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外国語を学ぶことの真の意味とは? 『ことばと思考』【書評】

2025年04月02日 公開
2025年06月03日 更新

大村壮太(作家)

言葉と思考

日々、多忙なビジネスパーソン。限られた時間の中で、いかに効率良く知識や教養を身につけるかは、常に頭を悩ませる問題だろう。本連載では、そんな悩みを抱えるビジネスパーソンに、スキル向上に役立つ書籍を厳選してご紹介する。今回は、今井むつみ著『ことばと思考』(岩波書店)を取り上げる。

 

『ことばと思考』

ことばと思考

グローバルな環境で活躍したいと願うビジネスパーソンは多いだろう。TOEICのスコアを上げ、国際的なワーキンググループに入れてもらおうと考える人も少なくない。

しかし、言語を学ぶ真の意味は、単に英単語や文法を身につけることではない。本質は、異なる思考の体系を架橋し、「日本語」の世界と「外国語」の世界を翻訳する力を養うことにある。まさに言語を通じて思考を広げる行為だと言ってよいだろう。

本書は、言葉が思考や認識にどう影響を与えるのかを、認知心理学の観点から解き明かす一冊である。ここでキーワードとなるのが、サピア=ウォーフ仮説だ。「言語が人の認識と思考のあり方を決定づける」というこの説は、言語的差異が乗り越えられない認識上の断絶を生むという極端な見解を含んでいる。

著者は、この仮説を踏まえつつ、色の区別やモノの数え方、動詞の作り方、可算・不可算、ジェンダーなど、言語学で取り上げられやすい具体例を用いて、言語が生む認識の違いを鮮やかに示している。

例えば、「走る」という動詞のバリエーションが7つもあるオランダ語では、走る動作に対しきめ細やかな概念が付与される。一方、日本語でその差異を表現する際には、どうしても1~2個の動詞に頼らざるを得ない。こうした差異は、話者が世界をどう切り取って捉えるかという認識にも影響を及ぼすわけだ。

しかし著者は同時に、言語にはある程度の普遍性が存在するとも指摘する。例えば、生活に必要な単語「基礎語」の多くが、どんな言語でも単一の形態素をもつ単語として扱われる場合が多いのは興味深い。動植物などの名称をめぐる共通性は、どの文化・言語圏でも、人間が「自然に」世界を認識するときに共通点が多いことを示している。

では、外国語を学ぶとはどういうことか。それは、言語の普遍性を下敷きにしながら、認識や思考の相違を探り、その断絶を架橋する行為にほかならない。

英語学習でよくつまずくのは、母語との違いが明確な文法よりも、「母語と似ているようで実は違う」表現やニュアンスであるという経験はないだろうか。まさに、そうした微妙な差異を理解し、異なる仕方で世界を認識する力を身につけることが、言語学習の本質なのだと本書は教えてくれる。

ビジネスの場において必要とされる傾聴力やコミュニケーション能力の本質も、他者の論理や感覚に寄り添い、自分との共通点を探し出して対話の橋をかけることだ。

本書は、ことばと思考、そして認識の相互作用を通して、私たちが抱える「違い」の正体を解明してみせる。それは単なる言語学の話題を超え、人間同士が理解し合うための方法論を示してくれるものだといえるだろう。読後には、「外国語を学ぶ」とは同時に「異なる世界観を獲得すること」であり、それが私たちの思考をいかに広げるのかを、改めて考えさせられるに違いない。

 

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