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“6割の論理”と“4割の感性”で行動…答えのない時代の「ロジカルシンキング」術

2012年10月10日 公開
2022年11月30日 更新

澤田秀雄(H.I.S会長)

澤田秀雄氏

格安航空券で日本の旅行を一変させたH.I.S.や、35年ぶりに航空業界に新規参入を果たしたスカイマーク――。

旅行業を皮切りに、航空業、金融業、テーマパーク運営など、澤田秀雄氏は次々と新たなビジネスに挑戦し、成功してきている。なぜ、澤田氏にはそれが可能なのか。その根幹にある思考法をお聞きした。<取材・構成:金澤匠/写真:長谷川博一>

※本稿は、『THE21』2012年10月号総力特集より 、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

問題解決のポイントは数字をみればわかる

「ビジネスの競争は、パワーとパワーのぶつかり合いです。相手が自分と同じくらい、あるいは自分よりも大きければ、まともにぶつかっても勝てません。そこで、成長している市場や自分の得意分野に、ヒト・モノ・カネを集中させる必要があります。

戦力を集中させることで、自分よりも大きな相手に勝つことができる。ランチェスター戦略の『弱者の戦略』ですね。集中すべきところを選択するということは、思い切って捨てるところも決断しなければなりません。

もう1つ重要なのは、スピードです。速く決断し、速く行動しなければ、勝つことはできません。もし判断を間違えたとしても、スピードが速ければ結果も早く現われますから、仮説の修正がすぐにできます。

一方で、バランスも重要です。バランスというと、集中と逆のことをいっているように思われるかもしれませんが、こういう意味です。たとえば、すごくいい商品を開発したとしましょう。

値段も適切だし、広告宣伝も完壁。でも、それを売る販売店の店員の数が足りていなければ、いくらお客様が来店してくれても、対応しきれないということが起こります。

すると、業績は上がらない。あるいは、店舗には十分な人数の店員がいて、商品もいいし、値段も適切だとしても、広告宣伝ができていないために、お客様がきてくれないということもあります。

つまり、さまざまな要素のうち、『いちばん低いところに業績が合ってくる』ということです。だから、業績を引き下げる要素が出てこないように、バランスをとるべきなのです。

とくに会社が大きくなってくると、バランスをとることが難しくなってきます。どこが問題のネックになっているのかを素早く見極めて、対応策を講じることが重要です」

――どの業界であっても、集中とスピード、そしてバランスが成功のカギになると澤田氏はいう。では、集中するべきところや底上げするべきポイントを発見するためには、どのように仮説を立てればよいのだろうか。

「それには、数字を毎日みることです。数字は嘘をつきません。業績が上がったら上がった理由が、下がったら下がった理由が、数字に表われます。

もちろん、数字をつくっているのは人間ですから、間違えることもありますし、ときには故意に操作することもあるかもしれません。でも、毎日数字をみていれば、おかしなところは気がつくものですね。

H.I.S.の支店長にも、その支店のさまざまな数字をみて、業績を上げていくためにどのような施策をしていくかを判断することが求められます。数字が読めないと、業績を伸ばしていくことはできないでしょう」

「『未来の数字』というのは、将来の業績を予測するための指標になる数字のことです。H.I.S.でいえば、航空券やホテルの予約数などが『未来の数字』です。

ハウステンボスでも、周辺のホテルの予約率など、将来の業績を予測するための指標がいくつかあります。こういった指標をみることで将来の業績が予測できるわけですが、『過去の数字』とは違って、確定している数字ではありません。

『このままだと、これから業績が下がるな』ということがわかれば、対策を打つことで、業績を下げないように、あるいは上げるようにできるわけです」

 

万年赤字事業を黒字化した発想

――目下のところ、澤田氏がとくに力を入れているのが、長崎県佐世保市にあるハウステンボスだ。開園以来赤字続きで閉園間際だったこのテーマパークを、澤田氏は社長に就任してわずか1年で黒字化させた。そこで発揮された「仮説力」とは、どのようなものだったのか。

「ハウステンボスは、黒字化するのが非常に難しい案件でした。黒字にならない体質だったからです。テーマパーク運営の大手の方に聞くと、テーマパークが成立するには、大きく分けて3つの要素が必要だということでした。

1つ目は商圏の大きさ、2つ目はアクセスのよさ、3つ目はブランド力です。私が社長になる前のハウステンボスは、このいずれにも当てはまりませんでした。長崎県という小さな商圏に立地し、しかも長崎空港からクルマで約 50分、長崎市内からは約1時間20分かかります。

また、羽田空港や成田空港と違い、長崎空港に就航する国際線はわずか。しかも、いまでこそハウステンボスにもブランド力がついてきましたが、当時はあまりありませんでした。

そこで、私が真っ先にしたことは、商圏に合っていない規模の縮小です。ハウステンボスの敷地は広大で、東京ディズニーリゾートの1.6倍もの面積がありました。東京ディズニーリゾートには巨大な人口を抱える関東という商圏があり、しかも羽田空港や成田空港には国際線も多く就航しています。

