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なぜ陰謀論者は科学的根拠を拒むのか? 『エビデンスを嫌う人たち』【書評】

2026年04月08日 公開

大村壮太(作家)

言葉と思考

日々、多忙なビジネスパーソン。限られた時間の中で、いかに効率良く知識や教養を身につけるかは、常に頭を悩ませる問題だろう。本連載では、そんな悩みを抱えるビジネスパーソンに、スキル向上に役立つ書籍を厳選してご紹介する。今回は、リー・マッキンタイア著『エビデンスを嫌う人たち』(国書刊行会)を取り上げる。

 

『エビデンスを嫌う人たち』

エビデンスを嫌う人たち

SNSなどを通じて根拠の薄い主張やデマが瞬く間に拡散されるのが、現代社会の現実である。では、人はなぜ明らかに矛盾を孕んだ説を信じ、科学的根拠を拒むのだろうか。本書『エビデンスを嫌う人たち』は、科学哲学者リー・マッキンタイアが、自ら陰謀論者の集会に潜入しながら、証拠を覆すほど強固な信念はどのように生まれるのかを追究した一冊である。

著者は、地球平面説の信奉者やワクチン忌避派の人々と直接対話を重ねる。その過程で浮かび上がってくるのは、科学を否定する姿勢が決して「無知」や「愚かさ」だけから生まれるのではないという事実だ。論理を尽くした説明がなぜ通じないかといえば、彼らは「事実より自分が属するコミュニティの価値観」を優先しているからであり、そこにはアイデンティティや社会的疎外感が深く関わっていると著者は見抜く。

本書の核心は、ただ証拠を提示するだけでは相手の信念を揺るがすことは難しい、という点を強調していることにある。

エビデンスを拒む人々とは、往々にして「正論の押し付け合い」になりがちだ。だが著者によれば、頭ごなしに批判したり嘲笑したりする態度は、相手の防御本能をさらに強固にし、深刻な亀裂を生む可能性があるという。むしろ、敬意をもって相手の言葉に耳を傾け、なぜそのような考えに至ったのか、その背景を探る姿勢を持つことが、対話の糸口になると説く。

さらに本書では、「論理的飛躍や誤謬を指摘すること」と「相手を嘲笑すること」はまったく別物であると強調される。自分の主張だけを押し通すのではなく、相手に「自分の話をしっかり聴いてもらえている」という安心感を与えることで、相手が身構えなくなり、はじめてエビデンスに耳を傾ける土壌ができるのだ。

本書の中で、著者は様々な科学否定論者と実際に対話を行い、根気強く傾聴の姿勢を示すことで、相互理解を達成する瞬間を見せてくれる。こうしたプロセスを克明に描いている点こそ、本書の大きな魅力である。

科学否定論の極端な事例を追体験することで、事実と感情をどう両立させ、互いの納得につなげるかが浮き彫りになる。読者は、否定論者を一方的に糾弾するのでなく、誠実な対話を重ねることの重要性を痛感させられるだろう。

「誠実な対話」を重んじる姿勢は、ビジネスの場でも同様に求められる。急速に変化する経済環境では、エビデンスに基づいた情報収集と意思決定が欠かせない。だが同時に、多様なバックグラウンドや価値観をもつ人々の声に耳を傾け、対立ではなく合意形成を目指すプロセスも重要だ。

本書を通じて、証拠を拒む人たちと向き合う難しさを学ぶことは、組織運営やチームマネジメントにも示唆を与えてくれる。読み終えたときには、相手の思考背景を丁寧に理解しようとすることが、いかに大きな成果につながるかを改めて実感できるはずだ。

 

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