THE21 » キャリア » 50代に必要な語彙力とは? 池上彰が指摘する「教養の乏しさが露呈する振舞い」

50代に必要な語彙力とは? 池上彰が指摘する「教養の乏しさが露呈する振舞い」

2025年03月19日 公開
2025年03月19日 更新

池上彰(ジャーナリスト)

50代の語彙力

50代に求められる教養とは? ジャーナリストの池上彰氏は、年齢を重ねるごとに他人から間違いを指摘してもらえなくなることに警笛を鳴らす。ご著書『50歳から何を学ぶか』より、50代から意識すべき振舞いについて紹介する。

※本稿は『50歳から何を学ぶか』(PHPビジネス新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

言語化と語彙力

率直に言えば、教養がある人は会話にも教養がにじみ出てくるものです。特に分かりやすいのが言葉遣いです。50代になっても若い頃のまま、「マジで」「っていうか」なんて言っていると、「年甲斐もない言葉遣いだな」と思われてしまいます。

「食べれない」「出れない」などの「ら抜き言葉」も、中高年に差し掛かってきた世代の人が人前で使うのは、情けない物言いになってしまいます。

若い人の間で流行っている言葉を、知ったかぶって使うのもやめたほうがいいでしょう。「ヤバい」「エグい」という言葉は、今の若者は「すごく良い」という意味で使うようですが、いい大人が「いやあ、この間は、マジでエグかった」と言うと、聞いているこちらのほうが恥ずかしくなる、という経験はあなたもあるのではないでしょうか。

同時に、「これは際立って良いものである」ということを表現する語彙や表現力がない。つまり、教養がないことを相手に伝えているようなものでもあります。

これも最近、耳にする言葉ですが「普通においしい」というような表現も、大人が使う言葉としてはちょっと引っ掛かります。何がどう良いのか、どの点が素敵なのか。なぜほかとは違うのか。対象をしっかり観察して、言語化できるような表現能力や語彙力をつける必要がある。これも教養の範囲と言えそうです。

つまり、その人が使う言葉がどういうものかによって、教養格差が露呈してしまうのです。

を見ない若い人が増えたせいか、「イモトアヤコさんが......」と言っても反応が薄
い。ということで、このギャグが使えなくなってしまいました。

 

間違っても指摘してもらえない

上司や先輩など、目上の人が言葉の使い方を間違っていることに気づくことがあっても、なかなか指摘しづらいものです。ということは、逆に言えば自分の地位が上がったり、部下を持つ立場になったりすると、間違いを指摘してもらえない、ということでもあります。

以前、ある学校の校長先生が生徒に「にんげん、到る処、青山あり」と言っていました。これは正しくは「じんかん(人間)」と読みます。「骨を埋める場所はどこにでもある」という意味から転じて、「大志を実現するためには、故郷にこだわらず世界を舞台に活躍すべきだ」というメッセージになるの
ですが、読み方を間違えてしまってはいかにも締まりません。

おそらく、校長先生に「『にんげん』ではなくて『じんかん』ですよ」と教える人がいなかったのでし
ょう。「人が死んで骨を埋める地」を意味する青山(せいざん)を「あおやま」と読んでしまうと「青山霊園」になる......というのは少し高度なギャグでしょうか。

余談ですが、ギャグというのは聞いている人の間にある程度の共通認識がないと通用しません。講演などで、以前は「私は世界90の国と地域に行きました。でもイモトアヤコさんは100を超えているそうです」と言うと、会場がどっと笑ってくれました。番組「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ系)で、イモトアヤコさんが世界中を回っていることをみんな知っていたからです。

しかし最近は、テレビを見ない若い人が増えたせいか、「イモトアヤコさんが......」と言っても反応が薄い。ということで、このギャグが使えなくなってしまいました。

 

陰謀論に巻き込まれる人

最近、厄介なのは何か知りたいと思った時に、本を参考にするのではなく、まずはインターネットで調べる人が多くなったことです。もちろん手軽に、さまざまな情報が出てくるから便利であることは間違いありません。

しかしそこには落とし穴もあります。ネット検索では情報がずらっと出てきてしまうため、それを精査する能力が必要になってくるからです。

特に問題になっているのは、陰謀論や偏った情報を広める動画を信じ込んでしまうという傾向です。「誰も知らない〇〇」「テレビや新聞が報じない△△」といった触れ込みの動画を見て、「ほかの人が知らない情報を、自分は知ってしまった!」と刺激と優越感を得てしまうのです。しかも悪いことに、一度その手の動画をクリックすると、同じような動画が次々に再生されるので、導かれるように「その世界」に入り込んでしまうのです。

エコーチェンバー、つまり狭い部屋の中で音が反響するように、ネットという本来は開かれた情報環境の中に、アルゴリズムによって閉ざされた環境が生じます。そして一定の方向の情報だけが反響し続けている状態に陥ると、ほかの意見や情報が耳や目に入ってきません。

次々に類似の情報が表示されるので「こうした意見が一定程度、世間には存在するんだ」と思ってしまうわけですが、実はアルゴリズムで似たような情報が表示されているだけなのです。「新聞やテレビではこんな情報は教えてくれない!」というのがネット情報の売りになることも多いのですが、正しさは担保されているわけではありません。

こうした情報にからめとられてしまうと、次第に何が正しい情報で、間違っているのかの判断ができなくなってしまいます。特にワクチンを過剰に危険視したり、「がんという病気は存在しない」「やたら薬を勧める現代医療は、製薬会社の陰謀の結果である」といった医療に関係する陰謀論にはまってしまったりすると、自分や家族の寿命に影響を与えかねません。

どこかの段階で物事を論理的に、客観的に判断する力を身につけておかないと、こうした動画に騙されてしまうことになります。

そうならないためには、「この動画を見ればすべてがわかる!」というようなことを訴える動画はまず疑ってかかること。ネットで情報を得るにしても、新聞社が配信しているものを選びましょう、というごく常識的なアドバイスをするほかありません。

著者紹介

池上彰(いけがみあきら)

ジャーナリスト

1950年生まれ。慶應義塾大学卒業後、1973年にNHK入局。1994年からは11年にわたりニュース番組のキャスターとして「週刊こどもニュース」に出演。2005年よりフリーのジャーナリストとして執筆活動を続けながら、テレビ番組などでニュースをわかりやすく解説し、幅広い人気を得ている。また、5つの大学で教鞭をとる。『池上彰の未来予測 After 2040』(主婦の友社)など著書多数。

THE21 購入

2025年3月号

THE21 2025年3月号

発売日:2025年02月06日
価格(税込):780円

関連記事

編集部のおすすめ

池上彰氏が予測する「10年後の未来」 給料が上昇する人・しない人を分けるものは?

池上彰(ジャーナリスト)

才能は必要ない...頭のなかを「すぐ言語化」できる人の習慣

荒木俊哉([株]電通 コピーライター)

ひろゆき「50代で伸びるのは、仕事に思い入れのない人です」

西村博之(実業家)