2012年10月31日 公開
2022年12月07日 更新
誰しも仕事をしていれば、前向きな気持ちで取り組みにくい仕事があるものだ。中山氏も、サントリーの医薬品子会社の社長時代に、販売した医薬品の自主回収、という苦い体験をしている。
「市場に出回っている薬の一部が、本来の品質を下回っていることが明らかになったのです。具体的には、高い温度の場所に放置すると薬の量が減ってしまうので、『温度の高い場所には置かないでください』と説明書には書かれてあったのですが、現実にはそう管理されていなかった。
そうである以上、自主回収するしかないと決意したのです。ただ、この対応によって会社の機能が一時ストップしてしまった。対応に追われる社員の士気も下がりました」
もっとも、中山氏は、この回収業務に対しても、前向きな気持ちをもち続けられたという。その理由は、「自分は何のためにこの仕事をしているのか」という志をつねに意識したからだ。
「われわれ医薬品メーカーの人間は、『患者さんの役に立つため』に働いています。その原点に立ち返れば、本来の効き目が発揮できない可能性のある薬を回収するというネガティブな仕事も、『患者さんにマイナスを与えないために必要な仕事』ととらえられる。
そう考えると、『少しでも早く回収しよう』『この際、ほかの薬も大丈夫かどうかチェックしよう』とよりよい成果をあげたいというモチベーションがわいてきました」
この例に限らず、中山氏は、何か悩んだり、迷ったりしたときには、「志に立ち返ること」を心がけている。
「そうすると、表面的な事象だけをみていると気づかないことに気づくことができます。
たとえば、自分の意に沿わない異動をした時。MR(営業)から支援業務が中心の間接部門に異動すると、『MRのままでいたかった』などと心が折れてしまう人がいますが、『そもそもなぜこの仕事をしているか』を考えれば、捉え方が変わってきます。
その志が、『薬で人を助けたい』ということなら、どこにいてもその目的は達成できる。MRの活動をバックアップしてくれる存在があるからこそ、MRも薬を普及させることができるわけですから。
こういう見方をすれば、『違う角度から患者さんを支えるという新たなチャレンジなのではないか』とも捉えられるわけです」
中山氏が志に立ち返ることの大切さに気づいたきっかけのひとつは、53歳のときに、サントリーファーマが第一製薬に買収されたことで、第一製薬に移籍したことだ。
「当初、私は、サントリーに残るつもりでした。第一側がほしがっていた研究員や技術者ではなく、管理部門の人間だったからです。ただ、ある人に『あなたもいかなければ、移籍する研究員たちは納得しない』といわれて、はっと気がついたのです。
管理部門だから残るというのは、20年以上慣れ親しんだ会社から新天地にいくのを避けたいという言い訳にすぎない、と。そうした気づきと責任感が移籍を決意した理由の1つなのですが、同時に思ったのが、『患者さんの役に立つ』という志でした。
その志は、どの医薬品メーカーにいこうが達成できるんですよね。そう考えると、新天地に移籍することに抵抗がなくなりました」
更新:11月25日 00:05