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ミドルは「無理してAIに習熟しなくていい」 管理職に残されたもう一つの道

2025年05月26日 公開

樋口恭介(SF作家/ITコンサルタント)

これまでは「人間にしかできない」とされてきた仕事がAIに奪われ、人間が労働の場を失う──そんなSFじみた筋書きが、ChatGPTをはじめとするAIの飛躍的な発展によって、今まさに現実になろうとしている。

本連載では、ITコンサルタントとして一般企業に勤めながらSF作家としても活躍する樋口恭介氏に、そんな時代に淘汰されることなく生き残る人材・生き残る組織のあり方を聞く。

※本稿は、『THE21』2024年8月号掲載記事より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

AIと相容れないミドルに残された「もう一つの道」

ミドルがAIに習熟しなくてもいい理由

生成AIが台頭してきた時代の「シン・人材論」を語ってきた本連載も、ついに最終回となりました。これまで、AI時代を生き残る人材は「妄想力」「好奇心」「人間関係構築力」の3つを備えているとして、それを身につける方法などを述べてきましたが......読者の中には「これは自分にはムリ」と思った人もいるかもしれません。

ですが、実は他にもう1つ、生き残れる人材のカタチがあります。それは「組織のAIトランスフォーメーションを後押しできるマネジャー」です。特に40~50代のミドル世代なら、こちらのほうが目指しやすいという場合が多いはず。ぜひ参考にしてみてください。

まず、ミドルの方々にお伝えしておきたいのは、無理して生成AIやAGI(汎用人工知能)に習熟しなくてもいい、ということです。

理由は主に2つ。1つは、歳を取れば取るほどアンラーンが難しくなっていくからです。

アンラーンとは、時代遅れになってしまった仕事の仕方や考え方を捨て去ること。これができないと、日々変化する社会でビジネスの最前線に立ち続けることは難しくなります。

しかし、アタマではわかっていても、人間は自分の記憶や経験、価値観に依存する生き物です。成功体験から導き出してきた長年の「やり方」は、簡単には捨てられません。

実際、この連載を読んではいても、内心「この歳になって、今さら生成AIを一から学ぶ気にはなれない」という人も少なくないはずです。

「今のスキルでどうにかリタイアまで」なんて本音を抱えながら無理して学んでも、いい方向に転ぶとは思えません。それを乗り越えてどうにか生成AIに習熟しても、AIネイティブの若者と同じ土俵ではまず勝てないでしょう。

こう言うと希望がないようですが、別に悲観することではないのです。なぜなら今のミドルが現役のうちは、生成AIが会社の中枢まで入り込んで仕事を奪い尽くす、なんてことは起こらないから。これこそ、ミドルがAIに習熟しなくていいもう1つの理由です。

AIの進化の速度はすさまじく、少なくとも技術的には、業務の全自動化さえ可能にするようなAGIが今年中にも生まれることでしょう。しかし、人間にとってアンラーンが容易でないように、会社もそう簡単にはアンラーンできないのです。

実際、一般の会社員でも一人1台ノートPCを貸与される時代が来るまでに、パソコンの誕生から20年はかかりました。

同様に、AIが完全に普及するまでにも、もう10~20年かかるはずです。そう考えると、ミドルが現役のうちに「生成AIが使えなくて失職」なんてまずあり得ないことがわかります。

 

若手社員の防波堤としてリカバリーを引き受ける

ただ、いくら完全普及に10年以上かかるとはいえ、今後あらゆる会社組織がAIトランスフォーメーションを迫られることはもう目に見えています。

そのためには、AIネイティブの若者をたくさん採用し、彼らを中心にして、早いうちから変革に着手することが不可欠です。

しかし、残念ながら多くの会社では、アンラーンできないミドルたちがそれに頑強に抵抗するでしょう。

すると、次第に若い人たちも会社に希望を持てなくなり、創造性をすり減らしながら、つぶされていってしまいます。そうなれば、もうその会社に未来はありません。

そして、そんな事態を防ぐために重要となる存在こそ、先述した「AIトランスフォーメーションの意義を理解し、後押しできるマネジャー」なのです。

実務は若者に任せ、細かく口を出さないながらも責任は取る。若い人たちが存分に強みを発揮できるよう、言わば防波堤となって同世代を説得する──端的に言えばそんな役回りです。

