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「人間にしかできない仕事」は何か? SF化する社会で生き残るための3つのスキル

2025年03月24日 公開
2025年03月28日 更新

樋口恭介(SF作家/ITコンサルタント)

AI

これまでは「人間にしかできない」とされてきた仕事がAIに奪われ、人間が労働の場を失う――そんなSFじみた筋書きが、ChatGPTをはじめとするAIの飛躍的な発展によって、今まさに現実になろうとしている。

本連載では、ITコンサルタントとして一般企業に勤めながらSF作家としても活躍する樋口恭介氏に、そんな時代に淘汰されることなく生き残る人材・生き残る組織のあり方を聞く。(取材・構成:杉山直隆)

※本稿は、『THE21』2024年3月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

人間は生まれながらに「サイボーグ」である

生成AI登場までの人間と機械

自己紹介の際によく言われるのが、「SF作家とITコンサルタントなんて、両極端の仕事を両立しているんですね」といったひと言です。しかし、僕の中ではSFとコンサルティングはとても近しく、密接に結びつくものだと考えています。

というのも、SFを生み出す想像力は、コンサルティングやビジネスに大変役立つものだからです。そもそも僕は「コンサルティングはSF的であるべきだ」とさえ感じています。

本連載では、SF作家とコンサルタントという2つの視点から、これから来る「AI時代」に求められるビジネススキルや組織のあり方について、お話ししていきたいと思います。 

まず扱いたいのは「なぜAIの発展が、組織や人材に変革を迫るのか」ということです。

生成AIの登場により、組織や人材に求められるスキルが変化する、といったことは各所で盛んに言われているものの、その理由については曖昧なことも少なくありません。しかし、それでは何を言われたところで納得感が得られませんよね。

そこで、より確かな理解のために、まずこの理由から、しっかり述べていくことにします。

まず、有史以来、人間社会は「人間ドリブン」のもと発展してきました。人間の優れた身体能力と情報処理能力を基盤に、何をするにも「人間の力」を使うという人体中心主義が、考え方の軸だったわけです。

ただ、その歴史の中で、人類は徐々に「人体以外のツール」に頼ることも覚えていきます。エポックメイキングは「数字の発明」と「文字の発明」によって、世界のあらゆる物事を数字や文字で表し、共有できるようになったことでしょう。

それにより、時間認識能力をアウトソーシングできる「時計」が生まれ、距離や長さの算出能力をアウトソーシングできる「物差し・巻尺」といったものも開発されました。仕事も格段に精密なものになり、一人ひとりに仕事を割り振って、それを組織的に管理することも可能になったのです。

近現代では、食料や衣服の生産を農業機械や工業機械に、移動を自動車や飛行機に、と物理的な行動は軒並みアウトソーシングされています。時代を遡れば人間の身体が行なっていたことを、すっかり機械に移管している。こう考えると、近現代の人間は生まれながらに「サイボーグ」だと表現することもできるように思われます。

ただ、それでも大量の自然言語処理や画像処理、企画力やコミュニケーション力などの領域では、機械は――コンピュータですら――長らく人間の汎用性に勝てませんでした。逆に言えば、そうした作業が必要な仕事こそ、人間に残された「聖域」だったのです。

 

人間だけの抽象情報処理もアウトソーシングが可能に

ところが今、生成AIの飛躍的な発展が、そんな常識を覆そうとしています。ChatGPTをはじめとするAIが、人間の領域だったはずの言語処理能力で、ついに人間を上回ろうとしているからです。

こう言うと、きっと「AIは言語の並びを予測しているだけで、人間のように理解できているわけではない」という反論が出てくるでしょう。しかし正直なところ、人間の言語処理だって、実際には今のAIとほぼ変わらず、言語の連なりを確率的に処理しているにすぎないように思えてなりません。

ChatGPTをはじめとする生成AIは、膨大な量の書き言葉や話し言葉を学習し、それをもとに「ある言葉の後にどんな言葉が来るか、ある一文の後に次の一文がどう来るか」といったことを予測しています。これに対し、読者の方々は自信をもって「自分はそうではない」と言うことができるでしょうか。

結局人間だって、各人が蓄積した言語コーパス(言葉のデータベース)の中から、その時々で最も妥当に思えるパターンを取り出しているにすぎない。僕は真剣にそう考えています。