しかし、ハウステンボスには、巨大な商圏やアクセスのよさがない。論理的に考えて、それほど巨大なテーマパークは必要なかったのです。そこで、敷地の3分の1を『フリーゾーン(無料解放区)』にしました。これでコストが2割ほど削減できました」

――原則に立ち返ることで、規模が大きすぎることがクリティカル(致命的)な問題点だとみてとり、それを改善することで、黒字化への道筋をつけた。

とはいえ、それだけで事業が成功するものではない。自ら操り返し現場に足を運んでいることも、大きな成功要因だ。

「旅行業界については経験も豊富ですから、直接現場に足を運ばなくても、ある程度のことはわかります。しかし、テーマパークの経営については経験がありませんでしたから、現場をみて回る必要があるのです。

現場では『お客様目線』で、つまり、お客様が感動するかどうかを基準にして、サービスやレストランの味など、あらゆることをみています。ペンキがはげていないか、場内の案内板はわかりやすいか、ゴミは落ちていないかなど、お客様が不満に感じるだろうことすべてに目を光らせ、いたらない点が見つかれば、すぐに改善を指示しています。

指示したことが実行されているかも、現場に足を運ばなければわかりません。また、実行されていないとすれば、それは指示の仕方の問題なのか、現場を担当する人数の問題なのか、あるいは予算の問題なのか、といったこともわかりません。わからなければ、手の打ちようがありません」

 

検証を繰り返して「勘」が磨かれる

――現実には、まったく想定していなかったことが起こることもある。そんな事態にも、ビジネスでは対応しなければならない。そんなとき、論理思考はどのように役に立つのだろうか。

「『未来の数字』をみることで将来の業績が予測できるわけですが、現実はそのとおりにはいきません。たとえば、9・11が起こるなどということは、誰も予想できなかったでしょう。

9・11のあと、海外旅行業界は大きな影響を受けました。入っていたはずの予約がどんどんキャンセルされていくのです。この影響がどこまでおよぶのかは、それまで経験がなかったことですから、論理的に考えてもわかりません。

しかし、とるべき対応策を判断することはできました。需給のバランスで価格が決まるので、需要が減れば価格が下がります。ですから、価格が下がる方面をいち早く商品化していくべきだと考えました」

――もちろん澤田氏も、経験や、経験にもとづく勘で判断をすることも多い。「6割は論理、4割は感性」だそうだ。ただし、勘で判断をするといっても、当てずっぽうで仕事をするということではない。

澤田氏の話を聞いていると、勘のなかにも、ある種の論理があるように思われる。

「社会状況の変化による影響を判断するには、勘に頼らざるを得ないところがあります。ただし、その勘が正しかったかどうかを検証するべきです。

勘による判断と現実とがずれれば、自分の勘が間違っていたということ。そのときは、自分の考え方を修正する必要があります。これを繰り返していくことで、勘も磨かれていくのではないでしょうか」

また、大きな視野をもつことも、正しい判断をする能力を身につけるために必要だと澤田氏は指摘する。

「とくに若い人には、大きな視野で物事をみてもらいたいと思います。インターネットで情報が集められる時代ですが、現場にいってはじめて感じられる空気や感覚は、何にも代えられない貴重な体験となります。それがビジネスにも活きるでしょう。

私は先日トルコにいきましたが、10年前にいったトルコとは全然違っていました。中東一の大国になるだろうという感じがする。そういうことを肌で感じることが、感性を磨くことにつながっているのではないかと思います」

 

【 論理的であるためのポイント3 】

[1]つねに数字をみること

数字は嘘をつかない。どこに集中するべきか、どこが業績を伸ばすうえでのネックになっているのかなど、すべては数字に表われる。とくに、将来の業績の先行指標になる数字については、それをもとにとるべき施策を考えることになるので、きわめて重要。

[2]原則に立ち返ること

ハウステンボスが抱えていた本質的な問題は、テーマパーク運営の原則に立ち返ることで発見できた。9・11後の混乱のなかでも、需給バランスで価格が決まるという原則から、とるべき施策がみえた。冷静に、原則に立ち返ることで、論理的な結論がみえてくる。

[3]現場に立って感性を磨くこと

経験を積めば、論理が血肉化されて感性が磨かれるが、そのためには現場に立つことが必須。また、感性で判断したことが正しかったかどうかを検証し、間違っていれば考え方を変えることも重要だ。


【PROFILE】
澤田秀雄(〔株〕エイチ・アイ・エス会長、ハウステンボス〔株〕代表取締役社長)

1951年、大阪府生まれ。73年、旧西ドイツのマインツ大学経済学部に留学。留学中に欧州、中東、アフリカ、南米、アジアなど50カ国以上を旅行する。80年、〔株〕インターナショナルツアーズ(現〔株〕エイチ・アイ・エス)を設立して急成長させ、95年には株式を店頭公開。96年、スカイマークエアラインズ〔株〕(現スカイマーク〔株〕)を設立。98年に、35年ぶりの国内航空業界への新規参入を果たす。2004年、〔株〕エイチ・アイ・エス会長に就任。同年、〔株〕エイチ・アイ・エスが東証1部に上場。10年、ハウステンボス〔株〕代表取締役社長に就任し、同社の再建に成功。 

 

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