この役目なら、AIについて最低限の素養があれば務まります。生半可な努力ではAIと相容れないだろう大半のミドルは、こちらを目指すべきでしょう。

この役回りをこなすには、失敗のダメージを軽減するバックアップ体制を整える力も必要です。例えば、業務プロセスに試しにAIを導入してみたものの、うまくいかず遅延が発生した場合。こんなときも、旧来の業務プロセスに精通する人々をバックに集められていれば、ある程度はリカバリーできます。

バックアップ役が頼もしければ、若者もいっそう挑戦しやすくなり、好循環が生まれます。今後は、こうした黒子のような役割を果たせるマネジャーが求められていくのです。

手塩にかけて面倒を見た若者が、自分の支援のもと見事変革を成したときには、きっと今までにない喜びを味わえるはず。

ミドルにとって、このように「自分の力で新たな成功をつかむこと」が難しくなりつつあるのを認め、役割の変化を受け入れることは、AIとは関係なく、今後のキャリアを考えるうえで大変重要なステップです。

 

「異物」として若者と対話・交流する

こうした人材になるには、社内の若い人と積極的に対話・交流することも欠かせません。

これにも2つの理由があります。1つは、ミドル世代は若者の視野を広げることができる、「異物」的な存在だからです。

生成AIやLLM(大規模言語モデル)はあらゆる分野にまたがる大量の情報を保持していますが、適切な言葉で欲しい情報をうまく引き出せないと、十分に活用できません。つまり、多角的な視点を持つことが、AIの活用には必要なのです。

そのためには、自分にはない視座からの情報に触れ続けることが不可欠となります。つまり若者にとっては、ミドルこそ自分にない感性や経験をもとに未知の情報をもたらしてくれる、ありがたい「異物」なのです。

ただし、だからといって古い常識で「説教」をしてしまうのはもちろんNG。そんなことをすればすぐ嫌われて、その先にたどり着けません。互いが持つ知識や価値観がまったく違うことを前提に、学び合うような意識で対話を重ねてください。

AIが台頭する時代のマネジャー像

 

「反実仮想」を吹き飛ばし、後悔のない人生を

ミドルこそ若手と積極的に交流すべし

若者と積極的に対話・交流することを勧めるもう一つの理由は、ミドル特有の「反実仮想」を吹き飛ばすためです。

反実仮想とは「もしあのときこうしていたら」と、現実とは異なる選択をしていた場合の未来を想起することを指します。

厄介なことに、人間は歳を取るごとにこの反実仮想に浸る時間が長くなり、人生に対する前向きさが減退していく傾向にあるのです。僕が一番好きな国産SF小説『クォンタム・ファミリーズ』(東浩紀著/河出文庫)でも、主人公の葦船往人がそのことを印象深く語っています。

彼によれば、その分岐点は35歳。それまでは無数の選択肢から「何をするか」を前向きに選びながら人生を送れる一方、その歳を過ぎると今度は「しなかったこと」に対して、「こちらの道を選んでいたら」という反実仮想に沈む時間が増えるのだそうです。

そうなると、あのときああしていたら、という過去の亡霊に囚われだし、次第に自分の人生を切り拓いていく気概も失われていくのだといいます。読者の皆さんはいかがでしょうか。

実は、こうした負の思考のループから抜け出すための最適な手段こそ、若者との対話です。自分とはまるで違う考えを持った存在と交流していると、自分自身ではなく他人に意識が向くようになります。

そうすることで自分を客観視できるようになり、自分の能力や適性の変化も素直に受け入れて、心穏やかに別の道を歩めるようになるのです。ミドルにとっても、若者は「ありがたい異物」となる存在なわけですね。

現実に目を向け、自分に今できることを素直に考え始めれば、きっと「組織の変革を陰から後押しする」という新たな役割にも、自然と身が入るようになるでしょう。反実仮想を吹き飛ばすことは、AI時代に生き残る人材になる第一歩であり、同時に後悔しない人生を歩むための第一歩でもあるのです。

反実仮想を客観視できるSF小説

 

【樋口恭介(ひぐち・きょうすけ)】
SF作家/ITコンサルタント。1989年生まれ、岐阜県出身。早稲田大学文学部を卒業後、外資系コンサルティングファームに勤務。2017年、在職のまま『構造素子』で第5回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞し作家デビュー。20年からは「SFを社会に実装する」スタートアップ・アノンにも参画し、同社のメディア「Anon Press」の運営・編集にも携わる。23年からは東京大学大学院客員准教授。

 

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