であれば、標準的な人間を超える2兆以上の言語パラメータを持ち、そこから適切な言葉をスピーディに、主観や思い込みに邪魔されることなく取り出す能力も備えたChatGPTは、言葉を扱う能力では、すでに人間を上回ってしまっていると考えるのが自然です。

こうなると、人間の聖域の大部分を占めていた自然言語処理も、近く機械(生成AI)にアウトソーシングすることになっていくでしょう。

加えて、早いと半年後にはもう、AGI(汎用人工知能)が市場に展開されると言われています。ここで言うAGIとは、言語に加えて音声情報や視覚情報の処理能力まで備え、かつ長期的な記憶機能まで持った人工知能。まさに「世界のSF化」とでも言うべき事象が、間近に迫っています。

このAGIが本格的に運用できる水準に達し、それが普及し始めれば、論理的思考やコミュニケーションなど、ホワイトカラーの仕事とされてきた抽象的な情報処理までも、そちらに取って代わられていくでしょう。

そうなれば、人間も「人間にしかできない仕事」を再定義して、身につけるスキルの優先度を見直さないと、存在意義を失ってしまうことは自明です。

一人ひとりはもとより、旧来のホワイトカラー中心主義で設計されてきた企業の組織形態や業務プロセスなども、根本的に設計し直さなくてはならないでしょう。

これこそ、「生成AIが、人材や組織に変革を迫る」と僕が考える理由です。そのほうがベターなのではなく、そうでなければ生き残れない時代が、到来しようとしているのです。

生成AI登場以降の人間と機械

 

技術の進歩が「人間力」の重要性を高める

AI時代を生き残る人材の3スキル

では、AIには担えない、「人間にしかできない仕事」とはどんなものでしょうか。

結論から言うと、僕はそれを「AIはもちろん、他の人も考えつかないような、独自の企画や提案を考え出すこと」と「他人と親密な関係を築き、それらの企画やアイデアに人を巻き込む(または巻き込んでもらう)こと」だと考えています。

これらの要素は、現在開発中のAGIがどれだけ進化しようと、当面「人間以上」のものにはならないでしょう。

ですが一方で、これらが「人間なら誰でもできる」ことでないことも、おわかりいただけるかと思います。私たちはAIに代替されないためのスキルを、あらためて磨いていく必要があるのです。

端的に言って、そのスキルとは「関係性構築力」「妄想力」「好奇心」の3つだと、僕は考えています。

1つ目の「関係性構築力」とは、文字通り人間関係を構築する能力のこと。いくら技術が進もうと、ビジネスで最後にものを言うのは人間同士のつながりです。そして、そうした関係性を作り出すには、相手に「この人なら」という信頼感、あえて言うなら「幻想」を抱かせる力がなくてはいけません。

それは、肉体や表情を持たないAI・AGIにはできない芸当です。やさしさや共感、そして「上手に秘密を共有する力」のような、1対1で相手と向き合うための「人間力(非常にイヤな言い方ですが)」を持つ人には、今後も「人間ならではの仕事」が巡ってくるでしょう。

その意味では、現代では嫌われがちな「接待会食」や「喫煙所コミュニケーション」といったものも、今後復権してしまうのかもしれません。

 

『すばらしい新世界』に見る「妄想」の力

厄介なのは、2つ目に挙げた「妄想力」についての理解。これは、強い主観によって自分独自のものの見方を構築する力のことを指します。「社会を変な角度から見る力」と言ってしまってもよいでしょう。

先述のように、AIには主観がありません。それは偏見や思い込みなく言葉を操れるということである一方、「独自の文脈」「尖ったアイデア」を生み出すことができない、ということでもあります。

つまり、自分だけのアウトプットを生み出す土壌となる強い主観、すなわち「世界観」を持つことこそ、AIにできないことができる人間になるために重要だということです。

SFの世界には、そうしたユニークな世界観がたくさんあります。わかりやすいのは、オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』です。

この作品が発表されたのは1932年。大量生産・大量消費社会が生まれつつあった時代です。その契機となったのが、フォードが自動車の生産工程を分業化し、まったく同じ規格の車(T型フォード)の大量生産を可能にしたことでした。

