2種類の出来事をそれぞれ10個ずつ書き出すことです。
1つは「Happiest Moments」、人生で最も嬉しかったこと・楽しかったことです。もう1つは「Saddest Moments」、人生で最も悲しかったこと・つらかったことです。どちらも、生まれてから今までの人生を振り返って、考えてみましょう。
「Happiest Moments」は「小学生のとき、サッカー大会で優勝して嬉しかった」「こんな遊びをしていたときが楽しかった」と思い浮かびやすいのではないかと思います。
難しいのが「Saddest Moments」。こちらは、「Happiest Moments」の倍の時間、できれば数日かけて考えてみてください。なぜなら、人間は本当に嫌だったことは記憶から消したいので、記憶を書き換えていることが多いからです。すごくつらい作業になると思いますが、頑張って考えてみてください。すると「小学校のとき、仲間外れにされた」「両親の仲が悪くて、家にいるのがつらかった」などと出てくると思います。
こうして「Happiest Moments」と「Saddest Moments」を10個ずつ書き出したら、この20個の経験が「いまの自分にどんな影響を与えているのか?」を考えてみるのです。
嬉しかったことと悲しかったことをドットとしてつなぎ合わせていくと、「自分は何が大事だと思っているのか」「だから、こんなことをしてきたのか」ということが見えてきます。すると、本当に自分らしい価値観や信念が浮き上がってくるのです。
私も同じようなエクササイズをしたことがあります。それでわかったのが、「他人を喜ばせることがしたいんだな」ということです。授業中にクラスの人を笑わせることが楽しかった一方、相手がどうやっても喜んでくれないという状況が最もつらかったのですね。
そういう根っこがわかると、自分に嘘がないオーセンティック・リーダーシップを発揮できるようになります。すると判断基準がブレなくなりますし、自分に無理がないので長期的にリーダーをし続けられるわけです。
オーセンティック・リーダーシップを身につけるためには、身近な誰かに聞いてみるのも良いでしょう。「自分がリーダーとして大事にしていること」や「リーダーとしての強みと弱み」を書き出して、自己評価をしたうえで、自分のことをよく知っている人に「外から見たときにどう見えるか」を聞いてみるのです。
最も辛辣なことを言ってくれる家族でも良いですし、腹を割って話してくれそうなら、自分の上司でも構いません。今のリーダーとしての自分を知らない学生の頃の友達でも良いと思います。かなり怖いと思いますが、本音を聞くことは非常に価値があります。自分ができていると思っていることと、外から見ていることは、たいがいズレているからです。
さらにそれらを、「10個の出来事シリーズ」のエクササイズで見つけた「自分がすごく大事にしていること」「自分らしさとは何か」と比べてみましょう。
すると、「自分は無意識にこんなキャラクターを演じているけど、本当は全然違うと他人にもバレているな」「本当の自分は隠したいと思っていたけど、実は評価されているんだな」ということがわかってきます。
ちなみに、外から見た自分の姿を上司や友人に聞くと、その人との関係がもう一段深くなるという効果もあります。あるリーダーの方は、古い友達とものすごく深く話ができて、「毎年1回やろうよ」となったそうです。人間関係を深めるうえでもお勧めできます。
こうして見つけ出した「自分の価値観や信念」を、過去5回の連載でお話しした「時代を読むこと」と組み合わせると、大きな効果を発揮します。時代を読んで自分の業界で何が起こるかのシナリオを描き、それを元に意思決定をするときに、必ず役に立つのです。
それを繰り返していると、「自分らしさ」が明確になり、ますますオーセンティック・リーダーシップが確立してきます。「自分は旗を立てて引っ張っていくタイプだと思っていたけど、実際は周囲の人を成功させて自分も楽になるというタイプが向いている」「それをしやすいような仕組みづくりをしよう」などということに気づけるのです。
このオーセンティック・リーダーシップを突き詰めていくと、「すべての状況で正しい戦略や組織はない」という結論に行き着きます。自分というリーダー、あるいはリーダーチームの特徴に応じて成功確率が高い戦略や組織のあり方があり、自分自身で納得のいく答えは出てこないことに気づくのです。
「自分らしさを大事にする」というリーダーは、長期にわたって無理をせず、しかし役割を楽しみながら結果を出していくことができます。そんなリーダーが増えてこそ、メンバーに無理をかけずに力強く戦っていける組織やチームが増えていくでしょう。この連載をきっかけにそんな未来が生まれることを願っています。
【御立尚資(みたち・たかし)】
京都大学経営管理大学院特別教授。京都大学文学部米文学科卒。ハーバード大学で経営学修士(MBA with High Distinction, Baker Scholar)を取得。日本航空(株)を経て、ボストン コンサルティング グループ(BCG)に入社。日本代表(2005~15年)、BCGグローバル経営会議メンバー(06~13年)、経済同友会副代表幹事(13~16年)などを歴任。著書に『経営思考の「補助線」』(日本経済新聞出版)、『使う力』(PHPビジネス新書)、『「ミライの兆し」の見つけ方』(日経BP)などがある。
更新:06月17日 00:05