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酒をやめられない文学研究者と、タバコをやめられない精神科医 本気で語り明かした依存症の話【書評】

2025年04月06日 公開
2025年06月03日 更新

大村壮太(作家)

酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話

日々、多忙なビジネスパーソン。限られた時間の中で、いかに効率良く知識や教養を身につけるかは、常に頭を悩ませる問題だろう。本連載では、そんな悩みを抱えるビジネスパーソンに、スキル向上に役立つ書籍を厳選してご紹介する。今回は、松本俊彦, 横道誠著『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話(太田出版)を取り上げる。

 

『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話』

酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話

「依存症」という言葉を聞くと、強い警戒心を抱く人は多いかもしれない。子供の頃から学校で「ダメ、ゼッタイ!」と刷り込まれ、薬物やアルコール、タバコ、リストカットといった具体的な例に直結させてしまうからだ。

しかし、なぜ人はそれほどまでに生活の隅々を捧げてしまうほど何かに依存するのか。本書はその疑問に真正面から答える一冊であり、文学研究者・横道誠氏と精神科医・松本俊彦氏が往復書簡の形式で議論を重ねる。

まず前提として、彼らは「依存」と「依存症」は異なるものだと説く。日常生活を破壊するまでに至った状態を「依存症」と呼ぶのであって、人が夢中になって時間を忘れる行為すべてを病理化する必要はないというわけだ。

著者たちの実体験――タバコや酒、ゲームなどへの没頭――を正直に語ることで、私たちは「依存」が実は身近であり、誰にでも起こり得る現象だと気づかされる。

特に印象的なのは、「依存」のトリガーが気分調節に成功した"快い体験"と、それによって生まれる「自己効力感」から来るという指摘だ。人は、悩みやストレスを忘れられた一瞬の感触を繰り返し求め、いつしか抜け出せなくなる。

本書では、その深みにはまるメカニズムを理解する上で重要な2つの概念――「自己治療仮説」と「ハームリダクション」――が示される。

前者は「人は自らの精神的苦痛を緩和するために無意識に物質を用いる」という考え方であり、いわば自己流の"治療"を試みているのだという。後者は、その行為自体を頭ごなしに否定するのではなく、「リスクを最小化しながら無理なく依存対象から距離を取る」方法論だ。両概念は、私たちが依存症を単純に悪として排除するのではなく、依存に向かう背景を丁寧に理解し、"害の少ない選択肢"へとシフトしていく道筋を示している。

さらに著者たちは、「依存症は孤立によって深まる」という見立てを提示する。周囲の否定的な視線や社会の偏見が、当事者をますます追い詰める結果になるのだ。だからこそ、本書で強調されるのは「健康なつながり」を取り戻す重要性である。

筆者が組織する自助団体の例では、互いの体験を頭ごなしに非難せず受容するコミュニケーションが実践されている。そこでは「真の回復」とは医療的アプローチだけでなく、人と人とのあたたかな関係性があってこそ成り立つのだ。

こうした「共感と受容をベースにしたつながり」が重要なのは、実はビジネスの現場も同じではないだろうか。

もし部下や同僚の言動に孤立の兆しを感じたなら、上司や同僚が頭ごなしに攻撃するのではなく、まずは孤立を解消する方向へ手を差し伸べる余地を考えるべきだ。自分や相手を責め立てるよりも、一歩引いて状況を理解し、安全な対話の場を用意すること――それは、組織の健全なコミュニケーションにも通ずる大切な視点だろう。

本書は、「依存症」という言葉の陰鬱な響きとは裏腹に、痛みを抱える人々がどうすれば再び他者とかかわり合いながら生きられるのか、その具体的なヒントを示している。

ただし著者たちは、あまりに濃密な関係がかえって相互依存を深め、抜け出せない苦しみを生むリスクにも言及する。人との結びつきが希薄すぎても、逆に密着しすぎても行きづまる――だからこそ私たちは、一歩引きつつも見捨てない、ほどよい距離感のコミュニケーションを模索し続けることが大切なのだ。ビジネスの場でも家庭でも、適度な距離と理解あるつながりが、人を追いつめない「余白」として機能するはずである。

 

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