徹底的な生産管理体制によって、モノを計画的に大量生産し、そこで働く人も皆同じスケジュールで労働に勤しむ「フォーディズム」が生まれた時代です。

作中では、この大量生産・大量消費社会を極端に推し進めた世界が描かれています。使われる暦は「ポスト・フォード〇〇年」。人々は誰もが国家の管理下にあり、家族制度も解体されていて、すべての赤ん坊は「国家のもの」として工場で計画的にデザイン・生産されています。

階級も固定化されていて、赤ん坊も生産段階から「支配者層に何人、中級階層に何人、被支配者層に何人」と、計画的に振り分けられているのです。育つ場所はもちろん、持って生まれる知能すらも「生産」時点から階級ごとに分けられており、彼らが現実に不満を持つことはありません。生理的な気分の浮沈に対してさえ、政府から合法的なドラッグが定期的に配布されるという徹底ぶりです。

フォーディズムを際限なく拡張して作品世界を創造した結果、少なくとも主観的には、永続的に「幸福」を維持する国家が出来上がっていると言えます。

ハクスリーが示したこの強烈な世界観をフィルターとしてフォード以降の大量生産・大量消費社会を見直すと、世界の見え方が激変することでしょう。

そんな「少しぶっ飛びすぎているものの見方」こそ、新たなアイデアや企画を生み出すヒントであり、それらを実現するための強烈な推力です。

哲学者である千葉雅也氏の言葉を借りれば、どこか「キモい」くらいの信念を得ることが、AI発展後にも必要とされる人間になるためには欠かせません。

 

抑圧されてきた主観を解放するための「好奇心」

もっとも、世渡りがうまいビジネスパーソンほど、これまでこうした主観を「抑制」してきたはず。その方針を今から180度転換するのは、簡単なことではないでしょう。

そこで、そんな「抑圧されてきた主観」を解放するために大切なのが、3番目に挙げた「好奇心」です。好奇心とは、未知のものに興奮する力。まさにこれこそ、主観を形成するための「狂気」になり得る力です。

中には、だからと言って誰もがそんなに好き勝手なことを言い始めたら会社が円滑に回らないし、採算も取れなくなってしまう、と考える人がいるかもしれません。

しかし、誰もが主観を極力排して論理的思考によって意思決定し、統率された通りに動くことが是とされてきた従来の会社組織やビジネスプロセス、人材育成の方法は、今後AIによってコモディティ化されていきます。

有り体に言えば、そうしたスタティック(静的)に回転し続けるだけの組織や、そのために有用な人材ばかりを抱えていても、周りと差がつかない=儲からないということ。

今後ビジネスパーソンに求められるのは、AIによって回る組織に、+αのエッセンスを与えて動かしていく力なのです。

 

「本能の壊れた有機生命体」として生きるために

最近、文庫化されたことを機に、浅田彰氏の『構造と力』を久々に読みました。約40年前の名著ですが、今回述べたのと似たようなことが書かれています。

この本の冒頭で主張されるのは「人間は本能の壊れた有機生命体」というテーゼです。人間は他の生き物と異なり、プログラム(本能)で命令されたこと以上の行動をしてしまうという点で、狂った生き物である。

しかし、それこそが人間特有の本質ならば、それを抑圧するのではなく、どんどん解放することこそ、人間の本来的な生き方なのではないか──こういったことが提言されています。

まさに現代のビジネスパーソンも、本能に反して主観を解放していくことが必要なのです。

これらの「妄想力」「好奇心」「関係性構築力」を磨くには、具体的に何をすれば良いか。そして、そんな人材を活かすためには、組織をどう変革していくことが必要なのか。これらについては、次回以降で述べさせていただければと思います。

読むべき2冊

 

【樋口恭介(ひぐち・きょうすけ)】
SF作家/ITコンサルタント。1989年生まれ、岐阜県出身。早稲田大学文学部を卒業後、外資系コンサルティングファームに勤務。2017年、在職のまま『構造素子』で第5回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞し作家デビュー。20年からは「SFを社会に実装する」スタートアップ・アノンにも参画し、同社のメディア「Anon Press」の運営・編集にも携わる。23年からは東京大学大学院客員准教授。

 

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